少し古い話ですが,【政府は12日、犯罪被害者保護の一環として、刑事裁判の手続きの中で民事上の損害賠償請求を行える「付帯私訴」制度を導入する方針を固めた。】(読売)という件には触れざるを得ない。個人的にはやっぱり反対だ。なぜなら,①刑事訴訟では証拠全面開示が実現されていない,②付帯私訴は,被告人が有罪であることを前提にした制度設計であるからです。もし,付帯私訴の制度を設けるなら,①刑事訴訟で被告人にとって有利な証拠開示を実現した上,②同時に「付帯国家賠償」制度を設けないとバランスがとれないと思うのです。
まずは,読売を引用します。
■■引用開始■■
殺人などの重大な犯罪が対象となる。
刑事裁判で採用された証拠などをそのまま民事裁判で利用することで、被害者の迅速な被害回復を実現するのが目的だ。
法務省は今秋をめどに法制審議会(法相の諮問機関)に諮問し、来年2月ごろに答申を得たうえ、来年の通常国会にも関連法案を提出したい考えだ。
現状では、刑事事件の被害者が損害賠償訴訟を起こす場合、刑事、民事の裁判は別の裁判官が行い、事実関係の証拠調べなども別々に行われる。
新たな付帯私訴制度では、刑事、民事の両裁判を同一の裁判官が行う。具体的には、刑事裁判の裁判官が裁判の判決後に、民事の損害賠償請求の審理も行う。刑事裁判の審理結果を基本的に踏襲するため、民事裁判では証拠調べを繰り返す必要がなくなる。審理は数回程度で終了し、簡易・迅速な審理で損害賠償額を算定し、決定を下す。
被害者にとっては、短時間で民事裁判が決着できるメリットがある。
一方で、被告らの権利を保障するため、両当事者が付帯私訴の決定に不服がある場合は、通常の民事裁判を行う仕組みも残す。
法務省は、新制度の対象となる犯罪は、殺人、強盗傷害、婦女暴行などの重大な身体犯に限定する方針だ。刑事担当の裁判官らの負担が過大になるのを避けるためだ。損害賠償の算定が複雑で、簡易・迅速な手続きになじまない経済犯罪などの財産犯は対象としない。
法制審議会の専門部会のメンバーには、犯罪被害者に詳しい弁護士や、支援団体の有識者も加える見通しだ。被害者側の意向を最大限反映させるためで、現行制度との整合性も考慮した上で、新制度の詳細を検討する。
■■引用終了■■
以上のように被害者の立場に立てば好ましい制度のように思える。
しかし,冒頭述べたように,刑事訴訟の手続で検察官側は,被告人に有利な証拠を開示しない。しかも,刑事裁判官は有罪判決を出すことを仕事だと思っている(そうでない方もいらっしゃるとは思いますが,現状,そう思わざるを得ない裁判官が多い)。したがって,刑事では有罪になったが,民事で「無罪」が認定されるという状況にすらなっている。こういう中で,刑事訴訟で付帯私訴が行われ,警察官が被害回復の手続きまで見越した証拠を提出し,それがそのまま損害賠償の認定に利用されるようになると,あまりに,被告人側が不利益となり,バランスを逸する。
また,有罪になった場合の損害賠償手続を予定するなら,無罪になったときに被告人が被った損害を賠償する手続も導入されるべきだ。すなわち,現状では無罪になった際,刑事補償はなされるが,いかにも安い。身柄拘束された場合,一日あたり1万2500円以下,死刑の場合でも3000万円以下だ。
そこで,別途国家賠償請求訴訟を起こすがこれはほとんど認められないのが現状だ。被害者の被害を円滑に回復するというなら,国の捜査による被害者に対しても円滑かつ適切な補償がなされるようにしないと,刑事訴訟の手続が,刑事訴訟で被告人となった者=犯人ということが前提となったシステムとなり,刑事訴訟本来の役割(国家刑罰権の発動の要否の決定)を果たせなくなるのではないだろうか?
◆刑事補償法
第四条 抑留又は拘禁による補償においては、前条及び次条第二項に規定する場合を除いては、その日数に応じて、一日千円以上一万二千五百円以下の割合による額の補償金を交付する。懲役、禁錮若しくは拘留の執行又は拘置による補償においても、同様である。
2 裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない。
3 死刑の執行による補償においては、三千万円以内で裁判所の相当と認める額の補償金を交付する。ただし、本人の死亡によつて生じた財産上の損失額が証明された場合には、補償金の額は、その損失額に三千万円を加算した額の範囲内とする。
もちろん,被害者の被害回復も疎かにしてはならない。そういう被害回復を容易にするために,法務省は,法テラスをつくったのでしょう!きちんと予算をつけて,被害者が法手続にアクセスしやすい態勢を設けたらどうか?付帯私訴はその後で考えるべきことではないか?
