内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線

2008-03-08 | Weblog
ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線
2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
1、かすむ議長裁定
予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。
2、道路建設のあり方と基準
一般道路については、基本的には、今後とも国道については国が、県道他の道路については地方公共団体が、相互の調整を図りつつそれぞれの責任において進められるべきであろう。建設の基準は、利用率を含む「必要性」(ニーズ)に尽きる。必要な道路は作る、必要性の低い道路は作らないということである。しかし、今後の重点は、新規の道路を造成するよりも、従来の道路の抜本的な改善と生活環境の改善に重点を置くことが望まれる。既存道路の渋滞や開かずの踏み切りの解消(交差点・踏切の地下化、迂回路の建設など)、商店街を含む生活道路の改善、駐車場や荷降ろしエリアの改善、自転車道・駐輪場の敷設など、経済的・社会的コストの軽減、生活環境の改善等に優先度を置いた道路行政、国土計画へのシフトである。「道路」の意義は国土交通省のみに「特定」されたものではなく、「縦割り」を廃し、安全や環境、空港や鉄道、港湾との連携などと共に、有事の場合に備えたインフラの整備など、総合的、横断的な発想と制度作りが必要であろう。農水省予算となっている農道や林道なども、コミュニテイ道路として地方道路に統合されるべきであろう。
道路特定財源でより問題が多いのは、「有料高速道路」の建設である。「有料」である以上、建設の基準は、必要性(利用率)と採算性でなくてはならない。採算性のない有料高速道路を作れば、赤字を累積して行くことになり、地域社会にとっては債務を含めお荷物を残す結果となる。第三セクター事業で多くの浪費と失敗例を見てきている。有料高速道路の運営は、民営化され「道路会社」に移っているが、赤字路線を抱えれば収入を食い、道路の維持・補修や新規道路建設のための内部資金が不十分となり、黒字路線の料金の引き上げや公的助成などを求めることとなり、ユーザーのみでなく、国民に追加的負担を掛ける恐れが強い。赤字路線は、赤字を累積するための事業に等しくなる。
本来、有料高速道路を管理する公団が民営化されているので、将来的には新規の道路投資の少なくても一部は道路会社が担うべきであろう。
3、道路特定財源と「暫定」税率の取り扱い
暫定税率の下での「道路特定財源」は、約5.4兆円であるが、日本の「総道路投資額」(国、地方を含む)は、8兆円強となっている(道路特定財源はその60%強、07年度道路関係予算、国交省資料)。道路特定財源以外にも、一般道路などに「一般財源」が約1.8兆円(約22%)相当、また、財投・料金収入等が約1.2兆円(約15%)相当が使用されている。
 民主党は、新たな社会的ニーズに対応するため、「暫定税率」の廃止と「道路特定財源」の一般財源化を主張しているが、数字上は、総道路投資額の内、約3兆円は道路には特定されていない「一般財源」他であるので、道路建設は「道路特定財源」に限定すれば、約3兆円が道路以外の一般財源として使用出来る。社会的ニーズの変化を勘案すると、本来であれば、ガソリン税など、道路特定財源も一般財源化が望ましい。有料高速道路に何時までも優先度を与える必要はなく、新たな国民的なニーズと国民の負担能力を勘案し、優先度の高い施策に財源を再配分して行くことが望ましい。「道路特定財源」の弊害の一つは、努力をしなくても毎年5兆円以上の財源が入り、単年度で使い切らないと剰余は国庫に返納しなくてはならなくなるので、どうしても浪費傾向となる。
