青春アドベンチャー ラジオの前で 9話
(くどうあかね)
私は 今 石垣島にいる。
ラジオ人生相談を休んで ここまで来た。
私が ここに来たのは・・。
コンコン
「こんにちは。」「あー、こんにちは。」
「あの、ここは ひが さと の部屋ですか?」
(・・今 気づいたんですが★ おばあさんのお名前 さとさん・・なのですね、
ずっと ひさとさん・・だと思っていました★)
「はい・・、失礼ですが・・。」
「ひがさと の娘です。」
「え! 大変!! さとさーん、さとさーん。」
幼い頃から 母に愛されていないと 思ってきた。
家を出て 25年。ずっと 会わないことで 自分を守ってきた。
母に会うのが 怖かった。
でも 私は 母に会うために ここに来た。
ドアの向こうに 年老いて 小さくなった母がいた。
「お母さん。」
「さあー、さとさん 娘さんよ。」
「この人、私知りません。」
「えー、だって この人が。」
「知らんもんは 知らん。」
「あなた お名前は?」
「かずこです。」
私は 東京に出て くどうあかね と名前を変えた。
私の本名は ひがかずこ。
「あーあ 時々 さとさん「かずこー」とか叫んでます。夢に うなされて。」
「娘は・・いない。」(さと)
「あの・・、良かったら ちょっと散歩しませんか?」
「ええ。」
介護ホームの目の前は 海だった。
穏やかに 寄せては返す波が 昔と変わらず 私を迎えてくれた。
「私は やましたゆき と言います。さとさんには 本当に 言葉に出来ないくらい お世話になりました。」
「今は 母が お世話かけてるんですね。」
「このところ 認知症が かなり進んで・・。」
「ええ。」
「自分の娘を 忘れるなんて。」
「飛び出したのは 私なので。」
「あなた・・、雑誌で 見た事あるんですけど。」
「あ、 たまに出てます。」
「もしかして・・、くどうあかねさん?」
「はい、よく ご存知ですね。」
「あー、そうかー! そういう事だったんだ。」
「はい?」
「いえね、さとさんが 大好きで。」
「何を?」
「くどうあかねの 人生相談。毎日 それだけを 楽しみにしてるんです。
私が ちょっとでも くどうさんの悪口を 言おうものなら、
違う! あの人は いい人なんだって。」
「そんな・・。」
「あの人は 強くないって。」
「そうですか・・。」
ホームに戻って もう一度 母と対面した。
「今日は 1日気分が 悪いー。」(さと)
「どうしたんですか?」(くどうあかね)
「大好きなラジオ番組に 好きな人が 出てなかった。あの人は どこか体が 悪いのかね~?」
「あの・・。あの、目をつぶって下さい。」
「なんで。」
「いいですから。」
(くどうあかねの 声色で)
「ねえ、奥さん!やめなさい、そんな男。あなたに いいこと ないわよ!」
「あ?! あー、いいなー。くどうあかねさんに そっくりさー。」
「私が 本人です。さとさんが あんまりファンだと 言ってくれるから、ゆきさんが よんで くれたの。」
「え? ホントに、ホントにねー?」
「ホントホント。」
「あー・・、いいなー。よく来てくれたね。遠いところを ほんとに よくねー。」
「いつも 聴いてくれて ありがとう。」
「いやー、あんたは 思ったとおりの人だわー。きれいで、優しい。」
「よく 言うわよ(笑)。」
「くどうさん、ありがとね、ありがとう。」
母は 私の手を握った。
その皺だらけの手は 悲しいくらい 弱々しかった。
(ゆういち)
やっと くがしま海岸に着いた。
途中 渋滞に はまり もう昼を過ぎている。
海が見える駐車場に 車を停める。
まりこさんも あやかちゃんも すぐには 降りない。
オレは 一人 車を降りた。
「はあー、風が 気持ちいい。」(ゆういち)
「あー 気持ちいい。ねえ あやかちゃん。」(まりこ)
「はい。」
「なんかさー、サーフィンする気しないから 海岸でも散歩する?」(ゆういち)
「そうね。あ、携帯忘れた、取ってくるね。」(まりこ)
「ああ。」 「あやかちゃん、どこか 行きたいとこある?」(ゆういち)
