和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

漱石の「からッぺた」。

2006-10-26 | Weblog
山村修「狐が選んだ入門書」(ちくま新書)で紹介されている25冊の入門書のなかに
高浜虚子著「俳句はかく解しかく味う」(岩波文庫)がありました。
ちょうど、読まずに積読してあった本なので、よい機会だと読んでみました。
やはり、こういう機会があるとはずみがつきます。
ということで、虚子のその本の読後感を書こうと思ったわけです。
思ったのですが、俳句から離れて、謡曲へと私の思いがそれていきます。
「まあ、俳句はいいや」今回は謡曲について語りましょう。
そういえば、俳句には「切字」というのがあるそうで。
この本にも「元旦や草の戸ごしの麦畑」という句を説明しながら、
虚子が説明しております。
「『元旦や』というのは、唯元日という事を現わすためにいうたので、この『や』の字には別に意味はない。俳句では、昔からこのような文字を切字(きれじ)といっている」「最も多く用いられてちょっと普通の文章と異なっているのは、『や』『かな』の二つの切字である。しかしこれも決してむずかしい意味があるのではない」「たとえば普通の談話の時でも『元日にこうこう』というより『元日にねこうこう』という方が、人の頭に『元日』という感じを深く呼び起こすことになる。『ね』という字に意味のない如く『や』という字にも意味はない・・」
ここからちょい詳しくなるのですが、このくらいでね。

それでは、謡曲について思い浮かんだこと。

山村修著「花のほかには松ばかり」(檜書店)は
副題に「謡曲を読む愉しみ」とありました。
そういえば「狐が選んだ入門書」に夏目漱石の「永日小品」を引用してある箇所があります。その冒頭の作品「元旦」の内容を紹介しているのです。
ここでは山村修さんの書きぶりをそのままに
「ある年の元旦、黒い羽織に黒い紋付を着た虚子が、漱石の家を訪れた折、ふたりでいっしょに謡曲を謡おうということになります。漱石も虚子も能が好きなのです。ところが玄人はだしの虚子にくらべ、漱石はどうやら下手の横好きらしく、ひょろひょろした情けない声しか出ません。さらに虚子は車夫にいいつけて自分の家から鼓を持ってこさせます。鼓が届くと、台所から借りた七輪の炭火をかんかんに熾(おこ)し、みんながびっくりするほど猛烈に鼓をあぶります。
そうして正月らしく『羽衣』を謡いはじめます。しかしその虚子の掛け声のなんとも大きなこと。火をあぶって充分に張り切った鼓の音も、耳をつんざくようです。虚子の大声と漱石のひょろひょろ声とを聞くうちに、周囲がくすくす笑い出し、漱石自身もついに噴き出してしまいます。『元日』にはそういう一幕が書かれていました」(p73 「 3 俳句を読みふかめることのたのしさ」)

高浜虚子と漱石を同列にならべてしまっては、どなたも可笑しかったことでしょう。
それでは、虚子と謡曲・能との関係はどうだったのか?
富士正晴著「高浜虚子」(角川書店)に、こんな箇所があります。

「父は松山藩の剣術監並びに祐筆であったというが、そのような武士時代の話は全然しなかったらしく、そのことを子供の時見知っていた長兄の話で虚子ははじめて知ったらしい。だから、父は帰農してから竹刀をとるなどのことはきっぱり止してしまっていて、和歌や、謡曲、能などの会などをやっているだけであったらしい。この謡曲、能は虚子の日常の教養(むしろ、たしなみか)として伝わっていた。特に次兄信嘉が能楽の復興普及にわざわざ上京してまで勤めたぐらいだから、東京のその方面の専門家とも親しい関係に虚子はなった。このことは、平然たる虚子の気分を考える時、はなはだ重要である気がする。」(p61)

半藤一利著「漱石先生お久しぶりです」(平凡社)にも
漱石の謡曲を語る箇所があり、印象鮮やかでした。

「日常でも小説でも、俳句でも、漱石はしきりに謡曲に関連する話を書き残している。
一言でいえば、謡曲にぞっこん入れこんでいた。ただし字義どおり下手の横好きであったらしい。高浜虚子と二人で『蝉丸』を謡い、当時大学生の寺田寅彦が同席した。廻し節の沢山あるところにきて、調子の合わなくなった虚子は、つい噴き出してやめてしまったが、漱石はかまわず謡いとおした。漱石が謡いおさめると、寅彦がのんびりした声でいった。『先生の謡は、いやはや聞きしに勝るからッぺたですな』」(p48)

漱石を魅了した謡曲とは、いったいどんなものであったのか?
というのが次の疑問。
それはまた、つぎの機会に書き込みたいと思います。










コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 漱石のモーニング。 | トップ | まわりを清め、席を清雅にする。 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事