創発企業経営

起業13年目の会社の経営、事業報告

創発企業経営 (18)

2012年08月26日 | 経営
創発とは進化論の用語で、進化のプロセスで「これまでのプロセスから論理的に説明することの出来ない進化」を意味します。 生物の歴史は発生、進化、絶滅の歴史といえます。そして、およそ6億年の間に、誕生した生物の90%以上が絶滅したといわれています。
 
この社会も、非常にたくさんの企業が誕生し、また消えていきます。 こうしたことは通常は、経営学の枠組みで解釈されます。
 
しかし、わたしは経済や市場も(人間も含め)自然法則に支配されており、その流れを理解する方がより普遍的な理解ができると考えています。 適者生存というダーウィンの進化論は、生存するものは強いものではなく環境に適合したものであることを示しています。
 
一方社会学的に「創発」とは、ひとつひとつの小さな力が想像以上の総和をつくることを意味します。
 
社会における小さな流れがいくつも集まると大きな流れになりように、ひとつひとつの小さな流れが集積されることにより想像以上の総和としての大きな流れをつくることを意味します。
 
これは一企業が論理的には説明できない社会変化の事象をとらえて、変化の潮流に上手に乗ることにより、小さなエンジンを積んだ船を高速で動かし、予想以上の成長を遂げるとともに社会的に大きな影響を与えることが可能であることを意味します。
 
その例として、楽天の例を取り上げましたが、このほかにも ソフトバンクの創業の経緯、ヤマト運輸の宅急便事業への進出、日本電産のリーマンショックを察知した機敏な対応などいずれも経営者が現場の潮目を察知して自ら指揮をしてきたから達成できた変化です。
 
このBlogでそれぞれの事例を検証しようと思いましたが、今こうした事例の検証に時間を費やすよりも、別のテーマについて記してみたいと思います。  この文章を書いているのも、自分自身が社会や環境の変化の潮目をとらえて、創発経営を実証するためですから、能書きより実践したいと思います。
 
この項 了 

創発企業経営 (17)

2012年08月14日 | 経営
楽天の創業時の戦略

前回、楽天成功の要因は営業努力と書きましたが、2012年7月23日の日経新聞には以下のような記事がありました。

「三木谷流ではもの足りず」

ある月刊誌は日本の経営者の特集で、三木谷氏を三つ星とたたえた。 だが、イノベーションの力量を問われるグローバルなIT経営の物差しならどうか。 業界を代表するもう一人の経営者、ソフトバンクの孫正義社長も手法は三木谷氏に近い。 玄関サイトのヤフー、ネット決済のペイパルなどを日本に「輸入」し業容を広げてきた。 (中略)

日本のIT産業構造を強くする観点からは、三木谷氏や孫氏のような起業家だけでは、やはり物足りない。 独自の技術や製品で世界をリードする企業があってこそ、そこに深くノウハウがたまり、業界の血となり肉となる。

問題は「グローバルなIT経営の物差し」で測れる起業家を日本が輩出できるかということだと思います。

韓国企業が日本企業を凌駕したのはオペレーションの優秀さにおいてであり、独自技術やイノベーションの力量よりも、ベンチマーキングによる既存技術の模倣をもとにしたスピード経営で結果を残しています。 オペレーションでもイノベーションでも世界から見れば後れを取りつつある日本にいきなりスター経営者が現れて世界の実業界をリードするというのは、過去のバブル期の夢の再現を未だに忘れられずにいるのか、現実的ではないように思います。

ではどうすればよいでしょう?

「創発」とは元来、生物学、特に進化理論の用語です。 生物が生き残る原因は、非常に小さな要因の積み重ねです。どのような理由で新しい企業が生まれ、成長するのか、またその一方でどのような企業が消滅していくのか? その分かれ目は、楽天の創業期の月5-6件の顧客獲得が示す極くちいさな要因の積み重ねです。

数年前にスズキ社長の鈴木修氏が「俺は、中小企業のおやじ」という本を出版しました。スズキ社長は 「スズキは中小企業」という徹底した考え方で経営を進めています。  企業の大小は比較の問題です。 世界的に見れば大企業はいくらでもある。 大企業だと思えば驕りが起こる。 要は驕ることなく、無駄を省いて努力することが大切だと言っているのでしょう。

