愛娘に対する父の慈しみが深く、深~く感じられて、清清しく爽やかな感動を受けられた良書でした。
父、小菅留治(藤沢周平)は、普通であること、平凡な生活を守ることにこだわっていました。
娘の展子さんには、「見栄を張るな。自分を大きく見せようとするな。自慢するな。絶えず謙虚であれ。ひかえ目であれ。」と終始言い聞かせていたそうです。
そして彼はこうも言います。
「偉そうにするな!威張るな!その人に魅力があるならば、あれこれ自慢しなくても人はついてくる。」
『散歩の途中で』の章では、東久留米の家に住んでいた頃、黒目川の河川敷にふたりで散歩に出かけていた話が出てきます。
シロツメクサを摘んで、腕輪や冠を作ったり、四葉のクローバーを探したり、ツクシを山ほど摘んで帰ったりしてゆるやかな時間を楽しんでいました。
そして故郷の山形県鶴岡市の自然に想いを馳せ、ふきのとう探しに没頭するのです。
「おい!展子、あったぞ!」
道ばたにポツンとひとつだけの貴重なふきのとうを見つけ、うれしそうに、大事に家に持ち帰って庭に植えたそうです。
「たそがれ清兵衛」や「蝉しぐれ」などの映画を観ても、藤沢周平の基本原点は、「人間としての思いやりの大切さ」「つつましい暮らしの幸せさ」「家族を労わり思う心の大事さ」などでふんわり包まれているような気がします。
派手さはないけれど、人の心にじんわりと染み入ってくる優しい世界が私は大好きです。
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