修理費の高低を巡り交渉が行われるのは、ある意味宿命的な問題でもあろうかと思います。しかし、情けないタイプの同業者の中には、ただ着地さえすれば良いと思っているのかもしれませんが、余りにも低レベルな妥協を行っている姿を垣間見て情けなくなります。また、金額を「高い、高い」と繰り返すのみで、何故高いのかも問い質しもしない交渉を行っている電話での会話を聞く機会もありますが、素人じゃなんですから、プロ同士としての交渉を望みたいものだと思います。
さて、今回紹介するのは、対物事故の修理費において、相手者の修理先(元請工場:ブローカー)との折衝内容として紹介するものです。
なお、ブローカー等と云うと、中古車や宝飾品等の販売を生業としている方が思い出され、どちらかと云うとあまり良いイメージが思われないのかも知れません。しかし、それなりに節度のある方も居て、一概にブローカーだから過剰請求するとは、私は思っていません。
若干話が外れますが、ブローカーという呼称の概念を変える意味で記してみます。それは、平成8年から保険ブローカー(保険中立人)制度というのが導入されています。これは、元々欧米諸国において発展してきたシステムで、我が国ではまだまだ少数ですが、従来の保険代理店と異なるスタンスで契約者と保険会社間を媒介する訳ですが、預託金が4千万必用等、既存代理店より余程敷居の高いものなのです。
話を戻して、以下に本件交渉の流れを時系列で概要として記してみます。
1.交渉経緯
①担当アジャスターが立会を実施(02/06/17)
担当Adjの立会が実施された。工場よりRrバンパー、右Rrフェンダーの取替要請を受ける。近日中に工場見積が提示されることが打ち合わせされた。(損傷写真:添付①参照)
②工場見積が提示される(02/06/21)
総額204万円(内代車費用20万含む)という、担当Adjの予想を遙かに超える工場見積が提示された。以上の報告を聞くが、担当アジャスターの都合もあり、以後の対応についてすべて当方に引き継ぐことを打ち合わせた。(当初工場見積:添付②参照)
③再立会の実施(02/06/24)
当方と他Adjの2名により外注工場へ再立会を実施した。修理作業は塗装工程も完了し、ほとんど完了直前であった。現車の再立会を行い、主に交換部品の確認を詳細に行った。その結果、当初の工場見積にて計上されていた、Rrバンパー、右Rrフェンダー等を含め、多くの部品は交換されないまま、鈑金等の修理がなされていることを確認した。約30分の時間を掛け詳細に確認しつつ、そのことを写真に記録した。
なお、元請け工場に対し、見積内容との大きな差異があることを問い質すが、再見積を提示したいとの説明を受けるに至り了解した。なお、工場代車費用については、過失事案でもあり基本的に認められないことを通告した。
④工場再見積が提示(02/06/27)
総額132万円の工場再見積が提示された。(再工場見積:添付③)驚いたことに再立会で鈑金修理がなされたことを確認しているにもかかわらず、右Rrフェンダー等について取替のままの見積であり、極めて不審を生じる内容であった。当方より直ちに元請け工場に対し、強い不審を感じることを伝えると共に、改めて当方見積および意見を提出することを通告した。
⑤当方見積と意見をFax提示(02/07/01)
当方意見および自己見積(その1)をFaxにより提示した。この自己見積では、あくまでも必要最小限の交換部品の計上とし、添付の意見の中で、今回作業に使用した、すべての交換部品について、部品商発行の伝票提示を要請し、これに基づいて今後認容していく姿勢を示した。(当方意見&見積(その1):添付④)
⑥工場より再々見積の提示を受領(02/07/08)
総額88万円の工場見積が使用部品の伝票写しと共に提示された。交換部品については、十分納得出来るものとなったが、工賃関係について問題点が残るものであった。(再々工場見積:添付⑤)
⑦当方再見積と意見をFax提示(02/07/09)
当方意見および自己見積(その2)をFaxにより提示した。この当方意見では、過剰な工場見積の工賃を指摘すると共に、前回の自己見積(その1)よりは譲歩させたものとし、協定への前向きの姿勢を出来るだけ示すことに努めた。(当方意見&見積(その2):添付⑥)
⑧電話により料金打合せの実施-1(02/07/09)
当方送付のFax内容について、意見を聴取した。この中で、工場より当方提示の塗装費用について強い不満が出された。当方提示の塗装費用について見直すことを約し、次回打合せとした。
⑨電話により料金打合せの実施-2(02/07/10)
工場要請額として80万円まで譲歩する中で協定を要請された。しかし、当方提示は60万円までが限界として拒絶した。特に、極めて高額な塗装費用について、ディーラー(ヤナセ)以上のものであり、認めようがないものであることを強調した。
以上の結果、工場要請額として70万円までの譲歩案が提示されるに至ったが、とても無理であるとした。膠着状態に陥る中で、当方提示の塗装費用について、再度見直して提示することを約して次回打合せとした。
⑩電話により料金打合せの実施-3(02/07/11)
塗装費用を見直したがとても要請額(70万円)には届かないことを伝える。工場からは、総額65万円まで譲歩案が出されたが了解は保留とした。
⑪電話により料金打合せの実施-4(02/07/12)
折衷案として625千円を提示し協定を行うに至った。(協定見積(その3):添付⑦)
2.補足・雑感
相手方工場は、いわゆるブローカーであるが、いやはや呆れる工場であった。しかし、この様な工場だとて油断して掛かれば思わぬ隙を突かれ、墓穴を掘ることにもなりかねない。ここでは、本件交渉が決して満足は出来ないものの比較的良好に着地した要因として以下に記してみる。
①再立会を実施したこと
再立会のタイミングとして最良であったが、更に、30分以上の時間を掛け詳細に部品が取り替えられていないことを確認しつつ、そのことを写真に記録した。これは、十分時間を掛けることが、相手に対する牽制になるのだということを意識してのものであった。そして、詳細な写真記録は、このことで争いになり第三者の判断を仰ぐ局面を見据えたものである。
②複数名での再立会について
2名で行ったことも相手方に相当の牽制力を与えたものと思う。その後も、自分だけでなく複数名で見ているのだということを繰り返し協調した。このことは対峙する相手方に大きな牽制力を与えたと思われる。
③相手との交渉を文書中心で行ったこと
当方からは、自己見積と共に文書を添付した。この文書では、相手方に対し、不審を感じる等と指摘しつつ、相手方の見積項目の問題点を指摘した。これら文書は、無益な口論による争いを避けつつ相手方を牽制することが出来たと思う。そして、争いが長期化し第三者判断を仰ぐ場合にも、有利な証拠となるものだと思われる。
④当方も譲歩する姿勢を示したこと
協定までに自己見積は2度提示することとなったが、あえて意識的に初回は低めの自己見積を提示し、ここから、最終協定に向けて一定譲歩する姿勢を示す様に努めた。これにより、相手方の譲歩も引き出せたものと思う。
※添付資料
すぐにでもアジャスター資格を返還してください。