各国、各地域の努力に委ねられた世界経済 (総合編)
10月10日から開催されていた国際通貨基金(IMF)・世銀総会の一連会合は、最終日の13日に国際通貨金融委員会及び合同開発委員会のコミュニケをそれぞれ採択して閉幕した。いずれのコミュニケでも、世界経済の情勢認識において、多くの先進国経済で課題が残っている一方、新興市場経済においても成長が減速しているとして世界経済の脆弱性を指摘しつつ、財政・金融及び構造面での一層の努力が必要であり、成長を下支えする措置が取られているとの認識を示すに留まり、具体的には各国、各地域の努力に委ねた形となっている。特に雇用創出の必要性を強調しているが、これも各国の努力に委ねられている。
通貨金融問題についても、米国の金融・証券危機に端を発する欧州債務危機が中国などの新興経済国に波及していることを反映し、世界経済が減速し、不確実性が高まったとの認識を示すにとどまっており、具体的な措置を示していない。為替レートについては、黒字国においては国内の成長の源泉、即ち内需の強化の必要性を指摘する一方、赤字国については、「輸出競争力を強化しつつ国内貯蓄を増加させ、適切な場合には為替レートの更なる柔軟性を促進する」との姿勢を明らかにしている。貿易黒字国と赤字国では為替レートへの対応が異なってくるが、急速な円高と2011年の東日本大震災の影響などが重なって貿易赤字に転じた日本などの貿易赤字国については、円安への柔軟な対応を行うことも容認されることになる。
これに関連し、10月11日に開催された主要7か国(G7)財務相・中央銀行総裁会議において、城島財務大臣は、急激な円高が日本経済に及ぼす悪影響への懸念を表明し、為替介入に対する理解を求め、主要各国から具体的な協調的行動が示されたわけではないが、いわば黙認された形となった。
1、長期経済停滞の中で国際協調に徹した日本
日本経済は、90年代のバブル経済の崩壊後の長期の経済停滞の中で、2009年9月、米国大手証券の一つであったリーマン・ブラザースの破たん(リーマン・ショック)に端を発した世界的な金融危機を背景として、輸出産業を中心とする経済停滞を一層深刻なものにした。そのような長期の経済停滞の中で2011年3月11日、東日本大震災に見舞われ経済停滞は一層深刻化した。その結果、日本の貿易収支は2011年に赤字に転じ、2012年においても上期(1-6月)は過去最大の2兆9千億円強の大幅赤字となり、7、8月期も赤字が継続し、本年度上期(4-9月)の貿易赤字は3兆2千億円強と1979年以来最大の貿易赤字を記録した。
このような日本の長期の経済停滞、深刻化にも拘わらず、為替レートは、対ドル、対ユーロ共に2009年10月以降独歩高の状況であり、2011年末以降1ドル80円を割り込んでいる。日本の長期の経済停滞と東日本大震災の影響、2011年来の貿易赤字を勘案すると、明らかに日本の経済実体を越える円高が継続し、日本経済を圧迫し来ていると言える。
為替レートが1ドル80円を割り込んだのは、米国のオバマ政権が、大統領選挙を1年後に控えた2011年秋頃より輸出の倍増、雇用創出を打ち出し始めてからである。その最大の対象国は最大の貿易相手国となった中国である。中国は元安を維持して来ているが、日本は、長期経済停滞の中で、米国をはじめとする世界経済の回復を期待しつつ為替、金融面で国際協調に徹して来たと言える。
2、日本経済の回復には円レートの適正化が不可欠
米国連邦準備理事会のバーナンキ議長は、ゼロ金利の下での通貨供給の一層の量的緩和を行う構えだ。2008年9月のリーマン・ショック後景気が低迷し、失業率が9%台から8%台に下がったものの、8%台の失業率は景気回復に重くのしかかっているとしている。ドルの量的緩和が更に行われれば、インフレ懸念が指摘されると共に、基軸通貨であるドル安が進む恐れがある。
オバマ大統領は、11月の大統領選挙を控え、景気回復、特に雇用創出に優先度を置いており、2016年までに製造業で雇用を100万人創出する、そのため輸出を倍増することを昨年来訴えている。連邦準備理事会の金融の量的緩和もこの方針に沿うものであり、いずれもドル安に誘導する結果となる。
一方中国は、国民総生産で世界第2の新興経済国になったにも拘わらず、基本的には元安を維持して来ており、米国の大統領選挙のTV討論会でも争点の一つとなっている。
ユーロについては、ギリシャの財政・金融破綻を契機として一段のユーロ安が進んだが、破たん国への金融支援のために設立された欧州金融安定基金(EFSF、3年間2,000億ユーロ)の後継として恒久的な欧州安定メカニズム(ESM、融資能力5,000億ユーロ)の設置に合意され、継続的な金融支援メカニズムが構築された。更に2013年から欧州中央銀行(ECB)がEU域内の銀行を一元的に監督する機能を持つことに合意され、欧州安定メカニズムによる域内銀行に対する資本注入がECBにより直接行える可能性が出て来るなど、EUの金融支援、監督体制が整って来たことから、各国において緊縮財政への抵抗などは見られようが、ユーロは当面安定化するものと期待される。
それだけに米国と中国の責任ある経済運営、為替政策を期待したい。特に基軸通貨国である米国の金融、為替政策は、日本をはじめ世界経済への影響を十分勘案し、適正に運営されることを期待したい。他方日本は、貿易黒字から昨年来貿易赤字に転換している上、主要企業の景況感が悪化しているので、円安への適正化を図るべき時期であり、確固として金融の量的緩和と円安誘導を実施し、円為替の正常化を図ることが不可欠であろう。そのためには、まず政府が円高を阻止し、円の正常化に誘導、転換するとの明確なメッセージを市場に示すと共に、確固たる措置を取ることが望まれる。具体的には、東日本経済復興や日本の経済回復の進捗状況を見極めつつ、今後3年間程度は1ドル90円から100円を目標として、金融の量的緩和を維持しつつ、ドル買い介入を続けるなど毅然たる措置を取ることが望まれる。経済界も政府に対し経済実体に沿った円の適正化を要請すると共に、円為替の正常化に向けて金融・証券界を含め企業間で協調行動を取るなど、歩調を合わせることが望まれる。
無論財政支出による景気の下支えは必要であるが、復興支援のための5年間19兆円に加え更なる財政支出をすることは、赤字公債頼みの財政支出となるので、財政健全化への国際的な要請に反することになるほか、予算執行の遅れや不適正執行の問題があると共に効果にも限界がある。このような状況においては、地方を含め民間活力を引き出すことが不可欠であり、そのためには中・低所得層への所得減税や負担感が高い地方税(住民税、事業税など)、法人税の減税がより効率的且つ効果的と見られる。
いずれにしても日本産業の速やかな回復のためには円為替の正常化が最も効果的であろう。そして日本の経済立て直しは、中・長期的に世界経済回復の牽引力ともなろう。(2012.10.20.)(All Rights Reserved.)(不許無断引用)
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