今日は,山種美術館で開催中の「生誕110周年 速水御舟 展」へ出掛けた。御舟(1894~1935)は,大正から昭和の画壇に鮮烈な光を放った画家であり,一度作り上げた自らの「型」を常に壊し続けた。そして,腸チフスのため,わずか40歳で夭折した悲運の画家でもある。短い生涯に残した作品はおよそ600余点とされている。
山種美術館は,昭和51年に旧安宅コレクションの御舟作品を一括買い上げし,2つの重要文化財を含む充実した御舟コレクションで知られるが,今回の展覧会のような規模でまとめて御舟作品が紹介されるのは,大変久しぶりのこととのこと。
まずは,上の写真,「炎舞」(1925年・重文)。かつて(昭和54年)切手の絵柄にも使われたことがあるそうで,深い精神性を湛えた作品。「京の舞妓」(1920年・東京国立博物館)をはじめとする超写実的な作風から,より精神的なものへの転換を代表する31歳の時の作品。光に引き寄せられては,炎のために螺旋を描いて燃え上がっていく蛾の有様が,人間の「業」の深さや,輪廻転生さえも表しているように思われる深い作品である。仏教画で描かれる火焔をも彷彿させる深い赤色の炎,そして深い黒の闇の色は,御舟にしか描けなかったもの。そして,色とりどりの蛾たちの活き活きと美しいこと!御舟は,避暑中の軽井沢で,弟子たちに何度も焚き火をたかせて,絵の構想を練っていったとのことである。
御舟は,弟子に対して,よく言っていたそうである,「絵を創る前に,人間を創れ」と。また,「写実から脱去し,心で描く」との言葉も残している。「炎舞」は,そういった御舟の心の奥を表した作品といっても過言ではない。
左は,豊臣秀吉も愛でたという京都の地蔵院の樹齢400年以上の椿の古木を描いた「名樹散椿」(1929年・重文)。これも一切の無駄なものを描かず,ただ咲き誇る椿と,そのはらはらと散る様(この椿は,山茶花のように一枚ずつ散っていく種だそうだ)だけを突き詰めて描いている。枝の曲がり具合さえも,椿の花の重みを感じさせる。残念ながら,御舟が描いた椿は既に枯れてしまい,今は2代目が鎮座しているそうだ。こういったエピソードさえも,この絵で描かれた命の艶やかさと儚さとをさらに彩り深いものにしているような気がする。
晩年(というには若すぎるが…)の御舟は,水墨画の世界へも足を踏み入れた。左の「牡丹花(墨牡丹)」は,渋い墨色の牡丹の美しさを静かに描いている。右の「春の宵」も小さな作品だが,月の光を仄かに浴びながらしずしずと散りゆく桜の花が描かれておりとても美しい。春の夜に独特の暖かく柔らかい香りさえも作品中から漂ってくるように感じられる。
今回の展覧会は,山種美術館の懐の深さを感じさせるものであった。これで,500円の入館料とは安い!
展示スペースが狭い,また展示室の入口に年表が掲げられており渋滞の原因を作っている,一番の目玉である「炎舞」の展示場所が隅っこのため人だかりが余計にひどくなっている,そして,鑑賞者が大きな声で話しておりマナーの低さを感じさせる等,文句も多々あるものの,これだけの作品をまとめて見られるのは貴重な機会というべきだろう。
山種美術館2005年カレンダー「速水御舟名品集」を購入して帰宅した...
なお,この展覧会では,そこここに御舟の残した深淵で思索的な言葉が展示されている。「必然的に生まれてくるものは貴い」というのも,御舟の言葉。
その言葉の数々は哲学書にも似て難解なものも多いが,御舟が,頭をひねり,考え,そして悩みながら「型」を壊し続けたということが良く分かる。
御舟の残した「言葉」にも関心を持った人は,「絵画の真生命―速水御舟画論」を読んでみると,より作品への理解が深まるかも知れない。
オマケ(その1)東京メトロでは,現在,「炎舞」を題材にしたパスネットを発売中。こちらも御舟ファンならば,買っておきたい。
オマケ(その2)山種美術館の最寄り駅は,半蔵門線の半蔵門駅だが,この近くでは,ラーメン店「めん徳 二代目 つじ太」の「二代目ラーメン」がお薦め。魚&豚骨系のスープの味が絶妙で麺と抜群のコンビネーションを生んでいます。黒七味のご利用もお忘れ無く!
