思考の7割と収入の3割を旅に注ぐ旅人の日々

一般的には遊び(趣味)と見下されがちな「旅」も、人生のなかでやるべき「仕事」である、という気概で旅する旅人の主張と報告。

アライテントへ片道30分の修理行

2008-07-21 09:00:19 | 他人の旅話

先日、某友人の所有するテントのフレーム(メーカーによっては「ポール」とも呼ぶね)のうち1本が折れた、修理したい、という旨を聞いたのだが(上の写真参照)、以前に某登山用品店の商品管理を2年ほど経験していてそのなかで修理品の受付も少々担当していた僕としては、その当時に見られそうでなかなか見る機会がなかった症例なので興味深く、それを預かって見せてもらい、修理することになった。機種は、日本を代表する山岳テントメーカーであるアライテントの「トレックライズ0」。完全に1人用で、しかも約6年使ってきた結構年季の入っているやつ。

このテント、硬軟問わず主に登山者向けの商品を提供し続けるこのメーカーにあって、もう少しハードルを下げて山頂を積極的に目指さないトレッキングや平地の徒歩旅にも使えるややお手軽な仕様で、しかも軽量で(1.25kg)、各種野遊び人に数年前の発売からウケは良いらしい。最近も、ムック『自転車人』No.12の中盤で紹介されているように映画監督の(でもここ数年は本職よりも北海道の冬季自転車旅に傾倒している)平野勝之氏も自転車旅で愛用しているように自転車乗りが携行している事例も増えている、と思う。つい先日も、自転車乗りの知人が同モデルを他メーカーのテントと比較検討したうえで最終的にこれを選択して購入した。徒歩旅の多い僕も、金銭的に余裕があればこれが欲しいと常々思っている。
軽い装備って、それだけで大きな特長なんだよね、特に行動中は使っている時間よりも使っていない時間のほうが長いテントや寝袋の場合は。

それで先週、要修理状態のこのフレームについてアライテントに直接問い合わせたところ、ふつうに小売店経由で受け付けてもよいが会社へ直接持ち込んでも対応してくれるとのことで(ただし昼休み時間は除く)、会社の住所を見ると埼玉県・東所沢なので僕の地元から自転車で30分、徒歩でも1時間くらいで行ける距離にあり、小売店に出すよりも自分で持ち込んだほうが話は早そうなので、先週末に自転車で直接行ってみた。だから本稿タイトルの時間は、僕の住まいからアライテントまでの片道の移動時間が30分、ということ。

実際に行ってみると、JR武蔵野線・東所沢駅も近いちょっとした倉庫街の一角にあり、その付近の道路は所沢市街や西武ドームへ行くときなどに度々通過しているのだがこのメーカーの所在にはこれまでまったく気付かずにいて、ああしまった、こんな近いところにあるのかー、とまず驚いて後悔もした。白地に橙色の文字の看板を思いっきり見落としていた。

外観はいかにも古くからある家内制手工業的な町工場といった風情で、従業員規模も20名以下という感じか、と見た目でまず思った。以前に山岳雑誌『岳人』でこの社内の仕事風景を取材していたイラスト記事を読んでいて内部の雰囲気はなんとなく知っていたが、実際に入口を開けて従業員の方にモノを預けて修理の旨を伝えてその場で待つためにパイプ椅子を用意してもらってそれに座ってひとしきり落ち着いてから工場内を見渡すと、テントメーカーだけに作業のための大きな平台があったり生地があったり、奥のほうには数々の商品の在庫が棚にびっちり収まっていたりして、野外道具好きの僕としては大興奮。入口左側にタイムカード、右側に下駄箱とサンダルがいきなり目に飛び込んでくるのもいかにも町工場らしい。

それに僕もこのメーカーの、主にかなり厳しいヒマラヤ登山や国内でも冬季の登山や自転車旅などにもよく使われている(やり方によってはフライシートを張らずにあまり手間をかけずに使える)「ゴアライズ1」を約10年使っている顧客でもあるので、普段からよくお世話になっているメーカーの秘密基地とも言えなくもない内部事情を目の当たりにして興奮しないわけがない。なんなら靴を脱いで上がり込んで、社内をつぶさに見学したいくらいだ。

