【3月7日更新】 医療費が高額になった患者の自己負担を抑える高額療養費制度について、石破総理大臣は、ことし8月の負担上限額の引き上げを見送った上で、秋までに改めて方針を検討し、決定すると表明しました。
首相「ことし8月の引き上げ見送り」表明
高額療養費制度をめぐり、石破総理大臣は3月7日夜、総理大臣官邸で、がんや難病の患者団体と面会し、要望を聞いたあと、福岡厚生労働大臣と加藤財務大臣、それに自民党の森山幹事長と公明党の西田幹事長らと相次いで会談しました。
このあと石破総理大臣は記者団に対し「これまでも指摘を真摯に受け止め『多数回該当』の方の負担の据え置きや、令和8年度以降の所得区分の細分化の再検討などを行い、その点については、一定の評価をもらったが、ことしの分の定率改定を含め、今回の見直しについては、なお理解を得るには至っていない」と述べました。
その上で「患者団体に理解をいただけない理由の1つとして検討プロセスに丁寧さを欠いたとの指摘をいただいており、政府として重く受け止めなければならない。患者の皆さまに不安を与えたまま、見直しを実施することは望ましいことではない」と述べました。
そして国会審議の中で立憲民主党や日本維新の会に加え、与党の中からも意見が出たことに触れ「ことし8月に予定されている見直し全体について実施を見合わせることを決断した」と述べ、高額療養費制度のことし8月の負担上限額の引き上げを見送った上で、秋までに改めて方針を検討し、決定すると表明しました。
さらに「患者の皆さまにとって大切な制度であるからこそ、丁寧なプロセスを積み重ねることで、持続可能なものとして、次の世代に引き継がれるよう心から願い、努力をしていきたい」と強調しました。
また「新年度予算案が衆議院を通過したのちにこのようなことを申し上げるのは大変申し訳ないことだと思っているが、引き続き、予算案の年度内成立に向けて努力していく。極めて厳しい決断であることを理解いただきたい」と述べました。そして引き上げの見送りを踏まえつつ、ヨアン案の年度内成立を図るため、必要な手続きをとるよう、与党に指示したことを明らかにしました。
患者団体「決断には感謝したい 今後の議論には患者も」
「全国がん患者団体連合会」の天野慎介理事長は7日夜、会見し、「決断には感謝したい。ただ、秋までに改めて制度のあり方を検討するということだが、そのプロセスについては言及がなかった。今回は短時間の審議で引き上げ案が示されたことが一番の問題だったと思っている。再び不十分な検討の中で同様の引き上げ案が出てくることを懸念している。今後の議論には患者も関わらせてもらいたい」と話しています。 また、「日本難病・疾病団体協議会」の辻邦夫常務理事は「石破総理大臣の決断は大変評価したいが、ここまで結論を先延ばしにしてきたことには問題があったと思う。今回は患者だけではなく、学会や地方自治体などからも反対の声が上がったが、今後は拙速に結論を出さないことを期待したい」と話しています。
(これまでの議論の経緯などをこちらにまとめています↓)
高額療養費制度とは?
去年12月、2025年度予算案の決定に向けた福岡厚生労働大臣と加藤財務大臣との折衝では、医療費が高額になった患者の自己負担を抑える「高額療養費制度」を見直し、2025年8月から、ひと月あたりの負担の上限額を引き上げることが決まりました。
「高額療養費制度」とは 高額な治療を受けた場合に、患者の負担が重くならないよう年齢や年収に応じて、ひと月あたりの医療費の自己負担に上限を設けているもの。
引き上げ額は?去年12月の協議では
政府は、高齢化に加えて高額な薬の利用などによって、医療保険の財政が悪化していることから、見直しの議論を進めてきました。そして、支え手となる現役世代の保険料負担を軽減するため、去年12月、ひと月あたりの負担上限額を、段階的に引き上げる方針を決めました。詳しくは以下の通りです。
2025年8月からの負担上限額 (70歳未満)
年収
ひと月当たり
上昇幅
住民税非課税
3万6300円
900円↑
~約370万円
6万600円
3000円↑
約370万円~
8万8200円程度
8000円余↑
約770万円~
18万8400円程度
2万円余り↑
約1160万円~
29万400円程度
4万円近く↑
具体的には、▼年収370万円から770万円の場合は、負担の上限額をいまより8000円余り引き上げて8万8200円程度に、▼年収770万円から1160万円の場合は、2万円余り引き上げて18万8400円程度に、▼年収1160万円以上の場合は4万円近く引き上げて29万400円程度にするなどとしています。
2027年8月からの負担上限額 (70歳未満)
年収
ひと月当たり
住民税非課税
3万6300円
~約200万円
6万600円
約200万円~
6万9900円
約260万円~
7万9200円
約370万円~
8万8200円程度
約510万円~
11万3400円程度
約650万円~
13万8600円程度
約770万円~
18万8400円程度
約950万円~
22万500円程度
約1040万円~
25万2300円程度
約1160万円~
29万400円程度
約1410万円~
36万300円程度
約1650万円~
44万4300円程度
そして2026年8月からは、年収の区分をさらに細かくした上で、2026年と2027年の2段階で上限額を引き上げ、例えば▼年収650万円から770万円の場合は、最終的に13万8600円程度に、▼年収1650万円以上の場合は44万4300円程度にする予定でした。
石破首相「制度のあり方を再検討へ」(2月28日の予算委で)
「高額療養費制度」の見直しをめぐり、政府は、ひと月あたりの負担の上限額をことし8月から段階的に引き上げる方針でしたが、患者団体などからの意見を踏まえて一部を修正し、長期的に治療を続ける患者の負担は据え置くとしていました。
これついて、2月28日の衆議院予算委員会で立憲民主党の野田代表は「お金のない病人は、死を選択せざるを得ないようなことをやってはいけない。1年間、引き上げを延期するという政治判断をしてもらいたい」と述べ、引き上げの全面的な凍結を重ねて求めました。
これに対し、石破総理大臣は、制度を持続可能にするため、見直し自体は実施したいとして、経済や物価の動向を踏まえたことし8月からの引き上げは予定どおり行う一方、来年8月以降の制度のあり方については、患者団体などの意見も聴いた上で改めて検討し、ことし秋までに決定する方針を示しました。
また、今後、新たに病気になり、長期的な治療が必要になった人も、自己負担を抑える措置の対象から外れないようにする仕組みを設ける考えを示しました。
そして石破総理大臣は「今後ともセーフティーネットとして制度が機能し続けるとともに、被保険者の保険料負担の増加にも配慮した持続可能性のある制度とすべく、改めて関係者の声を丁寧に承り結論を出したい」と述べました。
患者団体「失望の声が多い」(2月28日の会見で)
2月28日の衆議院予算委員会で、石破総理大臣が、ことし8月からの引き上げは予定どおり行う方針を示したことに「全国がん患者団体連合会」の天野慎介理事長は「なぜ引き上げるのか理解ができなかったし、その後の引き上げの扱いがどうなるのか、判然としなかった。患者からは失望の声が多く寄せられている。石破総理には勇気を持って立ち止まって、1年間延期したうえで、公的医療保険のありかたをじっくり考えてほしい」と話していました。 一方で、石破総理大臣が来年8月以降の制度のあり方については患者団体などの意見も聴いた上で改めて検討すると説明したことについて、日本難病・疾病団体協議会の辻邦夫常務理事は「この問題は超党派で考えるべきで、そこに当事者や一般の人が参画して解決していくべき問題だと思っているので、その働きかけをしていきたい」と話していました。