今日の「お気に入り」は、加島祥造さん(1923- )の「『タオ――老子』第二章」から。
名のない神秘の領域から、
天と地が分かれた。
この天と地の世界では、
ものに名がつくし、観念にも名がつく。
ところで、美しいものと醜いものがあるんじゃない
美しいと名のつくものは、汚いと名のつくもののおかげで
美しいと呼ばれるんだ。
おたがいに片っぽだけじゃありえない。
善だって、そこに悪があるからはじめて、
善として存在するんでね。
悪のおかげで、善があるってわけだ。
同じように、
いま存在しているものも、
存在しないものが裏にあるから、存在しうるんだ。
ちょうど、難しいことと易しいことが、
片っぽだけじゃあり得ないのと同じさ。
「長い」といったって、短いものと比べるから長いのさ。
「高い」といったって、低いものがあるから高いんだ。
歌だって、声とメロディーがあるから、歌なんだ。
「前」という観念だって、「後」があるからのことなんだ。
だから、本当に賢い人というのは、あまり手軽に判断しない。
こうと決めたって、ことは千変万化して、
絶え間なく動いてゆくからだ
このタオの本当のリアリティを受け入れるとき、
君は何かを造っても、自分の腕を誇らなくなる。
よく働いて成功しても、その成果を自分のものにしなくなる。
仕事をし終わったら、忘れてしまう。
すると、かえって、
その人のしたことは、ほかの人々に深く沁み込むのだ。