 他方、現実問題として地方を含め、財源を確保して行かなくてはならないが、「一般財源化」となるとその根拠法(「道路整備費の財源等の特例に関する法律」など)を改廃しなくてはならない。「道路特定財源」の「一般財源化」するということは、国交省など道路財源を抱えている省庁の財源が減少し、一般財源として財務省の所管財源に移されることを意味するので、法令を盾に行政側の抵抗もより強くなると予想される。この面での議論は十分尽くされなくてはならないが、3月末までという時間的制約を考慮すると、抜本的改編は衆議院解散、総選挙後の検討に委ね、当面の措置として次の諸点を踏まえ対応することを提案したい。
(1)十分議論を尽くした上、「道路整備費の財源等の特例に関する法律」など道路特定財源は当面維持することとするが、対象となるガソリン税などの「暫定税率」については、石油・物価高対策の一環として、上乗せ分の2分の1を減額(減税)する。減税効果は地方のユーザーにも及ぶ。
残る半分を同法の趣旨を弾力的に解釈し、「交通の安全の確保とその円滑化を図るとともに、生活環境の改善に資するため」、地方道路を含め、既存道路の渋滞や開かずの踏み切りの解消、商店街を含む生活道路の改善、駐車場や荷降ろしエリアの改善など、経済的・社会的コストの軽減、生活環境の改善等により優先度を置いて配分する。本税部分についても同様の配慮を行う。なお、道路整備予算に関しては、農道、林道など、すべての道路を含めたものとする。
一部に、日本の石油価格は高くないとの意見もある。しかし、米国の例では、1ガロン(約3.78リッター)が3ドル強であり、リッターでは90-100円内外である。日本の石油価格は暫定税率分プラスアルファーが高いことになる。英国でも1ガロン4.9 ドル程度であり、リッター140円内外となり、日本のほうが10円内外高い。使途についても、米国でも高速道路のほか、列車等の大量輸送手段や一般財源など、広く使用されている。最大の相違は、米国などにおいては、多くの場合、高速道路は一般道路として無料であるのに反し、日本の場合、燃料に高い暫定税率を支払った上、その財源で建設された高速道路に各国に比較して高い料金を支払い、いわば2重に負担する制度となっていることだ。無論、欧米にも有料区間はあるが、郡ごとの維持費徴収のための料金やニューヨーク市などに出入りする場合の架橋等の通行費などがあるが、いずれも相対的に低額である。
 (2)日本の「総道路投資額」(国、地方を含む)の8兆円強の内、「一般財源」が約22%(約1.8兆円)充当されているが、この部分は本来の「一般財源」に戻し、道路以外で優先度の高い施策に充当する。
その他、財投・料金収入等が約15%(1.2兆円)充当されているが、上記(1)の趣旨に沿って配分することとし、特に交通事故死被害者家族の救済(子弟への無償奨学金など)の他、「生活環境の改善等」に重点を置いて配分する。財投で有料高速道路に充当する部分については、今後極力民営化された道路会社による投融資に切り替えて行くものとする。
ガソリン税の暫定税率については、石油・物価高の中で継続して追加的な負担を国民に強いるか、軽減するかの選択になる。また、道路特定財源については、これまで通りのスピードで有料高速道路や新規道路を建設するか、新たな社会的ニーズに優先度を置いて再配分するかの選択になる。年間8兆円強もの財源を当てて道路を造り続け、歳出の簡素化、再配分を行わないことになると、年金等で財源が不足することを前提として「消費税」等の国民負担を引き上げが加速することにもなりそうだ。
この問題は、上乗せされた暫定税率部分の2兆6千万円の取り扱い以上に、制度設計の問題であり、国民生活にとっても、日本の未来予想図にとっても重要な意味合いを含んでいる。上記の提案は、時間的制約の中での現実的な選択肢の一つである。今後の日本の制度設計をどうするかとの観点から、与野党間で国民が納得する接点を模索して欲しいものだ。接点が得られない場合には、この問題や年金記録漏れ問題を含む年金制度のあり方、予算・行政のあり方などにつき、民意を問う必要も出てこよう。必要があれば、その間補正予算を組めばよい。民意を問うことは、政治の空白などではなく、民主主義の基礎であり、民意に沿わない政治、行政こそが民意の空白を生むことになる。
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ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その1)

