情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

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NHK番組改変問題で市民団体が朝日新聞に出した質問書全文:「政治介入の真相を明らかにせよ」

2005-11-02 01:40:48 | NHK番組改編事件
【NHKの番組改変をめぐる朝日新聞の報道について、弁護士やNHKのOBを含むジャーナリスト、市民らでつくる計十四団体が三十一日、朝日新聞社に対し、十月一日付朝刊で同紙が掲載した「取材の詰めの甘さを反省する」という総括について質問書を提出した。】(東京新聞

 この問題では、すでにアップしたとおり、月刊現代9月号によって、安倍中川が政治的圧力を掛けたこと自体は明らかとなっている。しかし、朝日新聞がそのような詳細な記事をまだ掲載していないため、何だか、朝日新聞が間違っているかのように受け止めている人も多い。

 そこで、【質問書では、「NHKと政治の危うい関係を社会に向かって警告した」と同紙の報道を評価する一方、「『深い反省』を繰り返す総括で終わらせては、政治介入の真相がうやむやにされたまま、番組改変問題の調査・報道が幕引きされかねない」と批判。「報道を訂正する必要はないなら、政治介入の真相を明らかにすべきでないか」などとただしている。】(同上)わけだ。

 ビデオジャーナリストで、「アジアプレス」の代表である野中章弘さんは【「問題の本質は『メディアへの政治介入』だというところに議論を戻さなければならない」と指摘、「メディアが連携して政治に反撃すべきだ」と訴えた】という。

 ちなみに、【そもそも、報道機関は、調査報道をするにあたって、捜査機関のような強制力のある調査権限は有していない。したがって、報道内容について、細部まで正確を期することは困難である。最高裁 (昭和58年10月20日判決・判例時報1112号44頁) が 「重要な部分につき真実性の証明」 があれば足りるとし、真実性が必ずしも細部にまでわたって要求されないとしたのは、まさに、この点を考慮したからである。】LLFP声明


 質問書の全文は次のとおり

2005年10月31日
朝日新聞社社長 
秋山耿太郎 様
ETV番組改変問題の報道総括に関する質問書

アジア・プレス・ネットワ-ク
NHK受信料支払い停止運動の会
NHK番組改ざんを考える市民の会(福岡)  
NHK問題京都連絡会
学校に自由の風を!ネットワ-ク
小弥『君が代』処分を考える会(東京)
人権と報道・連絡会 
日本消費者連盟
ピ-スリボン裁判を支える会
「日の丸・君が代」強制反対予防訴訟をすすめる会事務局
放送を語る会
報道・表現の危機を考える弁護士の会
武蔵野・学習指導要領を考える会
メディアの危機を考える市民ネットワ-ク事務局


 2001年1月30日に放送されたNHKのETV番組改変問題に関する貴社の報道のあり方を検証するために、貴社が委嘱した第三者機関「『NHK報道』委員会」(以下、「第三者委員会」と略す)の審議の結果が、『朝日新聞』10月1日朝刊に掲載されました。これを受けて、秋山社長名の談話(以下、「社長談話」と略す)と「朝日新聞社の考え方」(以下、「考え方」と略す)が同日の紙面に掲載されました。 
 また、これらの記事掲載を受けて、安倍晋三氏は9月30日夜、「取材不足なら謝罪すべきだ」、「我々が捏造だと指摘してきたことに〔朝日新聞は〕全く反論できていない」などとするコメントを発表しました。また、中川昭一氏も10月7日の閣議後の記者会見で「迷惑をかけたなら謝罪なり説明をするのは常識だ。これで終わらせる、ふたをすることは、絶対許さない」と述べています。
 長井暁さんが告発したNHKの番組制作への政治介入は、報道・表現の自由の根幹に関わる問題ですから、この問題に鋭く切り込んだ貴社の本年1月の記事は、NHKと政治の危うい関係を社会に向かって警告する貴重な取材の成果であったと私たちは評価しています。
 それだけに、9月30日の報道総括の記事や同日の社長発言を見るにつけ、私たちは、本来、議論されるべきNHKと政治の距離が、朝日新聞の取材のあり方にそらされ、市民が知りたい政治介入の真相がうやむやにされたまま、ETV番組改変問題の調査・報道が幕引きされかねない状況に強い失望と危惧を抱いています。
そこで、この問題の真相解明を訴え続けてきた私たちは、連名で貴社宛に質問書を提出することにしました。以下の質問事項を熟読いただき、本年11月18日(金)までに文書で項目ごとに回答くださるよう、お願いいたします。


