事件では、同社社長や相嶋さんら3人が2020年、兵器製造に転用可能な機械を不正輸出したとして逮捕・起訴されたが、21年に起訴が取り消された。 相嶋さんは勾留中にがんが見つかったが保釈が認められず、被告のまま亡くなった。 社長らが国家賠償を求めた訴訟で逮捕と起訴を違法とする判決が確定し、同庁と地検の幹部は6月、社長らに謝罪。
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大川原冤罪事件 警視庁と検察の幹部が遺族に謝罪「重大な人権侵害を生じさせた」© ABEMA TIMES (Microsoft)
「大川原化工機」を巡る冤罪事件で、警視庁と検察の幹部が、勾留中に胃がんが見つかり、その後死亡した元顧問の遺族に謝罪しました。
「今回の警視庁の相嶋静夫さまに対する違法な捜査、逮捕を行ったことにつきまして、深くお詫びを申し上げます」(警視庁 鎌田徹郎副総監)
東京地検の市川次席検事は「違法な勾留請求、公訴提起により、重大な人権侵害を生じさせた」などと述べ、謝罪しました。
相嶋さんの妻は「適切な医療も受けられず、亡くなった夫のことは残念でなりません」「謝罪は受け入れますが、決して許すことはできません」と話しました。
また、相嶋さんの長男は「警視庁や検察の検証結果や処分は受け入れられない」としたうえで、起訴した検察官らは辞職すべきと訴えました。(ANNニュース)
機械メーカー「大川原化工機」をめぐる冤罪事件で、今月11日捜査の違法性を認定した東京高裁の判決が確定した。
警視庁と東京地検は20日、横浜市の「大川原化工機」本社を訪問し、大川原正明社長や元取締役の島田順司さんらに直接謝罪した。しかし、勾留中に胃がんが判明し、その後亡くなった元顧問の相嶋静夫さん遺族は謝罪を受け入れなかった。
「なぜ死ななければならなかったのかー」 遺族の問いに、司法はどう応えるのか。
取材では「警察の責任の方が重い」「なぜ検察が謝らなければならないのか」といった、これまで謝罪を渋ってきた検察の本音が透けて見えてきた。
(テレビ朝日社会部 吉田遥)
相嶋静夫さん(当時72歳)は、液体を高温で乾燥させて粉末化する噴霧乾燥器を開発・製造する「大川原化工機」で技術部門トップを務めたのち、静岡の研究所で後輩の育成や商品開発などをしていた。しかし、2018年、警視庁公安部に「生物兵器に転用可能な噴霧乾燥器を無許可で輸出した」として逮捕、東京地検に起訴された。
一貫して無実を主張していたが、東京拘置所に勾留中、体調不良を訴え胃がんが判明したものの、満足な治療が受けられず2021年2月、亡くなった。
2021年7月、東京地検は「再捜査の結果、輸出規制の条件にあてはまらない可能性が出た」として相嶋さんらの起訴を取り消した。それから約4年もの月日が経ち、相嶋さんらが起こした国家賠償請求裁判は、東京高裁が捜査の違法性を認定し、国と東京都が上告を断念するという形で幕を閉じた。
相嶋さんの長男はその日の会見で、涙をこらえながら怒りをあらわにした。
相嶋さんの長男
「本来、警察・検察が謝罪するタイミングは起訴取り消しだった。なぜ被害者が4年近く頑張らないと検証に踏み出すこともできないのか、相変わらず私は憤りを感じています。時間がたっても怒りは消えないですし、できることなら時計の針を戻してもらいたい」
上告断念後の20日、警視庁と東京地検は「心労、負担をかけた」として会社側に謝罪した。しかし、相嶋さんの妻ら遺族は、その言葉を受け入れられなかった。
相嶋さんの妻
「心労なんてそんな軽々しいものじゃない。だって主人は、死んだんだから。人の死をどういう風に考えているんだって。2度と帰ってこないのに。憎んでも憎み切れない」
担当検事「謝罪の気持ちはありません」 検察に検証はできるのか?
裁判では、法廷に立った検察官の証言が波紋を呼んだ。
「(起訴した判断は)間違っていたと思っていないので、謝罪という気持ちはありません」
2023年7月、第一審の東京地裁で行われた証人尋問で、弁護側から起訴したことや遺族などへの謝罪の気持ちについて問われ、事件を担当した塚部貴子検事はこう述べた。
東京高裁は「検察官が捜査すれば輸出規制の要件に該当しない証拠を得られた。合理性を欠いていたと言える」などと指摘し、一審に続き検察の捜査について、“違法”と認定した。
大川原側の代理人弁護士によれば、今月20日の謝罪では非公開の場面で、「より慎重に起訴の判断をすべきだった。お詫び申し上げる」という塚部検事からの伝言があったという。
これを聞いた相嶋さんの長男は、呆れた表情を浮かべた。
相嶋さんの長男
「(裁判では)私の目の前で、謝罪はないと彼女は言いました。本人が自分で説明すべきだと思う。なぜ証人としてああいう言葉があのタイミングが出てきたのか、納得できる説明がほしい。人づての言葉は信用できない」
検察がこうして過ちを認め、謝罪すること自体が異例ともいえるだろう。ただ取材では、謝罪に後ろ向きな検察側の本音が見え隠れすることもあった。
ある検察幹部は「『警察の“やらかし”の方が重く、なぜ検察が謝らなければならないのか』という声は確かに内部にあった」と明かし、別の検察幹部は「警察からの報告書を信用して起訴したのだとすれば、そこまで責められることなのか」と不満げだ。
相嶋さんの妻は「どうして主人が死ななければいけなかったのか。まずはそこをよく調べて、結果を主人のお墓の前で言ってくれて、謝罪がないと主人も納得しない」と訴え、検察に対し、第三者を入れた検証で「なぜ保釈に反対したのか、罪証隠滅を行う相当な理由があったのか」などを明らかにするよう求めている。
検察は、当時の捜査について検証を進めている。だが、決裁官として事件に携わっていた最高検次長をトップとするチームによる検証で、第三者性は保てるのだろうか。記者の疑問に対し、検察幹部は「捜査当時の状況や証拠関係に照らし、補充捜査しなくても認定できると起訴検事が判断したから、起訴している。それが適切だったかどうかというのは、第三者が入らなくても検証できる」と強調した。
8回退けられた保釈請求 “ブラックボックス”保釈実務の実態
長男は「無実だったよって、死ぬ直前でも言ってあげたかった」と声を振り絞った。相嶋さんは、家族との最期の時間も過ごせずこの世を去ってしまった。
事件では、保釈や勾留の問題も浮き彫りになった。相嶋さんは計8回にわたり“罪証隠滅の恐れがある”として保釈請求が退けられ、胃がんの治療が遅れてしまった。
保釈の可否を判断するのは裁判所だ。裁判官個人の判断に委ねられるため、その実態について、法曹関係者からは“ブラックボックス”と指摘されることも多い。
東京地裁の場合「令状部」という部署があり、およそ10人の裁判官がその日の「保釈担当」や「勾留担当」を決め、当番制で仕事を回している。令状部が設置されているのは、全国で東京と大阪など都市圏にある裁判所のみで、1日で多くの事件を処理しなければならないという特殊性を鑑みたもの。取り扱う事件数は多い時で1日10件以上に及び、とにかく“スピード処理”が求められるわけだ。
ある裁判官は、保釈の判断について「常日頃から難しいと思っている」と吐露したうえで、「令状部は“その日仕事”。膨大な証拠を見て事案を理解し、即判断をしなければならないので、力量が求められる。判決は事実認定なので過去を見るが、保釈は未来をどう予測するか。裁判官が熟慮すればするほど拘束は長引くし、心配すればするほど、保釈は認められにくくなる」と指摘した。
さらに、外部の干渉から独立して自由で公平な判断をするために、憲法76条で「裁判官の独立」が保証されている。そのため、裁判所が裁判官の個別の判断に介入するのはハードルが高い。先の裁判官も、あくまで一般論と前置きした上で「個々の判断について検証することは難しい。検証すると宣言するのはある意味楽だが、我々にはそれができない。だからこそ責任は重大で、次にどう繋げるのか議論を続けなければいけない」と明かした。
今回、誤った司法判断が度重なったことによって、相嶋さんの命が奪われてしまったと言っても過言ではないだろう。遺族が納得する答えが得られるまで、この事件が終焉を迎えることはないのではないか。
相嶋さんの妻
「主人の気持ちを考えると泣いている場合じゃない。夫を亡くした妻としてすごく悲しいけど、それ以上に主人の悔しさを考えたら泣いてる場合じゃない。だから、主人の代わりに悔しさを言ってあげなきゃって思っているんですよ」
妻は、静かな口調で誓うと相嶋さんの仏壇に手を合わせた。
「正義は勝つ、真実は一つ」
仏壇には、生前相嶋さんがよく口にしていた言葉が飾られていた。
【これまでの経緯】大川原化工機 冤罪はなぜ起きた遺族「検証踏まえた謝罪を」警視庁・地検幹部が社長らに謝罪 大川原・冤罪事件「やっと…」都と国が上告断念し謝罪も 『大川原化工機』めぐる冤罪事件
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人質司法とは?否認で長期勾留が続く日本の現実と弁護士による防御戦略
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