社説勤労感謝の日に より良い働き方考えよう
勤労を尊び、生産を祝い、国民互いに感謝し合う。それが、きょうの「勤労感謝の日」の趣旨である。
本来、暮らしや人生を豊かにすることが、働くことの目的のはずである。しかし、それに逆行するような出来事が後を絶たない。過労死や過労自殺だ。
より良い働き方とは何か。ここに改めて関心が集まったきっかけは、昨年10月だった。
広告大手、電通の新入女性社員が自殺したのは、直前に残業時間が大幅に増えたのが原因として労災認定されたのである。
違法残業事件では、法人としての電通が起訴され、東京簡裁は正式な裁判を開いて罰金の判決を言い渡した。
女性社員の母親は労災認定後の会見で「娘は二度と戻ってこない。命より大切な仕事はない」と語った。悲痛な訴えの記憶は鮮明である。
ところが、それ以降も似たようなケースが相次いでいる。
NHKはことし10月、2013年に、うっ血性心不全で死亡した女性記者が、長時間労働による過労死と労災認定されていたと発表した。
県内でも、昨年自殺した新潟市民病院の女性医師が、極度の長時間労働と強い心理的負担でうつ病になったと判断され、5月に労災認定された。
日本は長年にわたり、過重労働や長時間労働の弊害が指摘されながら、抜本的な是正策が施されてきたとはいえない。
安倍政権は電通の問題を受け、残業の上限規制などを柱とする「働き方改革」を看板政策に掲げた。だが、その取り組みは滞っている。
「働き方改革関連法案」は、秋の臨時国会に提出されるはずだったが、衆院解散により、先送りされた。来年1月召集の通常国会に提出される見通しだ。
過労死や過労自殺の問題をどれだけ深刻に受け止めているのだろうか。政権の本気度を疑わざるを得ない。
法案の内容にも疑問がある。残業の上限は月100時間未満と規定されたが、これでも労災認定されるケースは少なくない。人手不足に悩む経営側に配慮した内容といえる。
政府は一部専門職を労働時間規制から除外する「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を、残業の上限規制と一本化して提出する方針だ。野党は、高プロは「過労死を助長する」として反対している。
それだけに、通常国会の審議を通じて、本当に「働き方改革」に資するものにしていく必要がある。大勝した自民党が数の力で押し切るようでは困る。
法律の成立を待たずとも、職場や労使間の自主的な取り組みで働き方を改善できる部分も少なくない。
多忙な同僚の仕事の分担や、休日を取得しやすい職場づくりに知恵を絞ることだ。
長時間労働は、健康を脅かすだけではない。家族や地域と向き合う時間も奪う。
「命より大切な仕事はない」。もう一度、思い起こしたい。