★★★11月6日(土)午後10時から,テレビ東京の「美の巨人たち」で御舟が取り上げられたようです。私が行った日も,「新日曜美術館」放映直後のため混雑していました。おそらく,来週も混雑が予想されますね…★★★
山種美術館は,昭和51年に旧安宅コレクションの御舟作品を一括買い上げし,2つの重要文化財を含む充実した御舟コレクションで知られるが,今回の展覧会のような規模でまとめて御舟作品が紹介されるのは,大変久しぶりのこととのこと。
まずは,上の写真,「炎舞」(1925年・重文)。かつて(昭和54年)切手の絵柄にも使われたことがあるそうで,深い精神性を湛えた作品。「京の舞妓」(1920年・東京国立博物館)をはじめとする超写実的な作風から,より精神的なものへの転換を代表する31歳の時の作品。光に引き寄せられては,炎のために螺旋を描いて燃え上がっていく蛾の有様が,人間の「業」の深さや,輪廻転生さえも表しているように思われる深い作品である。仏教画で描かれる火焔をも彷彿させる深い赤色の炎,そして深い黒の闇の色は,御舟にしか描けなかったもの。そして,色とりどりの蛾たちの活き活きと美しいこと!御舟は,避暑中の軽井沢で,弟子たちに何度も焚き火をたかせて,絵の構想を練っていったとのことである。
御舟は,弟子に対して,よく言っていたそうである,「絵を創る前に,人間を創れ」と。また,「写実から脱去し,心で描く」との言葉も残している。「炎舞」は,そういった御舟の心の奥を表した作品といっても過言ではない。
左は,豊臣秀吉も愛でたという京都の地蔵院の樹齢400年以上の椿の古木を描いた「名樹散椿」(1929年・重文)。これも一切の無駄なものを描かず,ただ咲き誇る椿と,そのはらはらと散る様(この椿は,山茶花のように一枚ずつ散っていく種だそうだ)だけを突き詰めて描いている。枝の曲がり具合さえも,椿の花の重みを感じさせる。残念ながら,御舟が描いた椿は既に枯れてしまい,今は2代目が鎮座しているそうだ。こういったエピソードさえも,この絵で描かれた命の艶やかさと儚さとをさらに彩り深いものにしているような気がする。
晩年(というには若すぎるが…)の御舟は,水墨画の世界へも足を踏み入れた。左の「牡丹花(墨牡丹)」は,渋い墨色の牡丹の美しさを静かに描いている。右の「春の宵」も小さな作品だが,月の光を仄かに浴びながらしずしずと散りゆく桜の花が描かれておりとても美しい。春の夜に独特の暖かく柔らかい香りさえも作品中から漂ってくるように感じられる。
今回の展覧会は,山種美術館の懐の深さを感じさせるものであった。これで,500円の入館料とは安い!
展示スペースが狭い,また展示室の入口に年表が掲げられており渋滞の原因を作っている,一番の目玉である「炎舞」の展示場所が隅っこのため人だかりが余計にひどくなっている,そして,鑑賞者が大きな声で話しておりマナーの低さを感じさせる等,文句も多々あるものの,これだけの作品をまとめて見られるのは貴重な機会というべきだろう。
山種美術館2005年カレンダー「速水御舟名品集」を購入して帰宅した...
なお,この展覧会では,そこここに御舟の残した深淵で思索的な言葉が展示されている。「必然的に生まれてくるものは貴い」というのも,御舟の言葉。
その言葉の数々は哲学書にも似て難解なものも多いが,御舟が,頭をひねり,考え,そして悩みながら「型」を壊し続けたということが良く分かる。
御舟の残した「言葉」にも関心を持った人は,「絵画の真生命―速水御舟画論」を読んでみると,より作品への理解が深まるかも知れない。
オマケ(その1)東京メトロでは,現在,「炎舞」を題材にしたパスネットを発売中。こちらも御舟ファンならば,買っておきたい。
オマケ(その2)山種美術館の最寄り駅は,半蔵門線の半蔵門駅だが,この近くでは,ラーメン店「めん徳 二代目 つじ太」の「二代目ラーメン」がお薦め。魚&豚骨系のスープの味が絶妙で麺と抜群のコンビネーションを生んでいます。黒七味のご利用もお忘れ無く!
★★★11月6日(土)午後10時から,テレビ東京の「美の巨人たち」で御舟が取り上げられたようです。私が行った日も,「新日曜美術館」放映直後のため混雑していました。おそらく,来週も混雑が予想されますね…★★★
すっかり影響されていますが、
このタイミングで速水御舟にお目にかかれるのは
ラッキーです。
願わくばゆったりと落ち着いて作品に
向かい合いたいものですが、
混んじゃうんでしょうね、きっと。
でも、必ず行こう!
この展覧会には地味な印象を持っていて、
おそるおそる行ってみたのですが、行って
よかったです。特に絵に対する言葉は含蓄
に富んでいました。
そんなところから、今、何となく、数年前
に買ったちくま文庫の中川一政文選を読み
返しているところです。ものを作る人の視
点はとても面白い。
そのうちに感想を書こうと思います。よろ
しかったら、また、遊びにきてください。
ではでは。
TBありがとうございます。
美の巨人たち、を見てますます行きたくなりました。
御舟の作品、まだ実物を見たことがないので、凄く楽しみです。
今後ともよろしくお願いします。
今回は「炎舞」が第一目的だったのですが
メイン以外の作品でいいなと思うものがいくつかあって、
それだけでも行ってよかったと思います。
どこの美術展に行っても何かと気になることがありますね。
ですが、あれだけの作品を一挙に見れて、しかも入館料500円ですから、まあいいかな?という感じですね。
でもテレビで2度を取り上げられるとは…御舟ブーム到来の予感?ですね。
>mfさん
少しだけ早起きして,空いているうちに堪能して,上野のフィレンツェ展とか,東京都現代美術館のピカソ展へハシゴするというのも良いかも知れませんね。
天気が良ければ,パレスサイクリング(無料の自転車貸出し有 http://www.jbpi.or.jp/p_cycling/)というのもグッドですよ。あれ,山種美術館からは皇居を挾んで正反対かな
>lysanderさん
クリエーターの残した言葉というのは含蓄がありますよね。私も,凡人なりに,そういった人たちの言葉を糧に生きていきたいなあ,な~んて思っています。また遊びに行きます!
>イッセーさん
絶対に期待を裏切らないと思いますよ。早起きがポイント!かな?
>ra-gooさん,nacky73さん
山種美術館は,所蔵作品は一級ですが,展示スペースや方法は今ひとつの感が拭えませんよね。国立美術館や国立博物館が,独立行政法人化して「競争」の荒波にもまれるようになり,色々な努力をして素晴らしい企画展を行うようになっている今だからこそ,民間の雄にも是非頑張って欲しいものですね。
山種美術館の「速水御舟展」ようやく行ってきました。
どれもこれも凄い。この人の描写力の凄さには、本当に驚かされます。
良いもの見せて頂きました、という感じです。
盛りだくさんな芸術の秋の贅沢な悩みです。