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摩擦円(楕円)とは

2016-11-06 | 技術系情報
 タイヤの性能も数十年前のアナログ時代から比べれば、相当に進歩している。前に記したユニフォミニティの向上による振動の少なさだけでなく、本来性能たるグリップ力つまり路面との摩擦係数も向上している。昔は摩擦係数(μ)0.7程度が限界だと云われ、急制動距離や推定速度の算式に用いたものだが、最近の高性能タイヤではμ1.0に近いものもある様子だ。なお、レーシングスリックでは、μ1.4程度は十分あるらしい。

 ところで、摩擦円(もしくは楕円)と聞いて、タイヤのことだと判るあなたは、クルマのスキルが一定以上の方だろう。摩擦円とは、タイヤの前後に働く駆動(トラクション)および減速(ブレーキング)を縦軸に、ステアリング操作により生じる左右のコーナリングフォースを横軸に取った時の、それぞれの摩擦力(グリップ)の限界を表したグラフのことだ。

 このグラフから判る通り、左右のコーナリングフォースが作用していない時、前後のトラクションもしくはブレーキングのグリップは最大に働く。また、前後の駆動もしくは減速力が作用していない時、コーナリングフォースは最大に働くのだ。しかし、例えば前後の駆動もしくは減速力が作用している時、左右のコーナリングフォースは低下してしまうことも判る。つまり、タイヤの前後および左右のグリップ力の総和としては、摩擦円(楕円)の範囲を超えることはできないのだ。

 実例としては、急旋回中(クリッピングポイント付近)から直進へ向けてのフル加速時のことを記せば、タイヤにはコーナリングフォースが働いているから、その分加速時のグリップ力が低下している。だから、まったくの直進時であれば得られるトラクションの限界は低下しタイヤは空転するか、もしくはコーナリングフォース自体が低下し、駆動輪は旋回外方向へのドリフトを生じることが理解できる。これを高次に達成するため、F1マシンをはじめレーシングカーでは、被駆動輪に比べ駆動輪を圧倒的に幅広なタイヤとしているのだ。

 ところで、この摩擦円は様々な要因により、円の径が変化する。例えば乾燥路面に比べ湿潤路面では小さな径になるし、降雪もしくは氷結路面ではさらに小さくなることが経験上も理解されるところだろう。また、レーシングドライバーなど高次なスキルを有したドライバーは、タイヤに作用する荷重移動によるタイヤ接地加重の変化による摩擦円の大きさの変化を有効に利用したドライビングが行こなわれている。コーナリング手前での制動による前輪加重の増加と後輪加重の低下を利用して、ブレーキングドリフトというテクニックがある。さらに、コーナリング後半での加速時に、加速しながらの適切なステアリング操作(当て舵)とアクセルコントールにより4輪ドリフトにより、コース幅一杯を利用したスムーズに旋回円を膨らませながら加速していく。

 それと、プロドライバーはコーナーでの旋回のほぼ全域で、ほぼ一定のスキール音を鳴らせながら(つまり摩擦円の外周ぎりぎりを極めながら)走り抜けていく。これがヘタクソとなると、スキール音が続かず、極短時間のスキール音が途切れ途切れになり連続しない。これは高次にタイヤ能力を使い尽くしていないことを示す例であろう。ちょっとレベルは低いかもしれないが、類似例として時々経験するが、前を走るスポーティ車に太いタイヤを装着し、得意げに飛ばしている場合がある。こちらはノーマルタイヤのライトバンだ。煽るつもりもないが、追随すると前方のタイトコ-ナーをキュインとタイヤを鳴らして曲がって行く。こちらは必要最小限に減速し、必要最小限にステアリングをゆっくり切り込んでタイヤを鳴らすことなく、前車の真後ろに更に近づけて追随してやる。前のスポーティ車は、ビックリしたかの様に直線を急加速して離れていく。直進加速では到底敵わないから、追い掛ける気にもならないが、ヘタクソなドライバーだなーと思うのだ。

 なお、近年のレーシングカーでは、ほとんど例外なく、高速(200km以上)での空力によるダウンフォースを利用し、タイヤの接地加重を増して(つまり摩擦円径を大きく)している。そのダウンフォースの大きさは静止時加重の2倍以上、すなわちタイヤの接地加重は3倍程度まで高められている様だ。だから、そんな場面はあり得ないだろうが、高速であればトンネル天井を張り付いて走行することも可能なハズだ。しかし、200km/hを越える高速コーナーでスピンでもして、車両の前後が逆転すると、ダウンフォオースが揚力に変わり浮き上がる悲惨な事故が時々起きている。


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