僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

無償の愛

2017-05-08 17:38:44 | 
 山形市のTさんが亡くなった。入院して4日目のことだった。

Tさんは愛犬の話しをすると よく
ほころんだ顔から銀歯がちらりと見えた。

私にはよく吠える犬もTさんには懐き、よき従僕だった。


 Tさんは若い時から仕事でもらった給料を奥さんに半分だけ渡した。
なぜ半分だけなのか

聞いた奥さんにTさんはこう言った。

「河原に住む宿を持たない人に食料を分けてあげている・・・」

普通こういう風に言われたら誰しも憤慨するだろう、

けれど彼の奥さんは黙ってうなずき、仕立て仕事の内職にうちこんだ。

 Tさんは、市役所に連絡する方法など露知らず、毎日複数の人にせっせと食事を運んだ。

そしていくら生活が苦しくても弱音を吐かず、子供の前で苦しさを見せなかったという・・・

それは奥さんでも同様だった。米の減りが早くても、予定していたおかずが消えていても
旦那様を責めず、内職に精を出していた。

彼らの子供さんは、そんな両親をみて偉いとはいわず、凄いと評した。

無償の愛とはなんだろう?

自己犠牲とはどんな行為をいうのだろう?

私はアメリカにも存在した恵まれない人にそっと20ドル紙幣を渡すシークレットサンタを思い出した。
彼は自分が困っているときに助けてもらった恩を忘れなかったのだ。

シークレットサンタの名は決して他の人に明かさなかったけれど
妻にばれてしまい、正直に打ち明けた。

そして彼の妻は、彼の美徳を受け入れ尊重したそうだ。



日本にもランドセルを無償で配る伊達直人がいる。

けれど
Tさんの行ってきたことは新聞に出たことなどはない。
生前Tさんの口から自分の行いを説明されたこともない。
まして美徳を押しつけがましく語られたこともない。

自分がこうだと思ったことをする人だった。
それを家族はそっと見守っていた。

Tさんに
「こんなこと書いちゃダメじゃないか!」
と怒られそうだ。