巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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舞台に立つ日まで

2017-03-05 21:37:53 | 
とんでもない期待感を
僕はこの一瞬に胸躍らせてきた
幼少期からの淡い思い出
思い出は思い出のままに
薄れゆくものだと諦めていた

僕達の世代の中では
突き抜けた存在、リュー
才能とともに運命を背負った存在
世界を鳴動させる音楽を
君と完成させたいと願った10年

長年待ち焦がれた君とのデュオ
さすがの僕ももう諦めかけた頃
ようやく僕は君に肩を並べた

同じ夢を見続けながら
一早くその才能を見出された存在
君にいつも触発されながら
遂に同じ舞台に上がる僕

僕は自分の晴れ舞台に君を招待する
ある晴れた日、まだ蕾の固い桜の樹の下で
季節はまだ肌寒いけどコートは要らない
僕は君に紺色のジャケットを羽織らせ
帰ろう、と促す

大都会のヘドロに薄汚れた君は
オトナの世界に足を踏み入れすぎた
君は人生の迷子になった子猫のよう
誰に対しても警戒心を解かないけど
君が今頼れるのは僕しかいないんだ

涙をいっぱいに含んだ瞳を
僕の音楽で拭ってあげよう
あのステージの上から最前列の君へ

都会の喧騒の中で自分を見失い
それでも帰らぬ、帰らない君がいる
僕はその頑ななまでに強い意志に
何度も、何度も救われてきた

辛うじて都会の生活者になりすました僕が
君の永遠のヒーローになろう、リュー
いつの日も君が僕のヒロインであるように
なんなら、否、ここには無粋な言葉は不要
僕のステージを観て何かを感じてくれ

僕は帰り道の陸橋でラブソングを歌う
道行く人が時折り振り返るが
この歌はある一人の女性に宛てたもの
早くあのステージの大観衆の前で
他の誰でもない君だけに贈りたい

魂の抜けた君は拍手も忘れ
僕の歌に聴き入っている
僕はリューの再起を願い
今回叶わなかったデュオを
いつの日か必ず実現しようと誓う

第一線で疲れ果てた君の魂は
ひとまず僕が預かっておく
君に返す日が早く来ることを祈って

行き場を失った影が次第に薄まり
アスファルトに同化するよ
誰も及ばない君の歌声を聴きたい
同じステージの上で肩を組んで

愛をください

2017-03-05 18:24:39 | 
僕のことを愛してくれますか?

少年との出会いはひょんな一言から始まった
まだ年端もいかない子供が愛を求めている

愛をください

犯罪者のような顔が涙を浮かべる
愛を知らない少年はいつも独りぼっち

愛って何ですか?

少年の純な問いかけに口籠る僕
愛とは特別なひとを見出すことだよ
それはお父さんやお母さんじゃダメ?
いいよ、それは家族愛っていうんだ

釈然としない君
実はオジサンも知らないんだ
世の人々は愛だの恋だの
好き勝手言ってるけど
本当の愛を知ってるのなら
真贋見極められる彼に教えてくれ
僕の無知は見透かされた

返す言葉もない愛を知らない男
少年とともに世界に問いかける

僕を愛してくれますか?
愛をください
愛って何ですか?

少年は物乞いのような僕に
涙を目に浮かべながら訴える

愛をください
僕を愛してください

発狂者は我を愛す

2017-03-05 00:44:06 | 
僕は誰だ?
何の為に生まれた?
生きとし生けるもの
誰もがこの問いを発する
決まって生に行き詰まったとき

おせっかいな僕が答えてあげよう

僕は僕以上に僕である必要はなく
君は君以上に君である必要はない

そんな当たり前のことを僕達は忘れがちだ
本当は誰よりも自分自身であるはずなのに
それは疑いようのない事実
僕達はもっと普段着の自分に自信を持とう

天は僕達に期待する
僕達が僕達のままで発狂することを

発奮、発揮、発砲、発泡
反対、反発、反旗、反乱

狂ったように働き
狂ったように遊び
狂ったように愛し
狂ったように狂う

君の性行為はまさに発狂者のよう
一日24時間、狂喜乱舞の君

去勢せよ

誰かこいつを去勢せよ

僕は電車の到着を苛々した表情で待つ
君達の所作が大嫌いだ

慌てなくても終電がやってくる
放置していれば今日はもう終わる
気が付けば今日はもう日曜日
僕の土曜日は何だったんだ

捕らわれの身の僕は
今日一日も箱庭で過ごした
空気の淀んだ閉鎖空間で
無価値のものをあたかも
有価値であるかのように
模造する、偽造する、創作する

錯綜、迷走、瞑想、黙祷

そんな一日に消耗した僕は
先程まで黙していた僕とは違い
世の中に発信することが数多くある
僕は僕が僕らしくあるために
和装の女将が茶を点てるように
僕は外界を遮断して詩作に励む

どこまで頑張っても出口のない世界
抗う僕を嘲笑うのは君の自由
僕はもう随分前に達観した
生の出口に辿り着ける人など
過去を遡ってもごく一握りなのだ

僕達凡人にそんな機会は訪れない
だから僕は僕らしく今この瞬間に
120パーセントの僕をぶつける
何も一日24時間詩作に励める訳ではない
ならばこの瞬間を詩の神に捧げよう

狂ったように思索し
狂ったように試作し
狂ったように施策を打ち
狂ったように詩作する

それが僕が僕である所以
誰もが無関心な僕の存在
でもこの世の中にたったひとつの僕という存在
僕はそんな僕が愛しくてたまらない