「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・02・17

2014-02-17 06:50:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

「わが国でも昔は英雄色を好むといった。ついこの前まで政治家の政治家たるゆえんは、国事にあって婦人になかった。また当時の花柳界には男をだます商売女がいて、男はだまされたふりをしてストレスを散じたから、素人の女に手を出さないですんだ。出してもそれで失脚するようなことはなかった。伊藤博文がその代表である。
 政治家にまた男に、身辺清潔を求めるのは偽善である。婦人に選挙権を与えればこうなる。婦人は落選させるぞとおどすから候補者は清潔のふりをしなければならない。
 そこに赤新聞の出る幕がある。候補者の家にはりこんで、女性客の写真をとれば特だねになる。けれども表むきだけでも婦人が清潔だった時代は去った。今は清潔でないこと男子と同じだと自他ともに認めるようになった。身辺清潔なだけの男なんて、亭主にしても面白くもないといえば分るだろう。政治家に何より身辺清潔を求めてそれを得ると、ひとは他の多くを失う。
                               〔Ⅳ『身辺清潔な人』昭62・6・4〕」

(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)

             
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