僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

忘れ草

2012-02-14 00:23:24 | 


夏から秋にかけて咲く「忘れ草」という花である。ワスレグサとは万葉の時代から詠み継がれた名前である。今は「ヤブカンゾウ」のことを言うが、「ワスレグサ」の方が
野の中に取り残された儚い花を思い浮かべることができ、風情がある。

カンゾウは萱草とも書き、立原道造の詩集に「萱草に寄す」という作品がある。

昭和9年7月22日、彼は、信州浅間高原追分で弁護士の娘、関鮎子と出会い、プラトニックな恋をする。
彼女を浅間高原に咲く可憐な「ユウスゲ」に託して、「ゆうすげびと」と呼んだ。
「ゆうすげ」もまた忘れ草である。


村ぐらし/立原道造

あの人は日が暮れると 黄いろな帯をしめ
村外れの追分け道で 村は落葉松の林に消え
あの人はそのまゝ黄いろなゆうすげの花となり
夏はすぎ・・・・・・・

この詩を歌い彼は雑誌「四季」の新星となった。






ゆうすげびと/立原道造          


かなしみではなかった日のながれる雲の下に
僕はあなたの口にする言葉をおぼえた
それはひとつの花の名であった
それは黄いろの淡いあはい花だった


僕はなんにも知ってはゐなかった
なにかを知りたく うっとりしてゐた
そしてときどき思ふのだが 一体なにを
だれを待ってゐるのだらうかと


昨日の風に鳴っていた 林を透いた青空に
かうばしい さびしい光のまんなかに
あの叢に 咲いていた・・・・・さうしてけふもその花は


思いなしだか 悔いのやうに――
しかし僕は老いすぎた 若い身空で
あなたを悔いなく去らせたほどに!






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