巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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一人芝居の果て

2017-03-14 22:27:00 | 
僕達は不思議な夢を見る
主役無用の無言劇
不慣れな舞台にあがっては
能舞さながら素敵な一人芝居
それはファンタスティックという他なく
すべての観衆を魅了する

毎朝がこう爽快だと
たとえ雨降りでも気分は最高
第二幕がゆっくりと上がる
静まり返るオーディエンス
ここで逃げ出す手もあるな
僕はニヤリと笑う
俗に言う「勝ち逃げ」ってヤツ

35,000人の観衆のど真ん中
僕は右手を大きく振りかぶる
自慢の直球が唸りを上げる
そうさ、ここはballpark
エースたる僕のひとり舞台
打者なんて要らない、捕手も
僕は見えない的に向かって
スピンの利いた変化球を投げまくる

幕間に僕は息抜きする
一人芝居がこんなにハードとは
替え玉を用意しておくべきだった
やべーぞ、これ......
あ、幕が上がる、マジか

ここはどこだ?
さあ、登れと言わんばかりに
ボルダリングのセットが用意されている
さっきのピッチングで握力を使いすぎた
あー、みんな待っている、登らなきゃ
僕は死力を振り絞って
指先と足先に精一杯の力を込める
あとちょっと、あとひとふんばり!
その瞬間に無惨にも僕の指が壁を離す

観衆の湧く声が聞こえる

オマエひとりでなんでもできる訳ねえだろ

そんな嘲笑が場内に響き渡る
負けず嫌いの僕は握力の回復を待って
再チャレンジに闘志を燃やす

今度こそ!
今度こそ、登り切ってやる!

そう力んだ瞬間に腕が飛んだ、脚がもげた
僕の身体は完全に解体された
まるで壊れた着せかえ人形のように
無惨にもバラバラにされた

お母さん、壊れちゃった、このオモチャ
えー、意外と長持ちするって聞いてたのにね
まだ、踊りと野球やっただけだよ
ボルダリングしてる途中でバラバラ
うーん、不良品かもしれないわね
明日、お店に持って行きましょう
今なら返品できるかもね、このボロ

バラバラになった俺は眼だけで追い
ガキを睨みつけるがなんの甲斐もなく
身体はバラバラに壊れたまま

明日にはお店に持っていくんだから
片付けておきなさい

はーい!

今や指定箇所にも動けぬ僕の身体
ガキが雑な手つきで箱の中に
僕の「部品」を放り投げる

返品すら受け付けられないだろう僕は
もうただの廃人だ
まだかろうじて動く口で
意味のない言葉を発しながら
栄光の過去を捨て去り、奪われた未来を呪う