 
適者生存というダーウィンの進化論は、生き残るのは強いものではなく環境にうまく適合したものであるといいます。

考え抜いた論理に基づくイノベーションより、できるだけ些細で「つまらない(しかし重要な)」 - 例えば、「飽きずに頑張る営業努力」 とか「人に会う前には腕立てや走って汗をかいて門前払いされないようにする」 といった要因の方が長期的に見れば、強固な成功要因となり得ます。 なぜなら、そこから得られる成果はコップの中にたまる一滴一滴の水のようなものであり、やがてはコップを確実に満たすことが明らかだからです。  そこには努力という嘘のない真実があります。 そしてその時期に、小さな組織ながら継続的な顧客獲得の努力をしたことが社会の時流と相まって、多くの人がインターネットでものを購入するという、販売や流通を変革する創発現象を引き起こしたといえます。

以上、創発経営の視点から見た楽天創業期の分析です。

最近、楽天の電子書籍コボ発売時、利用者の書き込みを全て消去したという行動は残念に思います。 今後は楽天の競争環境は、グローバル市場で勝ち残った強者と競合に移りつつあります。  本格的競争以前に、既に大企業の驕りが出たということでなければよいのですが。 


創発企業経営 (16)

2012年08月13日 | 経営
楽天の創業時の戦略
 
楽天創業の 1997年、米国で amazon.com の累積顧客数は150万に達しました。 売上は前年の$15.7 million から $147.8 million (838% 増) に急伸しました。
当時のamazon のサイトの訪問数は、米国でトップ20位でしたから、既にこの時点で米国にはインターネットショッピングは定着していたといえます。
 
この当時、三木谷氏は米国での留学経験等により、インターネット経由でモノを購入するという流れは確実に日本にやってくると確信していたことでしょう。
 
ショッピングモールの発展は、時代のトレンドであり間違いなく日本にもやってくる。 この当時インターネットの世界では クリティカルマス(臨界量) といわれる多数を握ったものが勝利するといわれており、楽天も出店者数とユーザ数で突き抜けたショッピングモールが全てを握るとの戦略のもと、店舗数の拡大を進めます。 このクリティカルマスという考え方は当時良く知られていたことです。
 
では、楽天の成功要因は何でしょうか?
 
三木谷氏は、「インターネット上に出店者やユーザーが使いやすいと感じる"仕組み"さえ構築すれば、絶対に成功」し、「出店者の店舗に魅力的なコンテンツが集まればショップへの来客数が増加し、来客数が増加すれば問い合わせや売り上げ、収益が増加する」という考えます。  一般には、これが楽天の成功要因であるとされ、三木谷氏本人もそのように語っているようですが、本当に楽天のサイトが「使いやすい」から集客できたと言えるでしょうか?
 
2012/8/3 日経電子版「アマゾンの引き立て役になりかねない楽天コボ」に以下のような記事がありました。
 
米アマゾン・ドット・コムが1995年にインターネット上の書店としてサービスを開始したとき、まず人々をとらえたのがその使いやすさだった。もっと分解すると、ウェブサイトの各ページの設計、ブラウジングによる本のショッピングのしやすさ、検索による本のみつけやすさ、各書籍の各種情報の充実度、商品の価格と購入決済のしやすさなどなど、多くの要素で構成される使いやすさだ。ウェブ上の店に来店した瞬間から、本を買って届くまでの一連の体験全体、つまりUX(User Experience)が優れていた。同社が創業以来何年も債務超過を続けているあいだも株式市場が見捨てず一定の時価総額を維持させ続けたのは、投資家や投資銀行のアナリストが実際に使ってみて直感的にサービスの競争力の強さを感じていたからに違いない。
 
アマゾンのサイトを洗練された百貨店とすると楽天のサイトは、検索し難い、建て増しの雑居ビルのように感じます。
 
では他に成功要因があるとすると..
「楽天の開業当時の出店数は13店舗。 その後1か月に4, 5店の出店者を獲得するのがやっとだったそうです。 しかし、創業1年後に出店数が100を超え、これを境に出店者数が急増し始めた... 」といいます。
 
最大の成功要因は創業後の1年間を地道に営業努力を重ねたことだと思います。 その後の楽天の強さも実際のところは営業力であり、それは開業当初、飛び込み営業の門前払いを防ぐために走ったり、腕立て伏せをしてから営業先に飛び込むという「つまらない(けれど重要な)」方法であったと思います。
 
一生懸命頑張っている営業マンを、簡単に門前払いできる人は少ない - 差別化とは微差力だと思います。