創発企業経営

起業13年目の会社の経営、事業報告

知的生産手段としての戦略 (2)

2015年04月24日 | 経営

先日、山口揚平著「本当の株のしくみ」(PHP文庫)を読んでいたら「企業の価値の源泉は、1つか2つしかない」という言葉がありました。 著者が、投資をするときする自分に対して次の質問をしてみるそうです。  

  その企業は「なに」で稼いでいるのか?

  「なぜ」稼げているのか?

魅力ある企業を見つける株式投資の目的は、企業経営と同じだと思います。企業を外から見ているか中から見ているかの観点の違いだけです。  「なに」で稼いでいるのか? 「なぜ」稼げているのか? それは、個人の企業の知的生産手段がなにかを決める戦略そのものです。

知的生産手段としての戦略などといっても、要は戦略とは「何をするか。何をしないか」決めておこうということです。たとえどんな企業でもその資源は有限ですから、選択と集中が必要になります。 勝負できる得意分野、事業領域を決めておこうということです。

自分の会社の例で恐縮ですが、私は事業領域を「B2B製造業のグローバル事業分野」にしようと決めました。

国内の市場は成熟し、競争が激しく、始めたばかりの企業が既存の企業とまともに競争したら勝ち目があるとは思えませんでした。そこで国内に限った仕事はしないという選択をすることで、差別化を図ったのです。

B2Bに絞ったのは ― これまでの私自身の経験が製造業の法人相手に限られていたからです。B2B取引は、取引条件や回収に一定のルールがあるので、それに即して取引をすれば勝手がわかっているという安心感があります。

もう一つの戦略は「Intangible」なものを商品にしようと決めたことです。 

Intangible は目に見えないあるいは触ることのできないという意味で、反対語は「Tangible (形のあるもの)」です。 Intangibleな商品とは、知識、ソフトウェア、データなどです。 TangibleとIntangibleの両方の商品を扱ってみるとIntangible な商品の管理が如何に楽かわかります。 在庫も倉庫も輸送もいらないのですから。

特に小さな企業がIntangible なものを商品にもつことは重要でした。

これは、資本が少なくて済むことに加えて、農工業社会から知識社会への移行という歴史的な背景があります。かつて農業をするには土地が必要で、土地に資本価値がありました。 工業社会では工場や生産財に価値がありました。 こうした資本は地主や資本家という人たちが保有していました。それがドラッカーの云う知識社会に移行すると、知的生産財を所有する知識労働者が最大の価値を持つようなります。

モノやお金に不自由しなくなった時、人が何を求めるか?それは目に見えないもの経験と知識ではないかと思います。


生産手段としての戦略 (1)

2015年04月11日 | 経営

ドラッカーの言う「知識労働者の生産手段」とは何か?について記しています。

先回、私の行っている事業のマーケティングミックス(4P)について書いてみたいと記しましたが、マーケティングミックスはある製品やサービスに対して設定されるもので、事業に対してはマーケティングの前に戦略の立案が必要になります。マーケティングは戦略に対する戦術であって、戦略に伴って決まるものです。 組織のトップが戦略を決める際は、戦略と戦術、計画と実践を行き来しつつ実行案が作られます。

戦略が完璧な会社があったとしても、それだけではその企業は成功しません。その会社の社員がひどい電話対応をしたり、製品の品質が悪ければ、その企業と取引したいと思う顧客はいなくなるでしょう。 一方、戦略が貧弱でもオペレーション(例えば顧客対応や現場の対応)が一流ならその企業は成功する可能性大です。

ある政府関連金融関係の企業の社内を歩いている時、電話対応をしていた若い社員が電話を切ると「なんで俺がこんな対応をしなきゃならないんだ!」と大声でいっているのが聞こえました。 周りの人は何も言わずに聞こえないふりでした。 

こういう企業は優秀なエリートしか入れませんから、面倒な対応など「俺のすることではない」のでしょう。時々、有名な外資企業でも要領を得ない対応をする社員はいます。 やはり、できれば、あまりこういう会社とは付き合いたくないなと思ってしまいます。 先方から見ればわたしのようなものと付き合う必要は全くないのでどうでもいいことでしょうが…

これから顧客や市場を得ていこうとする起業家は、実践が成果の8割を決めると思っていた方が良いと思います。 組織のトップは「実践(行動)は戦略(計画)に勝る」を心掛けなければなりません。


生産手段としてのマーケティング

2015年04月07日 | 経営

知的労働者の生産手段は、人によって様々ですが、起業する人にとって役に立つツールについて記してみます。わたしの最大の生産手段はマーケティングです。

マーケティングといって大抵の企業ではPR(販売促進)の仕事だと思われています。 PRはマーケティングの一部ですが全てではありません。マーケティングの目的は突き詰めれば、4Pと呼ばれる要素の最適化です

4PはProduct, Price, Promotion, Place(Distribution)です。 この4つを最適化できる権限を持つのは社長か事業責任者です。マーケティングは社長の仕事といわれるゆえんです。

起業家は、まさに4Pを決定する立場にいます。 それは起業家にとって最重要の仕事です。

この4つは単独ではなくミックスされていないと効果が得られません。 ある製品には、それに適した価格があり、適した販路があります。  いくら良い製品を持っていても、効果的な販売促進(顧客に製品を知らしめる活動)の方法がなければ、その存在自体が顧客に認知されません。価格が高すぎても売れないでしょうし、安すぎたら利益が得られないし、製品のもつ価値が疑われる。 製品やサービスを顧客に届ける方法はどのように構築するか? この4Pを維持するにはどれだけのコストと人員が必要かという制約のもと4Pを最適化していきます。

事業や組織の佇まいを決めるのはマーケティングといっても過言ではありません。わたしが起業したときはどのように4Pを設定したかについて次回書いてみたいと思います。

4Pといえばフィリップコトラーですが、わたしが今の仕事ができるのもコトラー先生のお蔭と常々思ったものです。

 


起業する人にとっての生産手段とは?

2015年04月05日 | 経営

ドラッカーは、「知識労働者は生産手段を所有する。しかもその手段は携行品である」と記しています。(プロフェッショナルの条件 ダイヤモンド社) 知識労働者の生産手段とは何でしょうか?

雇用者としての生産手段は、経理や、人事や営業などの専門知識による業務であると考えられます。では、起業する人の生産手段とは何でしょう。

通常、個人としての知識労働者の生産手段は、自分の強みを生かすことから得られます。人づきあいが上手であれば営業や接客を職業にしていくことが考えられます。 楽器を弾くのが好きなら専門の教育を受けて、教師になったり、語学を生かしたり、それは人によって様々です。

一つ、重要なことは身に着けた生産手段に対して需要があるということです。歌を歌うのが好きで歌手になりたいと思っても、その能力に対して需要がなければ生産手段とはなり得ません。 生産手段として成り立つには「売上―コスト」がプラスになっている必要があります。  生産に対して、対価を払う人がいて、対価はコストを上回っていること。  そうでなければ、継続性が維持できません。

 わたしが起業してから8月で5年になります。 お陰様で起業して以来、2つの前提を成り立たせることができたから事業を続けることができました。 ですから、当たり前のことですが、生産手段に対して需要があることと対価がコストを上回っていることは事業の前提といえます。

 それを成り立たせるにはどうすべきか?  私の経験や起業の経緯を記してみようと思います。