「小屋。」
「小屋?」
「漁師さんが 休む小屋です。だいたいの場所は 分かります。」
「そっか。じゃあ 行くか。」
「はい。 あの・・。」「ん?」
「好きなんですね。まりこさんのこと。」
「バカ言うなよ!・・大人を からかうんじゃない。」
「はい(笑)。」
「でも・・。」「はい(笑)。」
「・・当たりだ。」
「フフフ・・。」「ハハハ・・。」
「あやかちゃん、笑うんだな~。」「ハハハハ。」
「何~?なんか 楽しそうじゃないー。」(まりこ)
「ハハハ・・。」
あやかちゃんが 行きたかった小屋は 砂浜の いちばん端に あった。
壁や床の木は 腐り 中には 何も無かった。
「去年は・・、もっとちゃんと してたのに。」
「一年で いろんなものが 変わるね。」
「ここで、雨宿り したんだ。」
あやかちゃんは この海岸で 親子3人で過ごした夜のことを 話してくれた。
真っ暗な中 ろうそくの火を灯し、ラジオからは 音楽が 流れて・・。
「何て言う曲だったんだろう?お母さんが好きだった曲。」
「どんな曲?」
「よく分かりません。」
「・・その夜 星は 綺麗だった?」
「はい。」
「今夜も きっと綺麗だよ、星。」
小屋から外に出ると 一人の男が こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「あ、お父さん。」(あやか)
「え?」「あやかちゃんの お父さん?」
「あー、どうも。娘が 世話をかけました。」
「いえっ、オレ達・・いや、僕達は そのー、何もー。」
「あやか・・。」
「もう少し・・、お姉さんたちといる。」
「あのー、私たち 車に戻ってます。あそこの駐車場です。また・・あとで。」
「あ・・、すみません。あとで。」
「じゃあね!あやかちゃん。」
「じゃあ。」
「ゆういちくん 行こ。」
「あぁ、うん・・ごゆっくり。」
「あ、どうも。」
よく考えると ごゆっくり・・って言うのも 何か変だな~と思った。
オレとまりこさんは 駐車場の車に向かった。
「なあ・・、さっきから気になってたんだけどー。」
「まりこも。」
「あの人・・、あのお父さん。」
(二人揃って・・のタイミングで)「刑事だ!!」
あの黒ぶち眼鏡 車をぶつけて しまった時の。
「あやか・・、ここ座りな。」
「ズボン 汚れるよ。」 「いいさ。」
「しわに なるよ。」 「いいって。」
「よく・・分かったね。」
「刑事だからね。」
「こんなに 早く来てくれると思わなかった。」
「なあ、あやか。お父さん・・、おまえに 謝らなきゃいけない。」
「え?」
「お父さん、意気地なしだった。
お母さん死んで 辛いのは おまえも同じで その辛さを 一緒に話せるのは 唯一おまえしか いないのに。
お父さん ずっと逃げてた.お父さん 怖かったんだ。
お母さんの事で ずっとお前に責められていると 思ってた。
本当は 大事にしておけば お母さん まだ生きているんじゃないかって。
でも 分かったんだ。
そんな風に 思っているのは あやかも 同じなんじゃないかって。
あやかも自分が もっと大事に しておけば お母さんが死ななくてすんだんじゃないかって。
そう思っているかも しれないって。
ごめんな、お父さん いくじなしで ごめんな。」
「ううん(泣)。」
「いいんだよな、こうやって 二人で 寂しいって 泣けばいいんだよな。」
「お父さん・・(泣)。」
「いっぱい、いっぱい お母さんの話すれば いいんだよな。」
「うん。」
「去年の今頃・・だよな、ここで 泳いだり、花火したり・・。」
「雨が降って 雨宿りして・・。」
「そうだな。」
「ロウソクを 灯して 色んな話をした。」
「そうだ。」
「ねえ、お父さん 一緒に花火しよ。」
「・・今日か?」
「お仕事?」
「いや・・、そうだな 花火するかー。」
「あの おねえちゃんたちも 誘ってあげようよ。」
「そうだなー。」
「私ね、お母さんのラジカセ持ってきたの。」
「そうかー。」
「電池買って ラジオ聞きながら 花火しよう。」
「あの時 みたいにな。」
次に続きます。