巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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季節の行方不明者

2017-03-06 22:21:45 | 
今日という一日は今日にしか巡ってこない
当たり前の事実に僕は愕然とする

時に追われ、逃げ隠れする間
春が手持ち無沙汰に待っている

季節はすべての装いを変える
君はショートヘアへ
僕はスキニージーンズへ
一日一日の積み重ねたる季節は
都会の空気より敏感で繊細だ

FUNKが最高に好きな彼は
マイク片手にステージ上で踊り狂う
虚栄心と虚無感が同居する彼
常にクスリでハイになってる
ただの廃人だというのは秘密

僕が辿り着く世界もきっと
彼が逝ってしまった日常と同じ
都会の柵に縛り付けられて
行き場を失った僕達の墓場

僕達はこのまま突入する
心の整理も付けることなく、春へ
僕が一年で一番好きな季節は
タイミングを外して僕を惑わせる

毎年同様に花粉にまみれた僕は
開き始めた桜の花を目の前に
延々とクシャミが止まらず
目を開けることすらできない
なのに何故この季節を愛するのか

一日の貴重さも解らぬ僕に
季節の素晴らしさなど解る訳がない
僕は無意識のうちに春を愛でる
それは僕でなくてもそう
きっと誰もが根拠なく春を愛する

無自覚で無頓着な人間様が
今年も桜の木の下で騒ぐよ
そんな他愛ない季節の風物詩も
人影のない桜よりは映えるだろうか

僕は過ぎ行く今日を見送りながら
心のノートに「サクラサク」と書き込む
毎年この季節に偽りなくやってくる桜に
僕は嫉妬しているのかもしれない

僕には季節の移り変わりどころか
時の経過すら知ることができない

だだっ広い公園を見渡すと
どこかの爺さんが凧を揚げている
すべてのバランスを喪い前後不覚

解らない
僕は今、いつ、どこへいるのか