vagabond の 徒然なるままに in ネリヤカナヤ

エメラルドグリーンの海,溢れる太陽の光,緑の森に包まれた奄美大島から,乾いた心を瘉す写真をお届けします。

琳派展を見て~「擬作」の検証 と 加山又造の再発見

2004-09-19 23:45:39 | 美術
「琳派 RIMPA」展(東京 国立近代美術館)を見に行った。日本画を見ることは多くはないが,今回の展覧会には水準の高さを感じた。俵屋宗達,尾形光琳から酒井抱一,鈴木其一を経て,横山大観,前田青邨,そして加山又造へと琳派がどのような展開を見せたのかを俯瞰するとともに,クリムト,マティスら西洋画家らにどのような影響を与えたのか,同じく装飾性を指向しながらどのような相違を見せるのか等を展望する,なかなか意欲的な展覧会である。

光琳では,(あの有名な)「風神雷神図屏風」(重文)も良いが,「松島図屏風」(ボストン美術館)が,濃い緑の松島と光琳特有の波が大胆な構図の中で描かれており,爽やかな心地よさを感じさせる佳品。鈴木其一の「朝顔図屏風」(メトロポリタン美術館)も,濃い群青の朝顔が生命力溢れる蔓と葉を散りばめた構図の中で活き活きと描かれており素晴らしい。その他,酒井抱一の「夏秋草図屏風」「月に秋草図屏風」(いずれも重文),川端龍子「草炎」も良かったが,私にとって今回の最大の収穫は,加山又造の発見であった。

又造との最初の出会は,天竜寺法堂の「雲龍」であった。直径9メートルの円の中に躍動する龍にはしばし息をのんだが,その後,気になる存在ではあったものの,追い掛けることはなかった。しかし,琳派の系譜の中で眺めた彼の存在は,(少なくとも今日の展覧会を見る限り)圧倒的に大きなものに感じられた。出品作は「千羽鶴」。光琳風の波が大きくうねる中,無数の鶴がきらびやかに舞う姿は,装飾美の一つの頂点ではないかとさえ感じられた。又造は,今年4月に逝去したが,惜しい人を亡くしたと今さらながらに思う。回顧展はどこかで行われたのだろうか?是非,又造の作品をある程度まとめて鑑賞したい。

ところで,今日の一番の目当ては,やはり光琳の技術。
8月に,NHKで「光琳 解き明かされた国宝の謎」という番組があった。
その中で,国宝「紅白梅図屏風」は,琳派の評価が飛躍的に高まった明治30年代以来,『金箔』を張り付けて描かれていると考えられてきたが,実は,科学的な分析の結果,「かりやす」という植物顔料を刷毛塗りした上に,金泥を刷毛塗りしたものであるとの事実が最近になって判明したとの紹介がされていた。金箔であると見せかける(だます)ために,箔足(金箔を重ね合わせたときにできる厚みのある部分)も同様の手法で描き込んでいたとのこと。
印象的な流水の部分も,これまで『銀箔』と考えられてきたが,西陣織の手法を利用して,型紙を用いて描いているため,よく見ると細かな直線が繋ぎ合わせて描かれたように見えるのだそうだ。
実際の手法とは別の手法で製作したと見せかけた作品を「擬作」というのだそうだが,「紅白梅図屏風」も同様にこの「擬作」だったことが判明したとのこと。光琳がなんのために,わざわざ「擬作」を行ったのかは番組では明かされなかったが,いかにも元禄文化の遊び心を感じた(番組では,「焼き物」に見せかけた「漆塗り」も紹介していた。)。

影響を受けやすい私は,光琳の描いた絵,一枚一枚を「擬作」か否か見ようとしましたが,やっぱり分からない。日本美術史の第一人者である辻 東大名誉教授も,これまで金箔(背景部分)と銀箔(流水部分)と信じて疑わなかったというのだから,素人の私に分かるわけがないのです
ともかくも,この番組を見て展覧会に臨んだ分,大いに楽しませてもらった。MOA美術館から,「紅白梅図屏風」が出品されていればもっと良かったのだが,これはちと贅沢か。

最後に,展覧会の展示方法について一言。三連休の中日とあって,開館間際から会場は混雑していた。入口付近には,異彩を放つクリムトの美しい絵。入口左に,「松島図屏風」,入口右に「槙楓図屏風」(重文)ほかの光琳の名品がずらりと並び,突き当たりに,「風神雷神図屏風」と名作がぎっしりと展示されている。その結果,会場は,人の入具合に比べても,大いに混雑していた。その後のスペースも,休憩のための椅子も殆どなく,廊下のように細長いスペースにずらりと作品が並ぶという,作品鑑賞の環境としては,あまり優れたものとは感じられなかった。
これだけの意欲的な展覧会なのだから,展示面積をもっとゆったりと取り,配置間隔にも工夫を凝らして,ゆったりと作品鑑賞できるようにして欲しいものだ。おまけにもう一つ文句をいえば,絵はがきの彩色が今一だった。

いずれにせよ,優れた展覧会であることは間違いない。あまり日本画を見る機会はないが,京都国立博物館で2000年10月に見た「若冲展」以来,印象に残る展覧会だった。
★10月3日まで。なお,琳派展のHP上に,「割引引換券」のコーナーがあり,印字して持参すると100円引になる。