「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」といいます。 現在の経済政策の最大の懸念はハイパーインフレではないかと思います。 しかし、ハイパーインフレがどのようなものか実際に経験した日本人は、ほとんどいません。
第1次大戦後、ドイツを襲ったハイパーインフについて記したアダム・ファーガソン著 ハイパーインフレの悪夢 (新潮社) は、現在起こっている国内の事象に対する視点を提供してくれます。
2013/3/2付、日経新聞1面に 新・日銀 脱デフレへの道 という記事によると 最近の金融政策に対し次期日銀総裁候補の 黒田氏が 「金融緩和が全然足りないね」とばっさり切り捨てたといいます。 また副総裁候補の岩田氏は、さらに緩和に積極的といいます。
「ハイパーインフレの悪夢」によれば、「ドイツのハイパーインフレの経験は、世界の中央銀行で語り継がれ、貨幣発行の節度が失われたとき、どんな悪夢がもたらされるか新人職員はしっかり叩き込まれる」といいます。
中央銀行の役割は「パーティが盛り上がっているときに、会場からパンチボウルを取り上げる」ようなものだと。 今回の日銀総裁人事は、主催者がパーティの参加者以上に盛り上げ役を買って出る人事のようにも感じられます。
それがどのような影響をもたらすかといえば、誰でも知っていることですが、日本の借金は1000兆規模と世界一です。
物価が上昇したときに長期金利が何%になっているのか? 国債の金利の上昇に対して、金利負担に耐え切れず財政が破たんする可能性はないのか?
現政権の金融政策は、そのことに全く言及していません。
市場は、思惑で動くといいますが、現在の日本経済の株価上昇の今後の政策への期待によるもので、未だ本質的な成長が起っているだけではありません。
実際、同日の日経マーケット総合面で「土地持ち企業株買われる 倉庫や鉄道、昨年来高値」 という記事があり、金融緩和により、不動産価格の反転期待の思惑買いが実際に起こっています。 人口が増えず、不動産が余っている日本で土地持ち企業株が買われるというのは、予期しないことでした。
再び「ハイパーインフレの悪夢」によれば、ドイツでもインフレの初期は経済が活性化し、好意的に受け止められていたといいます。 最近、支持率が70%に達した現政権の状況にも似ているように思います。
ドイツは財政支出を賄うために国債を大量に発行し、市場に通貨マルクが溢れます。これによりマルク安が進み、輸出商品の値段が下がり、経済が活性化しました。 企業は潤い、失業率は低下、株式市場は活性化し、いいことずくめに思えたそうです。
そのうち物価が上昇し始めます。 その時、賃上げがそれに追いつくでしょうか? ある調査によれば、国内で景気が上向いても賃上げに積極的な経営者は1割程度とも言われています。
物価が上がった時に、賃金が上がらない。 あるいは年金生活者にの年金が上がらないとしたら.. (続)