思考の7割と収入の3割を旅に注ぐ旅人の日々

一般的には遊び(趣味)と見下されがちな「旅」も、人生のなかでやるべき「仕事」である、という気概で旅する旅人の主張と報告。

鍋割山で水運び

2006-06-06 23:55:17 | 登山

鍋割山(1273m)と言うと、山頂やその周辺の植生やここからの眺め云々よりも、登山者のあいだでは山頂にある鍋割山荘とここの主人の草野延孝氏のほうがよく知られているかもしれない。
山荘への荷揚げは一般的なヘリコプターに頼らずに人力でやっていて、草野氏は1回の荷揚げで多いときには100kg近い荷物を一気に上げる、ということを各種媒体で数回見かけ、そのたびに凄いなあ、と感心したものだ。
ただ、完全人力と言っても宿の関係者だけのその荷揚げだけで山荘を維持し続けていくのは難しいので(特に調理用の水の確保)、山頂付近に水場がない山荘のために、林道終点の登山道入口に水道水入りのペットボトルを用意して、登ってくる登山者にそれを上げてもらう、というボランティア活動を頼んでいる。今回この登山道を初めて登る“初参加”の僕としてもこれは前々から知っていて、たしか、以前は山頂の裸地化抑止や登山道整備のために石の荷揚げもやっていたような気がしたが、とりあえず現在は水だけのようだ。

大倉バス停から四十八瀬川沿いの林道をつめ、二俣経由で林道の終点まで行くと、クルマが入れる終点にすでに水道水が入った2リットルのペットボトルが30本近く置いてあった。ちなみに、沢の水は不衛生で飲用に適さないということで、滅菌された水道水を用意しているとのこと。まあ僕は沢の水も平気で飲むのだが、一般の人すべてがそれを真似るわけではないので、まあ水道水のほうが無難と言えば無難か。山小屋などの人工物がたくさんあったり、登山者がやたらと多い登山道の近くでなければ沢の水でもそんなに気にはならないが、さすがに人口が多い関東圏の丹沢ほどの登山者も多い山域だと水道水になってしまう、という最近の事情もまあわかる。
ここから登山者は自分の体力やボランティア精神の旺盛さを考慮しながら、デイパックやザックにそれを詰めて、林道終点から後沢乗越を経由して山頂に至る水平距離2.4km、標高差約630mの登山道を登っていくことになる。
まあこれは余裕があればお願いします、というものだから強制ではないしべつに無理して運ぶこともないのだが、山荘でコーヒー、かき氷、おでん、味噌汁などの水を必要とする食事をとったり、宿泊したりするのであれば運ぶべきではないかと思う。で、僕も食事はとらないけれども以前から「人力」にこだわっているというところに共感できるので、それを理由にペットボトルを2本(4リットル)持って協力して、登った。山荘への協力というよりは、自分の登山のトレーニングという意味合いでぺットボトルを何本も持ってたくさん水を運ぶ人もいるのかな。

登山道自体はここより東側の大倉尾根のようなキツイ傾斜ではなく、登山道のつづら折りの付け方も適切で、ふつうの荷物であれば登山地図のコースタイムのとおりに1時間30分もかからずに行けるのだろうが、いくらかの水を持って荷が重くなるとちょっと時間がかかるかも。
ほかの山域でもよくある木の階段はもちろんのこと、山道には斜面の段差をできるだけ少なくしたり、悪天時に足を滑らせないようにするためなのか所々でブロック塀や木の切り株が埋め込まれていたりして、草野氏が荷揚げしやすいように登山道がきっちり整備されている、という印象を得た。木の階段の段差も僕がよく行く秩父や奥多摩の山に比べると低く、足を上げ下げしやすくなっている。階段の段差があまりに開いていると、特に下りでは膝や足首への衝撃が強くなって余計に疲れるし、これを避けたい登山者が段差のない階段の脇を登り降りすることによって土道が踏み固められて登山道の裸地化が進むというか新しい登山道ができてしまう、という悪循環がよく見られるが、比較的段差の小さい丹沢では登山者もおおむね階段を利用しているようでそれが改善されている。良い整備である。

草野氏は30年近くここで大荷物を担ぎながらほぼ毎日荷揚げしているのか、凄えなあ、いくら大学山岳部出身でヒマラヤ登山の経験もあると言っても毎年300回近い荷揚げをこなし、しかも必要であれば100kg以上の荷揚げも行なったりするのは並大抵のことではないよなあ、とその道を草野氏の凄さを改めて強く実感しながら登っていき、僕は最近の運動不足や体重増加によって重くなった身体を無理矢理に押し上げながら、1時間45分もかかりながら鍋割山に到達した。草野氏は1990年代の全盛期はこのコースを2時間30分を切るくらいの速度で荷揚げしたというのだから、これまた凄い。

僕が登り始めた時間は比較的遅かったから、できるだけ明るいうちに早く先に進みたかったし、登山者はもう誰もいなくなった平日の昼下がりの山荘でひとりで食事をとるのも、本来は昼の忙しい時間帯をしのいだあとのゆっくりできる休憩時間に草野氏に余計な手間をかけさせるようで悪い気がしたので、今回はここでの大休止は控えて早々に塔ノ岳に向かった。いつか再訪するときは、もう少し早い時間帯に訪れて、鍋割山荘名物の鍋焼きうどん(980円)を熱々のうちにハフハフ言いながら食べたいものだ。


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