今回はトレックライズ0のフレーム交換(一応はレアメタルの一種であるスカンジウム含有のもので、旧来のジュラルミン製フレームよりは少々軽量化されているやつ)のほかに、約2年前からバカになっている僕のゴアライズ1の入口の、ファスナーのスライダー交換もついでに依頼してみた。フレームのほうは交換方法がウェブサイトで図解で紹介されてもいてフレームの仕組みは知っているので、部品だけ買うことができればあとは自分でやろうと思えばできるが、そこはせっかく目の前に本職の方がいるのだからお任せしたほうが早く済むに決まっているので、遠慮なくお願いした。
で、結局、待つこと約20分でそのふたつの修理があっさり完了し、拍子抜け。フレームのほうは1か所でも折れていたらテントの生地がちゃんと張れないし(まあ現場で折れても「リペアスリーブ」とテープ類があれば応急処置はできるが)、前々から気になっていたファスナーのほうも閉めたとたんに閉めたところがジジジと開いていく様子に辟易していたのだが(特に夏場の平地では蚊が侵入しやすくて困る)、そんな悩みがこんな短時間で一発で解決して、ああ、持ち込み修理ってスバラシイ、と改めて思った。うー、こんなことならもっと早く診てもらえばよかった。

料金も、その場で伝票を作成してもらい、ほかにフレームまわりの部品を2点買ったりもしたうえでの合計が3000円となり(というか、消費税込みでキリの良い金額になるように調整して数十円おまけしてもらったのだが)、部品代とは別途で技術料を取られることもなく交換・購入した部品のみでこの価格となった。フレームはバラを3本分交換してもらい(折れが1本、極端な曲がり癖がついているのが2本。でも、ある理由で2本分の価格にまけてもらった)、スライダー交換のほうも1200円程度で済み、これでまた不安なく野外のあちこちでテントを張れるのならば安いもんだろう、と納得。

よくよく考えると、最近の旅や登山関連の友人知人でもトレックライズ・ゴアライズシリーズも含めてこのメーカーのテントを愛用している人を即座に顔が思い浮かぶだけで7、8人挙げられるくらいにアライテント率は高いので(僕が知っている範囲内でのテント所有者の約7割。実はアライテントで製造している某登山用品店オリジナルのテントも含む)、修理も意外にやりやすいことを吹聴しようかな。

それに、このメーカーでは近年は各種要望に応じた改良・特注品の製造も盛んで、最近目立つところでは例えば、日本人初のヒマラヤ8000m峰全14座登頂を目指していて8日に10座目(ガッシャブルム2峰。8035m)に登頂した竹内洋岳(たけうち・ひろたか)氏の入口をもう1か所追加するなどした高所登山仕様の「ヒロモデル」とか、トレックライズ0のフライシートを少し大きめに設計して軽量感を損なわずにストック(トレッキングポール)を立てて前室を広げられるホーボージュン氏の「ホーボーズ・ネスト」とか(後者は昨年6月に実物を見たことがある。昨秋に雑誌『BE-PAL』で100張限定で発売したら、すぐに売り切れたそうで)。
そんな特殊な事情にも対応してくれる、野外業界においては世界に誇れる良質の製品を提供し続けている技術屋集団が距離的に身近にあることは、ホントに幸せなことである。えっへん、と他人事ながらつい誇らしい気分にもなる。全国のアライテントユーザーの方々、うらやましいでしょう。

今回はこの会社内に滞在したのは正味30分弱という、予想外にあっさりとした修理行であった。僕としては地元から距離的に近いし、こんなに行きやすいのであればテントをもっとバンバン手荒に扱って頻繁に修理に持ち込めるな、と改めて精神的な安堵感も得ることができ、より一層アライテント信奉者ぶりに拍車がかかったのであった。今後もアライテントの回し者と呼ばれようとも、ここ一筋でいくつもり。


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