質問1 最初の報道を訂正する必要はないと言いつつ、「深い反省」を繰り返す貴社の総括について

 「社長談話」と「考え方」は、①中川氏がNHK幹部と会ったのは放送日前日だったかどうか、②安倍氏がNHK幹部を「呼び出した」のかどうかについて、取材に詰めの甘さがあったという「反省」を前面に押し出しています。しかし、第三者委員会は後者について、裏付けを取る取材の不十分さがあったと指摘しているものの、前者については、「松尾氏、中川氏の双方とも取材記者に対し、終始、放送前日に面会したとの認識をもって応対していたことがうかがえる」ことから、そうした「取材結果をもとに、記者が『前日に面会』と信じたことには相当の理由があると考える」と指摘しています。また、同委員会は、「政治家の言動が番組の内容に少なからぬ影響を与えたと〔貴社の取材スタッフが〕判断したことは、読者の理解を得られよう」と評価しています。これを受けて貴社自身も「考え方」の中で、「最初の記事で指摘した点は今も変わらないと考えています」と述べています。であれば、貴社が、取材の限界をことさらに強調して、「反省」を繰り返すのは不可解です。
そこで、具体的にお伺いします。貴社は安倍、中川両氏から出ている謝罪要求を受け容れるつもりですか、それとも拒否するつもりですか、明確にお答え下さい。

質問2 中川氏がNHK幹部に会ったのは放送日の前か後かについて

 貴社は、「考え方」のなかで、質問1で示した①②については、長期の追加取材によっても新たな裏付けが得られなかったと記しています。しかし、貴社がさる7月25日に掲載された検証記事では、次のようなやりとりが記されています。

中川氏には1月10日午後、電話で取材をした。
――放送内容がどうして事前に分かったのか
 「同じような問題意識をもっている仲間が知らせてくれた」
――それで放送直前の01年1月29日に野島、松尾両氏に会ったのか
 「会った、会った。議員会館で」
――何と言ったのか
 「番組が偏向していると言った。それでも2人は『放送する』と言うから、おかしいんじゃないかと言った。(民衆法廷は)『天皇死刑』って言っている」
――「天皇有罪」だと言っていたが
 「何をやろうと勝手だが、偏向した内容を公共放送のNHKが流すのは放送法上の公正の面から言ってもおかしい。教育テレビでやりますからとか、わけのわからぬことを言う。あそこを直します、ここを直しますからやりたいと。それで、『だめだ』と」
――NHKはどこをどう直すと言ったのか
 「細かいことは覚えてはいない」
――放送中止を求めたのか
 「まあそりゃそうだ」

 こうしたやりとりからすれば、中川氏が松尾氏らと会ったのは、放送日前であり、その場で中川氏は番組の具体的な内容を理由に挙げて放送の中止を求める発言をしていたことは紛れもない事実です。とすれば、新たな追加取材を待つまでもなく、貴社に存在する証言記録に照らして、中川氏による政治介入の事実は十分裏付けされていると考えられますが、いかがですか? それでも中川氏が番組への関与を否定するというなら、それを立証する責任は貴社にではなく、中川氏自身にあると私たちは判断しますが、貴社はどのようにお考えですか?
なお、上記のような7月25日に掲載された記事のほかに、中川氏の関与を裏付ける資料が貴社に存在するなら、それについても詳細に記事にすることこそが政治介入の真相を明らかにすることになると考えますが、いかがですか?
 
