僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

大根売りの男

2009-06-03 22:44:59 | Weblog

いい人情噺を紹介します。



あるところに、大根売りの男がいました。
朝、大根を仕入れて、大八車に乗せて町中を売り歩きます。
大変貧乏な暮らしをしていました。
なぜなら、この男は怠け者で、雨が降ると仕事を休み、
酒や博打におぼれていたからです。

年も迫ったある日のこと。どうしても年越しのお金が必要になって、
一日中売り歩きましたが一本も売れませんでした。


ある武家屋敷の前を通ると、
「これ、大根屋」
と声がかかりました。男は、喜んで裏口から入りました。

その家の主人が出てきました。
「その大根はいかほどか」
「はい、3本で100文でございます」
「それは高い。75文に負けよ」
「それでは原価を切ってしまいます」
「なら、またにしよう」
そういって、奥に戻ってしまいました。



男は、途方に暮れました。
そのとき、屋敷の縁前に、洗面器が置いてあるのに気づきました。
それは、売れば高い値が付くと思われました。
ついつい、男は、その洗面器を盗み、大根の山の中に隠しました。
そして、こっそりと、屋敷を出ようとしたその時です。

再び、主人が出てきて、


「これ、大根屋。
全部言い値で買ってやろう。
縁前に大根を全部並べなさい」

男は青くなりました。
今さら、洗面器を出すこともできません。
血の気が引き、地面に座り込んでしまいました。

しばらくして、男は覚悟を決め、言いました。
「旦那様。まことに申し訳ございません。
今日は、一文の商いもなく、家族が食べるのに困ると思い、
つい洗面器を盗んでしまいました」

すると、
「お前が洗面器を盗んだことを知っていたので、
生活に困っていると思い、全部買ってやるのだ。
24本分、800文だ。
その洗面器もお前にあげよう。
貧しさに負けた盗みとはいえ、お前の生活からきている。
その洗面器で、お前の汚れた根性を洗って、
清らかな心になりなさい」



家に帰って女房に、このことを話しました。
それから、この夫婦は、一生懸命に働き、
自分の八百屋を持ったそうです。
そして、夫婦揃って、あのお屋敷にお礼に行き、
お屋敷の出入りが許されるまでになりました。


世の中捨てたものじゃないですね!




 


























最新の画像もっと見る

コメントを投稿