第四部 Generalist in 古都編

Generalist大学教員.湘南、城東、マヒドン、出雲、Harvard、Michiganを経て現在古都で奮闘中

書籍 2週間で学ぶ臨床感染症について

2021-12-18 07:32:01 | 書評;献本御礼のコーナー

何を隠そう僕は翻訳本が好きではない。なぜかと言うと、一つは受験英語の弊
害で多くの翻訳本は直訳が多く、原著者は一体何を伝えたいのか、ロジックが
逆に分かりづらくなることが多いからだ。また、色々な訳者が自由に翻訳して
しまうことでさらに統一感がなくなる。

2週間で学ぶ臨床感染症


しかし、この本は全般的な文章のわかりやすさでは群を抜いており全く問題が
無かった。おそらく引用文献と原文と訳者の日本語とのすり合わせという緻密
な作業を全く厭わなかったであろう清田雅智先生と的野多加志先生達のプライ
ドが練り上げた成果であるのは間違いない。相当な苦労があったとお見受けす
る。


もっと言うと、類書に多い、どうだ!海外でしか遭遇しない貴重な症例だろう
!?珍しいだろう!?と言わんばかりの一部の感染症オタクのみが心躍る症例ばか
りを集めては、珠玉の症例集などと謳っている本はもっと好きではない。臨床
はすべからく、一生涯遭遇しないかもしれない疾患を学ぶよりも、常に遭遇し
うる疾患を深く学ぶ方がより患者に貢献できる。Prevalenceであり、pre-test
probabilityの問題が重要なのだ。それでも時に、想定していなかった感染症疾
患に遭遇することがある。その臨床現場のコモンとアンコモンのバランスこそ
が実に面白いのだ。
そして、この点も太鼓判が押せてしまう。この書籍に記載された全47症例は同
じ島国の先進国であり、その疾患のセレクションは日本の全内科医、総合診療
医にベストマッチしたバランスで用意されていた。おそらく偶然ではあるだろ
うが、感染症専門医にとってはマストなものばかりであり、全て答えることが
できる必要があるレベルだろう。


もっと言うと、僕は”臨床の匂いがしない”感染症のテキストは本気で嫌いだ。
しかし、この本は、自分をどこか俯瞰的に観察しながら、優れた臨床感染症指
導医と一緒にベッドサイドで教えてもらっている匂いがプンプンしてきた。我
が国で言えば、イメージ的には青木眞先生や、矢野晴美先生などの国際的フィ
ールドで活躍する感染症医の香りに近かった。貴重な感染症の症例は遭遇して
からアウトカムが出るまで自分の頭の中で咀嚼するのにどうしても週や月の単
位で時間を要する。しかし、本書の一症例は約10-20分程度あれば重要なエッ
センスのみを疑似経験をすることができる。こんなに効率的な学び方は他にな
いだろう。


我が国には、感染症の医師であることを名乗りながら、臨床がわからない感染
症の医師がもしかしたら歴史的に多かった(のかもしれない)。そして、僕ら若

手(自分が若いかどうかはおいておいて)が本当に必要としてきたのは、実験
基礎医学を背景にした縦割りの感染症ではなく、真に患者を診ている臨床感染
症医へのテキストであった。時はながれ、ようやくこのようなテキスト達が世
にでることを心から喜びたい。COVID-19に始まり、渡航医学や臨床感染症医
学は極めて重要な位置を占めるに至った昨今、全ての臨床家に手にとっていた
だきたい臨床感染症の最良書である。

 

ぜひサンプル画面だけでも、お手にとって見てみてください。