アンドレアス・マルム (著), 箱田徹 (翻訳)
世界に広がる《気候運動》の闘う思想と行動の歴史を説き明かす、欧米で波紋を投じた話題の書。人新世論から資本新世論へ――論争を切り開く世界的研究者のラディカルな挑発!
目次:序文/闘争の歴史に学ぶ/呪縛を解く/絶望と戦う/補論――反撃はいつ始まるのか?/訳者解説
目次:序文/闘争の歴史に学ぶ/呪縛を解く/絶望と戦う/補論――反撃はいつ始まるのか?/訳者解説
著者について
アンドレアス・マルム(Andreas Malm, 1977-):スウェーデンの人間生態学者、ノンフィクション作家、環境活動家。ルンド大学人文地理学部准教授。著書に『化石資本』(Fossil Capital, Verso,2016. 本書で2016年にドイッチャー記念賞受賞)、『コロナ、気候、慢性的非常事態』(Corona, Climate, Chronic Emergency, Verso, 2020)など。
箱田 徹
神戸大学教員(思想史)。著書に『フーコーの闘争』(慶應義塾大学出版会)、『ミシェル・フーコー』(講談社現代新書)、『フーコー研究』(岩波書店、共著)ほか。翻訳にM・ハート&A・ネグリ『アセンブリ』(岩波書店、共訳)、A・マルム『パイプライン爆破法』(月曜社)、K・ロス『68年5月とその後』(航思社)など。
物騒な書名だ。けれども、著者は「財物破壊はイエス。しかし、人間への暴力にはノー」(p.225)と明言している。
不必要にCO2を排出する金持ちの高級車を動けなくする、パイプラインに穴を開ける、そうした財物破壊によって、社会や政治がCO2による殺人的地球危機を深く認識し、「化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を進め、国家に経済活動からの化石燃料の排除を行わせる上で不可欠と思われる、騒然とした状況をもたらす」(p.233)と著者は言う。
人間に暴力を向けなくても、財物破壊も暴力ではないのか。
ひとつは、CO2排出による地球温暖化による熱帯の灼熱地獄は、「スラムに住み、屋外や換気の悪い建物内で働く人びと、つまり、グローバルサウスの労働者階級」(p.214)などに向けられた、CO2を大量に産み出す裕福な人びとによる暴力である、ことが本書では指摘されている。
「所得および富とCO2排出量とのあいだにはきわめて密接な相関関係がある・・・ごく一握りの人びとが、きわめて不釣り合いな量の温室効果ガスを排出している・・・米国の最富裕層はモザンビークの最貧困層の二千倍以上ものCO2を排出している・・・奢侈的排出は豊かな人びとがみずからの地位の快楽に耽るために生じるものだが、生計用排出は貧しい人びとがなんとか生きていくために生じる」(p.109)。
奢侈的用途でCO2を排出し、グローバルサウスの貧しい人びとを苦しめ、時には死なせる世界富裕層の生活、資本主義こそが暴力であろう。しかも物だけでなく人を傷つけている。
高級車やパイプラインの破壊は、「奢侈的排出を生み出す装置への攻撃」(p.115)だと言う。(パイプラインの攻撃はグローバルノースの都市の貧困層の生活も脅かしそうな気もするが・・・)
「金持ちには他人を燃やして死なせる権利などないのだ」(p.116)。富裕層の奢侈な生活のために石油を燃やしCO2を出しサウスに灼熱をもたらすことは、サウスの貧しい人びとの生命を燃やすことに等しい。
それから、物の破壊と人への危害や殺人は同じ暴力とは言えない。「財物破壊は・・・人間(または動物)の顔を殴る暴力とは種類が異なる・・・車を残酷に扱ったり、泣かせたりすることはできない。車には火をつけられると部分的に失われる権利は存在しない」(p.128)。
「できるだけ多くの参拝者を殺そうとモスクに入る人物はテロ行為に着手している。パイプラインに穴を開けたり、貯蔵施設に火をつけたりすることは・・・ヴァンダーハイデンによれば「テロリズムとはカテゴリー上は別種の行為」である」(p.135)。
環境問題は景観保持だけの問題ではない。アメリカでは白人警官によって黒人が殺される事件が起こっているように、金持ちの奢侈で大量なCO2排出によって南の貧しい人びとが死んでいる。
この緊急性を政治や社会、人びとに強く広く認識させるためには、政府のSDGSキャンペーン作戦に乗せられるだけでよいのだろうか。緊急な事態を知らせるには、非常ベルを鳴らし、ドアをたたき、開かなければ、斧で壊さなければならない。これは守衛さんを銃殺することではない。
不必要にCO2を排出する金持ちの高級車を動けなくする、パイプラインに穴を開ける、そうした財物破壊によって、社会や政治がCO2による殺人的地球危機を深く認識し、「化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を進め、国家に経済活動からの化石燃料の排除を行わせる上で不可欠と思われる、騒然とした状況をもたらす」(p.233)と著者は言う。
人間に暴力を向けなくても、財物破壊も暴力ではないのか。
ひとつは、CO2排出による地球温暖化による熱帯の灼熱地獄は、「スラムに住み、屋外や換気の悪い建物内で働く人びと、つまり、グローバルサウスの労働者階級」(p.214)などに向けられた、CO2を大量に産み出す裕福な人びとによる暴力である、ことが本書では指摘されている。
「所得および富とCO2排出量とのあいだにはきわめて密接な相関関係がある・・・ごく一握りの人びとが、きわめて不釣り合いな量の温室効果ガスを排出している・・・米国の最富裕層はモザンビークの最貧困層の二千倍以上ものCO2を排出している・・・奢侈的排出は豊かな人びとがみずからの地位の快楽に耽るために生じるものだが、生計用排出は貧しい人びとがなんとか生きていくために生じる」(p.109)。
奢侈的用途でCO2を排出し、グローバルサウスの貧しい人びとを苦しめ、時には死なせる世界富裕層の生活、資本主義こそが暴力であろう。しかも物だけでなく人を傷つけている。
高級車やパイプラインの破壊は、「奢侈的排出を生み出す装置への攻撃」(p.115)だと言う。(パイプラインの攻撃はグローバルノースの都市の貧困層の生活も脅かしそうな気もするが・・・)
「金持ちには他人を燃やして死なせる権利などないのだ」(p.116)。富裕層の奢侈な生活のために石油を燃やしCO2を出しサウスに灼熱をもたらすことは、サウスの貧しい人びとの生命を燃やすことに等しい。
それから、物の破壊と人への危害や殺人は同じ暴力とは言えない。「財物破壊は・・・人間(または動物)の顔を殴る暴力とは種類が異なる・・・車を残酷に扱ったり、泣かせたりすることはできない。車には火をつけられると部分的に失われる権利は存在しない」(p.128)。
「できるだけ多くの参拝者を殺そうとモスクに入る人物はテロ行為に着手している。パイプラインに穴を開けたり、貯蔵施設に火をつけたりすることは・・・ヴァンダーハイデンによれば「テロリズムとはカテゴリー上は別種の行為」である」(p.135)。
環境問題は景観保持だけの問題ではない。アメリカでは白人警官によって黒人が殺される事件が起こっているように、金持ちの奢侈で大量なCO2排出によって南の貧しい人びとが死んでいる。
この緊急性を政治や社会、人びとに強く広く認識させるためには、政府のSDGSキャンペーン作戦に乗せられるだけでよいのだろうか。緊急な事態を知らせるには、非常ベルを鳴らし、ドアをたたき、開かなければ、斧で壊さなければならない。これは守衛さんを銃殺することではない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます