「君には、見えない部分があるんだ。それは何なのだろうね?」信仰する宗教の地区幹部は見据えて呟いた。
東康太は、死期を迎えや母親の願いに応えて、いわゆる宗教2世の一人となったのである。
母の峰子と妻の亜希の確執から実家を離れ、5年の歳月が流れていた。
正確に言えば、妻の実家の大野家と東家の確執だったのだ。
「真面目な男に見えた、あの息子はギャンブル狂いとはな」大野家の長男幸一は呆れかえっていた」
「そうね、峰子さんに私は騙されたのね」峰子と亜希の母親の夏江は町内会婦人の部長と副部長の間柄であった。
二人は気が合っていた。
「峰子さんとは、親戚の間柄になりたいわね」夏江が望んでそれが現実となった。
康太30歳、亜希26歳は見合い結婚に至る。
皮肉なことに、仲人の信用組合専務理事の野田一郎は突然自殺して、急遽、市会議員の秋山孝蔵が結婚式の仲人となる。
それが、二人の結婚に影を落とした。
結婚は10月の秋と決まっていたのであるが、大野家の次男の幸作の結婚が突然、破談となったのだ。
次男の結婚相手が、妊娠していたのである。
「結婚するまで、ダメよ」と性交を拒んでいた幸作の結婚相手は、勤務先の上司と不倫関係にあったことが判明した。
幸作の8月の結婚式場が、康太、亜希に急遽繰り上がるのだ。
昔気質で大野家に家長を自認する幸一の鶴の一声だった。
「俺の親友の親父さんが経営する結婚式場の面子を潰せないので、お前たち結婚式を早めろいいな」
康太、亜希はそれに従った。