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まずは,読売を引用します。
■■引用開始■■
殺人などの重大な犯罪が対象となる。
刑事裁判で採用された証拠などをそのまま民事裁判で利用することで、被害者の迅速な被害回復を実現するのが目的だ。
法務省は今秋をめどに法制審議会(法相の諮問機関)に諮問し、来年2月ごろに答申を得たうえ、来年の通常国会にも関連法案を提出したい考えだ。
現状では、刑事事件の被害者が損害賠償訴訟を起こす場合、刑事、民事の裁判は別の裁判官が行い、事実関係の証拠調べなども別々に行われる。
新たな付帯私訴制度では、刑事、民事の両裁判を同一の裁判官が行う。具体的には、刑事裁判の裁判官が裁判の判決後に、民事の損害賠償請求の審理も行う。刑事裁判の審理結果を基本的に踏襲するため、民事裁判では証拠調べを繰り返す必要がなくなる。審理は数回程度で終了し、簡易・迅速な審理で損害賠償額を算定し、決定を下す。
被害者にとっては、短時間で民事裁判が決着できるメリットがある。
一方で、被告らの権利を保障するため、両当事者が付帯私訴の決定に不服がある場合は、通常の民事裁判を行う仕組みも残す。
法務省は、新制度の対象となる犯罪は、殺人、強盗傷害、婦女暴行などの重大な身体犯に限定する方針だ。刑事担当の裁判官らの負担が過大になるのを避けるためだ。損害賠償の算定が複雑で、簡易・迅速な手続きになじまない経済犯罪などの財産犯は対象としない。
法制審議会の専門部会のメンバーには、犯罪被害者に詳しい弁護士や、支援団体の有識者も加える見通しだ。被害者側の意向を最大限反映させるためで、現行制度との整合性も考慮した上で、新制度の詳細を検討する。
■■引用終了■■
以上のように被害者の立場に立てば好ましい制度のように思える。
しかし,冒頭述べたように,刑事訴訟の手続で検察官側は,被告人に有利な証拠を開示しない。しかも,刑事裁判官は有罪判決を出すことを仕事だと思っている(そうでない方もいらっしゃるとは思いますが,現状,そう思わざるを得ない裁判官が多い)。したがって,刑事では有罪になったが,民事で「無罪」が認定されるという状況にすらなっている。こういう中で,刑事訴訟で付帯私訴が行われ,警察官が被害回復の手続きまで見越した証拠を提出し,それがそのまま損害賠償の認定に利用されるようになると,あまりに,被告人側が不利益となり,バランスを逸する。
また,有罪になった場合の損害賠償手続を予定するなら,無罪になったときに被告人が被った損害を賠償する手続も導入されるべきだ。すなわち,現状では無罪になった際,刑事補償はなされるが,いかにも安い。身柄拘束された場合,一日あたり1万2500円以下,死刑の場合でも3000万円以下だ。
そこで,別途国家賠償請求訴訟を起こすがこれはほとんど認められないのが現状だ。被害者の被害を円滑に回復するというなら,国の捜査による被害者に対しても円滑かつ適切な補償がなされるようにしないと,刑事訴訟の手続が,刑事訴訟で被告人となった者=犯人ということが前提となったシステムとなり,刑事訴訟本来の役割(国家刑罰権の発動の要否の決定)を果たせなくなるのではないだろうか?
◆刑事補償法
第四条 抑留又は拘禁による補償においては、前条及び次条第二項に規定する場合を除いては、その日数に応じて、一日千円以上一万二千五百円以下の割合による額の補償金を交付する。懲役、禁錮若しくは拘留の執行又は拘置による補償においても、同様である。
2 裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない。
3 死刑の執行による補償においては、三千万円以内で裁判所の相当と認める額の補償金を交付する。ただし、本人の死亡によつて生じた財産上の損失額が証明された場合には、補償金の額は、その損失額に三千万円を加算した額の範囲内とする。
もちろん,被害者の被害回復も疎かにしてはならない。そういう被害回復を容易にするために,法務省は,法テラスをつくったのでしょう!きちんと予算をつけて,被害者が法手続にアクセスしやすい態勢を設けたらどうか?付帯私訴はその後で考えるべきことではないか?
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ところで、今回の讀賣報道によると、刑事裁判の結論が出た後に民事付帯部分の審理が行われるという段取りになっているようです。そして、対象事件が(今後裁判員制度対象になるような)重罪事件が中心であるということで、私はある観点から問題意識を持っています。
それは、重罪事件被害者がなぜ民事訴訟を起こすのか?という問題で、被告人には財力がないケースが大半、被害者にとっては「裁判の当事者として」真実究明が大きな目的であるケースが多いのです。ところが、刑事裁判の結論が出た後に「付帯訴訟」という形になれば、被害者にとっては裁判の当事者としての価値が極めて小さくなる懸念が出てきます。