思考の7割と収入の3割を旅に注ぐ旅人の日々

一般的には遊び(趣味)と見下されがちな「旅」も、人生のなかでやるべき「仕事」である、という気概で旅する旅人の主張と報告。

商業誌にしては独自性が貴重な『岳人』の行く末を考える

2014-03-30 15:45:51 | 出版・言葉・校正
最近は杉花粉の飛散がここ数日がピークらしいので花粉症の症状が例年どおりに酷くてブログ更新も億劫なくらいにだるい日々だが、それをふっ飛ばして目も覚めてしまうニュースが昨日あった。
本ブログでも野遊び関連の雑誌や校正ネタでちょいちょい触れている、山岳専門の月刊誌『岳人』について。

★「岳人」9月号から モンベルの発行に 本社、商標権を譲渡
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/yama/CK2014032902000249.html

詳細は今週に記者会見があるそうなので、今春で読者歴20年になる一般読者のひとりとしては続報はそれを待つしかないが、06年の、現在はインプレスグループに入った山と溪谷社と同様に経営的に苦しい状況だったということか。やや寝耳に水の話で。

でも、芳しくないという噂はなんとなく小耳に挟んでいて、しかも改めて考えると昨年からその予兆にいくつか心当たりもある。今年は(その編集者のひとりの、服部文祥氏との別件でのかかわりの影響も多少あって?)『岳人』を(最近は仕事が少ない)校正者としてのリハビリも兼ねて1冊を例年の3倍くらい時間をかけて精読しているのだが(その結果としては毎号、せっかく内容は良いのに細部で興を削がれる誤植が結構ありますけど……)、発売中の14年4月号を読んでも、明後日からの消費税増税による価格改定とは別のことだろうが年間の定期購読を中止しているのも気になっていたし。
昨年からのカラーページが増えた誌面のリニューアルで上向きになったと思ったのだが、雑誌の制作と、営業を含む経営というか運営はまた別の話か……。

ここ数年、商業誌としての山岳雑誌は山と溪谷社・東京新聞・(エイ)出版社のほかにも各社から出ていて競合が年々激しくなっているが、そんななか『岳人』は『山と溪谷』に次ぐ65年超の歴史があって、しかも同業他誌では多く参入している、いわゆる“アウトドアライター”のように書くことを生業とする「書ける」ひとよりも、書くこと以前に普段は(生活のために)ふつうに勤め人をやりながら週末クライマーと化したり、山岳ガイドのようにプロとして登山に携わったり、と登山の濃度が人一倍濃い「登れる」ひとの文章を多く集めた(ちょっと語弊があるが)文集というか記録集のような体でこれまで続いていて(もちろん、「登れる」と「書ける」を高い質で両立できるひとが次から次へとたくさん現れれば最高だが……)、そうなると時代ごとによりマニアックというか登山の本質を常に追求してゆくような密度の高い、『岳人』でしか読めない記事が多いように思う。少なくとも、『PEAKS』14年4月号のように特集丸ごと新しい山道具カタログ、みたいな(雑誌に「内容」を求めたがる目の肥えた読者には露骨に商売に走っていると受け取られても仕方ない誌面で、批判が噴出して落胆も多そうな)賛否両論ある誌面は作らない、はず。

これまでも触れたと思うが、(趣味として)現在の登山業界において主要の『岳人』と『山と溪谷』と『PEAKS』という3つの月刊誌も、その他の雑誌も隔月刊・季刊も含めて常にほぼ網羅している(自称)“平成時代の山岳雑誌マニア”の僕としては、学生時代に読み始めた当初から「登れる」ひとの比率は高い=情報の質もおおむね高い印象の読み物である『岳人』の独自性はとても貴重なので、今後も誌面の雰囲気は変わることなく「日本を代表する登山専門誌」として存続を切望するのだがなー。

というなかでの、『岳人』が(東京新聞の大元の)中日新聞社からモンベルへ譲渡されることにより、発行元も変更なのね。他分野の雑誌ではこのような他社への移籍はたまにあるが、野外業界では珍しい。まあ休刊に陥るよりはましなので、存続が決まったのは良いことだ。
他分野の商業誌で経営的に苦しいときの苦肉の策として、刊行ペースを落とすことはままあるが(月刊から隔月刊や季刊へ縮小、みたいな)、それは避けて月刊を維持するのかねえ。

モンベルの関連会社の株式会社ネイチュアエンタープライズの実情は全然知らないが、現状はモンベルで出版というと、会報誌『OUTWARD』も1997年の創刊号から今春の63号まで毎号チェックしているが(僕はモンベル会員歴17年)、まあ内容的にもページ数は少ないこれと『岳人』は方向性が異なるので融合することはないだろうし(例えば、『OUTWARD』で長期連載のある野田知佑御大が『岳人』に書くなんてことはあり得ない)、元々はモンベルを興す前はクライマーだった辰野勇会長は『岳人』によく登場するような良くも悪くも(先日、ここ十数年の『岳人』の記事にもたまに登場している今年の植村直己冒険賞の受賞が決まった田中幹也氏もよく言う)灰汁が強い、というか「登山が人生のすべて」みたいな傍から見ると偏屈な? 一般社会の枠組みから逸脱したひとも多い登山者や登山家・冒険家(と呼ばれるひと)の心理にも理解が深いはずだから、今後の誌面もモンベルに「迎合」して雰囲気が(月刊誌『ランドネ』が14年5月号から新装刊したような)まったくの別物として路線変更するようなこともないでしょう(でも制作にかかわる関係者の異動というか変更は、編集長をはじめ大幅にあるかも)。
このような場合、受け手からすると特定の企業の宣伝媒体に成り下がるのではないか? という危惧は当然あるが、モンベルに限ってはそれはない、と信じたい。
ひとまず今週以降の、特に今夏の親会社の変更へ向けての動向はもちろん注視する。

ちなみに、『岳人』14年4月号でモンベルの商品の広告や紹介記事、および装備使用の写真が掲載されたモンベル色がとりわけ濃いページを試しに数えてみると、表紙・裏表紙も含めて196ページ中8ページだった(最も目立つ表紙モデルへの衣装協力がモンベルですし)。夏以降もこのくらいの割合で変わらないのか、それともモンベル商品の露出度がより高まる(=ページ数が増える)のか、その点もしっかり見届けてゆくつもり。


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