内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

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Policy Essayist

インフレ・ターゲットは未だ適正に機能していない  (その2)

2013-09-02 | Weblog

インフレ・ターゲットは未だ適正に機能していない  (その2)

 3月に就任した黒田日銀総裁は、安倍政権の下で2%のインフレ・ターゲットを導入すると共に、円通貨の大幅な量的緩和を実施した。

 1、不可欠な適正な為替水準の維持、安定化と株式、信託投資などへの信頼回復 (その1で掲載)

 2、現在の物価上昇はコスト押上げ型(コスト・プッシュ) 

 国民総生産の約60%を占める個人消費については、高級品を中心にして消費が伸びているが、これは個人投資家などが株価や信託投資等の価値の回復と若干の給与水準の改善による家計の改善と共に、消費増税を見越した駆け込み需要が主要因と見られる。

 消費者物価の動きを見ると、6月の全国消費者物価指数(2010年=100)は前年同月比0.4%と1年2ヶ月振りの上昇となり、7月も0.7%となった。インフレ・ターゲットが緩やかに動き出したように見える。しかし物価上昇の主要因は、電気、ガスなどの公共料金の値上げの他、円安による石油・天然ガスや原材料などの輸入価格の上昇と小麦や食料油などの輸入関連物資の値上げなど、コスト押上げ型(コスト・プッシュ)の物価上昇であり、消費は局部的に若干増加しているものの、需要牽引型(デイマンド・プル)の物価上昇には至っていない。コスト押上げ型の物価上昇は、需要増には繋がらず、逆に需要が抑えられる可能性が強い。従って設備投資なども輸出関連産業などを除き起りにくいことになる。現状を如実に物語っているように見える。

 日銀は、2%のインフレ・ターゲットを導入し、その目標が達成されるまで通貨供給の量的緩和行うとしており、消費者物価は若干プラスに転じてはいるが、主としてコスト押上げ型の物価上昇と見られるので、本来的に不可欠な需要増による経済成長や物価上昇には至っていない。このような状況が継続すると物価高の中での経済停滞(スタグフレーション)に陥る可能性も排除できないので、個人消費需要と民間投資の増加が課題と言えよう。

 現在最も重要なことは、現在の経済回復の要因となっている適正な円安水準を維持し、安定化させることであろう。それにより輸出産業や関連産業を中心とする株価も日経平均1万5千円前後に維持されようが、重要なことはその水準前後で安定することであろう。為替レートや株価が乱高下すると企業家や個人投資家は経済の先行きに疑心暗鬼となり、投資や消費は進まない。そのためには適時且つ適量の通貨供給が行われることが不可欠であろう。

 日銀としても市銀や政府系金融組織と協議、協力して、保育所や介護ホームの建設、医療機関の改善事業など資金が回り難い分野、その他民間設備投資の促進のため、超低利(金利1.5%を上限など)の融資を新設するなど、資金が欠乏している分野にも通貨が流れるような制度的仕組みを検討することが望まれる。

 個人消費についても、上記の分野の促進は好影響が期待されるが、無利子の奨学金や超低利の個人住宅融資など、個人消費を後押しする低利の融資制度が検討されることが望まれる。利子補充のために一定の政府助成をしても費用対効果の面では効果的であろう。

 政府支出については、一定の効果はあるが、GDPに占める比率が数%に止どまり、また波及効果に時間が掛かる。またバブル崩壊後の1990年代半ばより長期に亘り歳入を上回る政府支出を継続して来ている上、既に1,000兆円を越える公的債務を抱えているので、これ以上増加しても増加幅や効果が微小となり、また副作用が強くなるなど、制約が多い。財政健全化は国際的な約束ともなっている。政府支出の効果を発揮するためには、額を増やすよりは、むしろ時限付きでも良いので、東北大地震・津波の被災地への優先的配分、特にその実施体制の強化や年金給付の改善、本採用雇用形態の促進など、優先分野を今日のニーズに基づき組み換え、実施することが望ましい。石油価格の高騰にしても、石油価格が一定以上の場合暫定税率を凍結するなど、税制による対応も効果的であろう。また小麦など、政府管理の生活物資については価格を据え置くなどの措置も検討に値しよう。

 なお、企業による雇用促進のため助成が行われ、一定の効果はあるが、全体としてアルバイトや派遣等の形態で雇用を増やし助成を受けるということにより、逆に本採用が抑制され、不正規雇用の比率が増加する傾向にあるので、助成は原則本採用に対し給付されることが、本来的な雇用の促進と所得・生活基盤の安定化にとって望ましいと言えよう。

 3、望まれる米国の節度ある通貨、為替政策          (その3に掲載)

  (2013.08.30.)(All Rights Reserved.)(不許無断引用)


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