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僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

春の思ひ出/中原中也

2010-05-27 23:09:57 | 
 春の思ひ出
                         中原 中也

      摘み溜めしれんげの華を
        夕餉に帰る時刻となれば
      立ち迷ふ春の暮藹(ぼあい)の
        土の上(へ)に叩きつけ

      いまひとたびは未練で眺め
        さりげなく手を拍きつつ
      路の上(へ)を走りくれば
        (暮れのこる空よ!)

      わが家へと入りてみれば
        なごやかにうちまじりつつ
      秋の日の夕陽の丘か炊煙か
        われを暈(くる)めかすもののあり

      古き代の富みし館(やかた)の
        カドリール ゆらゆるスカーツ
        カドリール ゆらゆるスカーツ
      何時の日か絶えんとはする カドリール!
    (「山羊の歌」、昭9)



たくさんの風船

2010-04-24 15:45:30 | 
お祭りの賑わいの中はしゃぐ小さき子らの声

いつの間にこどもの手を離れる別れの風船は

こどもの涙とともにおおらかに舞い立つ

風船は自由に

風船は大空に消えゆく・・・



今、大人になった僕の狙いは風船に願いをかけること

色とりどりの風船一個一個に好きな人の名前と想いを封じ込め

ヘリウムガスとともに大空に放つ


それを拾った天空の神は キューピッドに命じ

想い人の胸を黄金の矢で射抜くんだ

そうすれば彼女の心は もう意のまま 思いのまま

僕はもう泣きぬれることもないだろう


途中で樹木の梢にひっかかることのないよう

烏の野郎に啄ばまれて割れることのないよう

僕は、たくさん たくさん 風船を飛ばすんだ

神様の目が風船を逸することがないように

色とりどりの風船を いっぱい飛ばすのさ


翔んだ記憶

2009-02-07 22:44:45 | 

私が大学の頃書いた詩です。



翔んだ記憶



忘却(わすれ)がたいスクリーンが今日という日に・・・

哀しいというより

あたたかく諧謔的で

身を焦がす蛍はもういない

時間の一致が夢のような過去を

現実に戻したようだ

鮮やかな記憶というより

パラダイス気分で眠ろうと思うんだ

ヒロインが笑った

君は一点を見つめていた

僕は腰がひどく痛かった

しあわせにしてるかい

翔べない僕の傍らを離れて


       -君といつかみた映画を見てハハハと笑った日ー

別れ

2009-02-07 22:09:36 | 
今日作った「詩」らしきものです!



別れ



喫茶「R」をあとにして

にわか雪にとまどうふたり

相合傘でいきましょう

あしたぼくは東京

このままふたりでよりそって

永遠に生きていければいいでしょうが

明日のいまはたぶん東京

「結婚したい・・・」

喉もとまで出掛かっているが

吐き出せなかった言葉

なんどこの言葉を吐露しようとしたか

もう二度と告白する事もない

もう二度と会う事もない

幻影に幾度となく問いかけるのか

中原中也

2008-04-05 21:41:14 | 
中原中也は太宰治に「好きな花は?」と聞いて、
「桃の花」と小声で答える太宰に
「そんなんだから君はだめなんだ。」と言い放った中也をわたしは嫌いです。
でも彼の詩はいいものもあります。

春宵感懐

雨が、あがつて、風が吹く。
 雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵(よひ)。
 なまあつたかい、風が吹く。

なんだか、深い、溜息が、
 なんだかはるかな、幻想が、
湧くけど、それは、掴(つか)めない。
 誰にも、それは、語れない。

誰にも、それは、語れない
 ことだけれども、それこそが、
いのちだらうぢやないですか、
 けれども、それは、示(あ)かせない……

かくて、人間、ひとりびとり、
 こころで感じて、顔見合せれば
につこり笑ふといふほどの
 ことして、一生、過ぎるんですねえ

雨が、あがつて、風が吹く。
 雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵。
 なまあつたかい、風が吹く。


初恋

2007-12-04 22:28:55 | 

初 恋


まだあげ染めし 前髪の

林檎のもとに 見えしとき

前にさしたる 花櫛の

花ある君と 思いけり


やさしく白き 手をのべて

林檎をわれに あたえしは

薄くれないの 秋の実に

人恋い初めし はじめなり


我が心なき ため息の

その髪の毛に かかるとき

楽しき恋の 杯を

君が情けに 酌みしかな


林檎畑の 樹の下に

おのずからなる 細道は

誰が踏みそめし かたみぞと

問いたもうこそ 恋しけれ


 有名な島崎藤村の「初恋」です。彼が二十歳の時に明治女学校高等科英文科の教師で食いぶちを稼いでいる頃、佐藤輔子と恋に落ちたのです。この女性が「初恋」のモデルといわれています。
 しかし、藤村は輔子に思いを打ち明ける事はできませんでした。輔子は自分の教え子で、いわゆる禁断の恋だったのです。しかも、彼女にはすでに婚約者がおりました。初めから叶うはずのない恋に苦悩し、教師を辞して、関西へあてのない流浪の旅に出てしまうのです。
 現実逃避の旅は半年にも及びましたが、輔子への思いが消える事はありませんでした。悶々とする藤村のもとに、衝撃的な知らせが舞い込んできます。なんと輔子が病死してしまったというのです。藤村は、この時のショックを
「大地がゆらぐように感じられ、あたりが黄色く見えた」と表現しています。

感銘を受けたことば

2007-04-05 23:06:30 | 
 愛する人に

人の一生は洪水のように大きく激しい流れでなくていい

清水のように、あの岩陰の人目につかぬ滴りのように

清らかに、ひそやかに自ら耀いて生きて貰いたい

              (新潮文庫「井上靖全詩集」)