質問3 安倍氏がNHK幹部を呼び出したのかどうかについて

ETV番組改変問題の報道に関する貴社の総括を読んで私たちが感じるもう一つの疑問は、貴社が、放送日前日に、安倍氏がNHK幹部を「呼び出した」のか、それとも、NHKが「自主的に説明に出向いた」のかという点に過度にこだわり、その点での「取材のつめの甘さ」を誇張して卑屈な反省をしている点です。
そもそも、放送日の4,5日前にNHKの総合企画室の担当者が「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の議員に面会した際、「予算説明の時には、必ず聞かれるから」と、ETV問題の事前説明の準備をするよう促されたことから、NHKは予算説明と関係のない放送総局長を同行して安倍氏のもとへ出かけたわけです。
そういう背景を考えれば、NHKが(阿吽の呼吸で)「自主的に出かけた」のか、「呼び出された」のかにこだわるのは、問題の核心をそらす議論です。
ここで問題とすべきは、安倍氏が松尾、野島両氏に対して、慰安婦問題の難しさや歴史認識問題と外交の関係などについて持論を語ったうえで、放送前の番組について「公正公平にしてほしい」と述べたことです。私たちは、このように「政治家の言動が番組の内容に少なからぬ影響を与えた」ことは、放送に対する外部からの干渉を禁じた放送法第3条に抵触する行為だと判断していますが、貴社はどうお考えですか?

質問4 細部にわたる取材の裏付けにこだわる報道総括がもたらす影響について

 今回の安倍、中川、松尾の各氏に対する取材のように、直接取材した相手が後日、発言を翻したり、「誤報」と言い立てたりするのは珍しいことではありません。これについて貴社は、「前日面会」、「呼び出し」の報道に関して、「裏づけをとる努力が足りず」、「結果として不確実な情報が含まれてしまった」と総括しています。
 しかし、密室で起こった係争事件では、一方の当事者の証言が詳細で具体的である場合は、たとえ、もう一方の当事者がそれを否定しても、証言の信憑性が認められ、証拠として採用された判例は数多くあります。
 にもかかわらず、取材相手が報道内容を否定したというだけで、取材報道をした側が常に追加的な立証責任を負い、当初の報道を裏付けるより詳細な証拠を示すことができない限り、反省と謝罪を強要されるのでは、調査報道は権力対峙性を失い、政治家などが公にした見解を口移しに伝えるだけの「発表ジャ-ナリズム」に堕落しかねません。
 この意味で、細部にわたる取材の裏付けにこだわった貴社の報道総括は、メディア全体の報道姿勢に萎縮効果をもたらすことが危惧されますが、貴社はどうお考えですか?

質問5 無断の録音記録を禁止する社内原則の是非について

質問4と関連して、取材相手に無断で録音がされたのかどうか、そうした取材方法は是認されるのかどうかについて、議論が交わされてきました。これについて、第三者委員会は、「一般に無断録音は、取材対象者との信頼を損ないかねず、認められるものではない」としながらも、「政治家をはじめとする公人やそれに準じる人物の取材においては、対象テ-マの重要性に即して、取材の正確さを確保するため、例外的に録音が必要とされる場合があり得よう」と記しています。
 ところが、貴社は、「考え方」の中で、例外的に無断録音が許されるために必要な条件は何かを論議していくとしながらも、「『原則として無断録音はしない』という姿勢を今後も堅持していく」と述べています。
 この問題について、私たちは、貴社が、細部にわたる取材の裏付けにこだわる一方で、無断録音はしないという社内原則で自らを縛っていることが、NHKや政治家の反論をもっともらしく思わせる原因になっているようにも思えます。また、こうした社内原則は公人取材等の微妙な場面で、記者の取材活動に重大な足かせをはめることになっています。
 こうした状況を踏まえて、私たちは貴社に対し、「無断録音はしない」という社内原則を撤廃するよう要望します。これについての見解をお聞かせ下さい。

以 上


 

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