
『ただ悪より救いたまえ』(ただあくよりすくいたまえ、原題:다만 악에서 구하소서)は、2020年に公開された韓国の犯罪アクション映画。ホン・ウォンチャンが監督と脚本を担当し、ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェ、パク・ジョンミンらが出演した。
ストーリー
暗殺者のインナムは東京のヤクザであるコレエダを殺害することに成功する。しばし引退生活を送っていたインナムだったが、ある時元妻がタイのバンコクで殺害され、別れた後に生まれたインナムとの娘が行方不明だと知らされる。
インナムはバンコクに渡るが、かの地にコレエダの凶暴な弟であるレイも出現。インナムは娘の奪還だけでなく、報復のため襲いかかってくるレイとの対決も強いられることになる。
キャスト
凄腕の暗殺者インナムは引退前の最後の仕事として、日本にいるヤクザ・コレエダを殺害する。しかし、それで裏社会から足を洗うというわけにはいかなかった。コレエダの義兄弟だった冷酷な殺し屋レイは復讐のためインナムを追い、関わった者たちを次々と手にかけていく。一方、インナムの元恋人は彼と別れた後に密かに娘を産んでタイで暮らしていたが、その娘が何者かに誘拐されてしまっていた。
『ただ悪より救いたまえ』感想(ネタバレなし)
コロナ禍を吹き飛ばしたノワールアクション
韓国映画界もコロナ禍で大打撃を受け、その本格的なパンデミックの始まりの年である2020年は低調でした。観客動員数も500万を超える大ヒット作は無し。せっかく『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー作品賞受賞で世界的に韓国映画の注目がかつてないほどに高まっていたのに、この機運をこうも流してしまうなんて…。
そんな2020年の韓国における映画の興行収入ランキングでトップに立ったのは『KCIA 南山の部長たち』でした。ただこの映画は韓国での公開が2020年1月22日だったのでコロナ禍の影響をそれほど直撃して受けていません。
そう考えるとコロナ禍で最も頑張って観客を集めた作品は興行収入ランキングで2位となったこの映画でしょう。
それが本作『ただ悪より救いたまえ』です。
『ただ悪より救いたまえ』は韓国では2020年8月5日に公開。閑散とした映画館に先陣を切って突き進んだ話題作『新感染半島 ファイナル・ステージ』(7月15日公開)の後に続いたかたちです。そして『ただ悪より救いたまえ』は381万人以上の観客の心を鷲掴みにする大好評となりました。
やはり人気の俳優陣が揃っていたことも大きいのかな。
主人公を演じるのは、『新しき世界』では裏社会組織のボス、『国際市場で逢いましょう』では激動の時代を生きた人情溢れる父親、『ベテラン』では行動派の熱血刑事、『コクソン 哭声』では得体の知れない怪しい祈祷師、『アシュラ』ではぶっとびすぎている極悪市長、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』では苦渋の決断を迫られる工作員…とにかく幅広い役柄を演じられる“ファン・ジョンミン”。今作では複雑な葛藤を抱える暗殺者を熱演し、その深みある演技が堪能できます。
その“ファン・ジョンミン”と並ぶのが、『新しき世界』でも共演したことのある、こちらも韓国映画界で熟練の演技力に定評のある“イ・ジョンジェ”。『神と共に』シリーズでは閻魔大王を演じたり、『サバハ』ではカルトに挑んだりと、毎度強烈な印象がある俳優でしたが、2021年はやはり何と言ってもドラマ『イカゲーム』で世界的に話題の人になっちゃいましたから…。『ただ悪より救いたまえ』ではその後の『イカゲーム』フィーバーが訪れるとは知らず、こちらこちらで凄まじくイカレた役で登場して印象をかっさらっていきます。
“ファン・ジョンミン”と“イ・ジョンジェ”が対決するだけで最高じゃないですか…。
他の共演は、『狩りの時間』『スタートアップ!』などの“パク・ジョンミン”も活躍。まあ、この今回の“パク・ジョンミン”の役柄・演技に関してはいろいろ言いたいこともあるし、それについては後半の感想で書くけど…。
本作は日本やタイなど韓国以外の国も舞台になり、そういうわけで日本からは『ヤクザと家族 The Family』などの“豊原功補”が出演しています。
また、あんまり出番はないのですけど、『金子文子と朴烈』で主役の座を飾った“チェ・ヒソ”も出演。
『ただ悪より救いたまえ』の監督は“ホン・ウォンチャン”という人で、『チェイサー』『哀しき獣』『殺人の告白』などの脚本に携わり、2015年に監督デビュー作『オフィス 檻の中の群狼』を手がけています。『ただ悪より救いたまえ』の大ヒットで“ホン・ウォンチャン”監督のキャリアにも火がついたはず。
“ホン・ウォンチャン”監督はノワールが得意なのか、今回も濃密なノワールが充満する映画になっているのですが、『ただ悪より救いたまえ』は瞬間的に「あれ、ワイルドスピードなのかな?」というくらいのド派手アクションが炸裂してノワールが吹き飛ぶ勢いを見せるのが特徴。ここ最近の韓国映画はアクションがハリウッド的な爆発力へとステージアップしている気がする…。
それにしても日本では本作をクリスマスイヴに公開したんですよね。同日には『レイジング・ファイア』も公開していたし、なんかイヴにはそういう映画を上映する流れができてるの?
ノワールアクションが好きならとりあえずは面白いことは間違いないですし、昨今の韓国映画のアクションの切れ味に驚きながら、男と男のセクシーな衝突が拝める、贅沢なフルコースです。
✔『ただ悪より救いたまえ』の見どころ
★俳優陣の演技のぶつかり合い。