vagabond の 徒然なるままに in ネリヤカナヤ

エメラルドグリーンの海,溢れる太陽の光,緑の森に包まれた奄美大島から,乾いた心を瘉す写真をお届けします。

ザオ・ウーキー展を見て~「魂の浄化」

2005-01-16 23:32:28 | 美術
絵画を見て,心が洗われる思いをした,というと大袈裟だろうか。ブリジストン美術館で開催されていた,「ザオ・ウーキー展」を訪れての感想は,一言で言うと,「魂が浄化された」ということに尽きる。
抽象画はほとんど未体験の分野であったが,とても素晴らしい金曜の夜のひとときを過ごすことができた。このBlogを今読まれている方には大変申し訳ないのですが,本日までの開催だったのです,申し訳ありません...

TAKさん,はろるど・わーどさん,lysanderさんほか多数の人が絶賛していた「ザオ・ウーキー展」を漸く訪れた。
ウーキーの絵の題名の大半は,その作品の製作を終了した日付が用いられている(例えば,上の絵の題名は,「07.06.85」であり,1985年6月7日に完成したということ。)。したがって,その作品をどのように鑑賞するのかは,鑑賞者それぞれの「資質」に委ねられているといっても良いかも知れない。
ということで,若干構えつつ第1展示室へと滑り込む。そこには,「エメラルド・グリーン」という,文字通りキャンバス一面がその色に染められた作品。何と言う色遣いの美しさ!カタログ(2,500円する割りには,色の再現具合があまりよろしくなかった…)や画集では,到底理解できない,深く多彩で微妙な色合いが,目だけでなく,体中に降り注いでくる。木々や鳥を思わせる形状のものが一面に描かれているが,深く考える必要などない。
同じ部屋にある「風」も色彩と象形文字様のもので構成されるが,深くは考えず,作品の奥から流れ来る爽やかな息吹だけをただひたすら感じる。
心と体で作品から湧き出てくる何かを感じればよいのだ,これらの作品を見て,そう決心した。

第2展示室の「屈原に捧ぐ」は深いコバルトブルーが綺麗だ。その中にうっすらと浮かぶ青。そして,「呑み込まれた町」の深く悲しげな青。「無題,1958」の漆黒の闇の中にほのかに輝く残り火のような深い赤。どの作品も,無造作に描かれたように見えながら,巧みに配置された「色」が素晴らしい。
そして,美術館の配慮の中で嬉しかったのが,鑑賞者のために部屋の真ん中にポツンと置かれた鑑賞用の椅子。ここに座り,「夜明け,夜でもなく朝でもなく」とじっくりと向かい合う。大きな画面から,もやのような形が上へ上へと沸き立つ。左には,「無題,1958」の闇の中に静かに輝く赤。さながら原始,カオスの中から,ガイアが生まれるといった,世界の始まりすら感じる。

第3展示室は,墨彩が中心。大空に広がり地上へと今にも降りてきそうな雲を思わせる「無題」。体中が大自然の息吹に包まれたような錯覚に陥る。
と思う間もなく,廊下越しに第4展示室から見える鮮やかな赤色。「25.05.06」である。なんという心憎い配置。そして,地表の裂け目からマグマがゆるりと吹き出す様さえ感じさせる見事な作品。そう,ここから全てが生まれてきたのだと言わんばかりの生命のルーツの輝きである。

第6展示室の,「アンリ・マティスに捧ぐ」(マティスの「コリウールのフランス窓」がモティーフ),第7展示室の,「クロード・モネに捧ぐ」(モネのオランジュリーの「睡蓮」がモティーフ)もそれぞれ,本歌取りでありながら,本歌を凌ぎかねない名作。オランジュリーのモネには,目の衰えとともに忍び寄る死に対する深い悲しみすら感じ,少し暗いトーンが全体を覆っているが,ザオのこの作品には,あのモネの薄桃色の輝き,そしてザオの青とが見事にコラボレートし,手前の黒っぽい木を思わせる物体の静かな落ち着きと相俟って,見事な自然賛歌になっている。
 
今回の展覧会では,ザオという人間の,自然の中から感じた霊感と魂や心の美しさを深く感じた。そして,冒頭で触れたように,鑑賞して「魂が浄化された」ことから考えると,さぞ,ザオという人は,澄み切った美しく高貴な心の持ち主に相違ないと感じた。
ザオは,パウル・クレー,セザンヌらの影響を受けてきたと言われる(第1展示室の作品の色遣いからは,シャガールの影響も感じた)が,彼は,これらの先達を大きく超えたのではないか,その魂の美しさにおいて。そんなことすら感じさせる素晴らしい展覧会であった。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは (lysander)
2005-01-17 00:38:15
とうとう終わってしまいましたか...

堪能されたようで何よりです!
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終わりました (vagabond67@管理人)
2005-01-17 22:44:51
そうなのです。終わってしまいました。

何とか滑り込みセーフで,素晴らしい展覧会を体験することができました
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次は何時… (はろるど・わーど)
2005-01-17 23:42:44
こんにちは。



vagabond67@管理人さんも、

あの素晴らしい世界に触れられたようで何よりです。



>心と体で作品から湧き出てくる何かを感じればよいのだ,これらの作品を見て,そう決心した。



そうですね。

全身で受け止めなくてはならないような、

そんな偉大な力を作品から感じました。

次は何時どこで鑑賞出来るのか…、また楽しみです。
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体験 (vagabond67@管理人)
2005-01-19 01:04:58
正直言って,抽象画に対するアレルギーがありました。

それでも,皆さんが素直に賞賛されているのを読むにつけ,体験したくなりました。心の底から。

次回,どこで相見えることができるのか,それも運命かもしれない,と澄んだ気持ちで構えることができます。あの澄み切った世界に触れた後では。
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