最近、ハイパーインフレという言葉を良く聞きますがその実態はどのようなものでしょうか?
アダム・ファーガソン著 ハイパーインフレの悪夢 (新潮社) には、人間が悪性インフレを経験したとき、どのように反応するかが記されています。 現代の日本人にとっても記憶しておくべきことではないかと思います。
この本を読んで、ドイツのように論理的な思考をする国民がなぜヒトラーの台頭を許し、第二次大戦を起こし、ユダヤ人の虐殺を行ったのか? その理由の一部が理解できたように思いました。
第一次大戦後、10年の間にマルクはかつての1兆分の1まで値下がりし、紙くず同然になりました。
本書より
食べ物が買えなかったので、貴重品を売りはじめた -- 陶磁器から、マントルピース、家具、銀器まで。 ユダヤ人がそういうものを買ったときには、腹立たしかった。 ユダヤ人の女たちは、わたしたちがみんな破産しているあいだ、銀狐の毛皮を -- これ見よがしに3着もいっぺんに -- まとってパーティーやお茶会に行くのだろう。 深刻なインフレに直面した人々は、手っ取り早く犯人を探し、金融界で大きな影響力を持っていたユダヤ人に対する根拠なき反感が育っていったといいます。
社会において人々は貨幣に価値があると信じています。 時には借りたお金を返せないために犯罪を犯したり、自殺する人さえいます。 十分な貨幣を持つこと、それは生きるための糧を得、現在と将来の生活を保障し、商品やサービスや娯楽を得、人生を楽しくすることができます。 そのために人は苦労をいとわず働くのではないでしょうか。 しかし、ハイパーインフレになれば、時には命よりも価値あると思っていた大事にしていた基盤が崩れることを意味します。
本書より
ひとたび通貨が崩壊し始めると、恐怖に駆られた人々の欲望や、暴力や、不満や、憎悪がとたんにむき出しになる。そうなったら、いかなる社会であっても麻痺し、変わり果てた姿を呈さずにはいられない。
インフレの恐ろしさは次の言葉に集約されているように思います。
単純に貧しくなっただけなら、みんなで協力して問題を解決しようという気持ちが強まっただろう。 インフレ下では、そうはならなかった。 インフレには差別意識を駆り立てる性質があり、そのせいで誰もが自分の最も悪い部分を引き出された。 必要の度合いが唯一の価値基準になると、人間の本性があらわになる。
家族の中に売春婦がいる方が赤ん坊のなきがらがあるよりもよかった。 餓死するよりも盗む方がましだった。 名誉よりも暖房の方が心地よく、民主主義より名誉の方が不可欠で、自由より食べ物のほうが必要とされていたのだ。
家族の中に売春婦がいる方が赤ん坊のなきがらがあるよりもよかった。 餓死するよりも盗む方がましだった。 名誉よりも暖房の方が心地よく、民主主義より名誉の方が不可欠で、自由より食べ物のほうが必要とされていたのだ。