2008-03-08 | Weblog
ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その1)
 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)
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 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)
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ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その1)

2008-03-08 | Weblog
ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その1)
 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)
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 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)
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 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)
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 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)
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2008-03-08 | Weblog
ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その1)
 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)
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ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その1)

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ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その1)
 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)
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 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)
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 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)
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ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その3/3)

2008-03-08 | Weblog
ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その3/3)
3、道路特定財源と「暫定」税率の取り扱い
暫定税率の下での「道路特定財源」は、約5.4兆円であるが、日本の「総道路投資額」(国、地方を含む)は、8兆円強となっている(道路特定財源はその60%強、07年度道路関係予算、国交省資料)。道路特定財源以外にも、一般道路などに「一般財源」が約1.8兆円(約22%)相当、また、財投・料金収入等が約1.2兆円(約15%)相当が使用されている。
 民主党は、新たな社会的ニーズに対応するため、「暫定税率」の廃止と「道路特定財源」の一般財源化を主張しているが、数字上は、総道路投資額の内、約3兆円は道路には特定されていない「一般財源」他であるので、道路建設は「道路特定財源」に限定すれば、約3兆円が道路以外の一般財源として使用出来る。社会的ニーズの変化を勘案すると、本来であれば、ガソリン税など、道路特定財源も一般財源化が望ましい。有料高速道路に何時までも優先度を与える必要はなく、新たな国民的なニーズと国民の負担能力を勘案し、優先度の高い施策に財源を再配分して行くことが望ましい。「道路特定財源」の弊害の一つは、努力をしなくても毎年5兆円以上の財源が入り、単年度で使い切らないと剰余は国庫に返納しなくてはならなくなるので、どうしても浪費傾向となる。
 他方、現実問題として地方を含め、財源を確保して行かなくてはならないが、「一般財源化」となるとその根拠法(「道路整備費の財源等の特例に関する法律」など)を改廃しなくてはならない。「道路特定財源」の「一般財源化」するということは、国交省など道路財源を抱えている省庁の財源が減少し、一般財源として財務省の所管財源に移されることを意味するので、法令を盾に行政側の抵抗もより強くなると予想される。この面での議論は十分尽くされなくてはならないが、3月末までという時間的制約を考慮すると、抜本的改編は衆議院解散、総選挙後の検討に委ね、当面の措置として次の諸点を踏まえ対応することを提案したい。
(1)十分議論を尽くした上、「道路整備費の財源等の特例に関する法律」など道路特定財源は当面維持することとするが、対象となるガソリン税などの「暫定税率」については、石油・物価高対策の一環として、上乗せ分の2分の1を減額(減税)する。減税効果は地方のユーザーにも及ぶ。
残る半分を同法の趣旨を弾力的に解釈し、「交通の安全の確保とその円滑化を図るとともに、生活環境の改善に資するため」、地方道路を含め、既存道路の渋滞や開かずの踏み切りの解消、商店街を含む生活道路の改善、駐車場や荷降ろしエリアの改善など、経済的・社会的コストの軽減、生活環境の改善等により優先度を置いて配分する。本税部分についても同様の配慮を行う。なお、道路整備予算に関しては、農道、林道など、すべての道路を含めたものとする。
一部に、日本の石油価格は高くないとの意見もある。しかし、米国の例では、1ガロン(約3.78リッター)が3ドル強であり、リッターでは90-100円内外である。日本の石油価格は暫定税率分プラスアルファーが高いことになる。英国でも1ガロン4.9 ドル程度であり、リッター140円内外となり、日本のほうが10円内外高い。使途についても、米国でも高速道路のほか、列車等の大量輸送手段や一般財源など、広く使用されている。最大の相違は、米国などにおいては、多くの場合、高速道路は一般道路として無料であるのに反し、日本の場合、燃料に高い暫定税率を支払った上、その財源で建設された高速道路に各国に比較して高い料金を支払い、いわば2重に負担する制度となっていることだ。無論、欧米にも有料区間はあるが、郡ごとの維持費徴収のための料金やニューヨーク市などに出入りする場合の架橋等の通行費などがあるが、いずれも相対的に低額である。
 (2)日本の「総道路投資額」(国、地方を含む)の8兆円強の内、「一般財源」が約22%(約1.8兆円)充当されているが、この部分は本来の「一般財源」に戻し、道路以外で優先度の高い施策に充当する。
その他、財投・料金収入等が約15%(1.2兆円)充当されているが、上記(1)の趣旨に沿って配分することとし、特に交通事故死被害者家族の救済(子弟への無償奨学金など)の他、「生活環境の改善等」に重点を置いて配分する。財投で有料高速道路に充当する部分については、今後極力民営化された道路会社による投融資に切り替えて行くものとする。
ガソリン税の暫定税率については、石油・物価高の中で継続して追加的な負担を国民に強いるか、軽減するかの選択になる。また、道路特定財源については、これまで通りのスピードで有料高速道路や新規道路を建設するか、新たな社会的ニーズに優先度を置いて再配分するかの選択になる。年間8兆円強もの財源を当てて道路を造り続け、歳出の簡素化、再配分を行わないことになると、年金等で財源が不足することを前提として「消費税」等の国民負担を引き上げが加速することにもなりそうだ。
この問題は、上乗せされた暫定税率部分の2兆6千万円の取り扱い以上に、制度設計の問題であり、国民生活にとっても、日本の未来予想図にとっても重要な意味合いを含んでいる。上記の提案は、時間的制約の中での現実的な選択肢の一つである。今後の日本の制度設計をどうするかとの観点から、与野党間で国民が納得する接点を模索して欲しいものだ。接点が得られない場合には、この問題や年金記録漏れ問題を含む年金制度のあり方、予算・行政のあり方などにつき、民意を問う必要も出てこよう。必要があれば、その間補正予算を組めばよい。民意を問うことは、政治の空白などではなく、民主主義の基礎であり、民意に沿わない政治、行政こそが民意の空白を生むことになる。 (Copy Right Reserved)
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ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その3/3)

2008-03-08 | Weblog
ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その3/3)
3、道路特定財源と「暫定」税率の取り扱い
暫定税率の下での「道路特定財源」は、約5.4兆円であるが、日本の「総道路投資額」(国、地方を含む)は、8兆円強となっている(道路特定財源はその60%強、07年度道路関係予算、国交省資料)。道路特定財源以外にも、一般道路などに「一般財源」が約1.8兆円(約22%)相当、また、財投・料金収入等が約1.2兆円(約15%)相当が使用されている。
 民主党は、新たな社会的ニーズに対応するため、「暫定税率」の廃止と「道路特定財源」の一般財源化を主張しているが、数字上は、総道路投資額の内、約3兆円は道路には特定されていない「一般財源」他であるので、道路建設は「道路特定財源」に限定すれば、約3兆円が道路以外の一般財源として使用出来る。社会的ニーズの変化を勘案すると、本来であれば、ガソリン税など、道路特定財源も一般財源化が望ましい。有料高速道路に何時までも優先度を与える必要はなく、新たな国民的なニーズと国民の負担能力を勘案し、優先度の高い施策に財源を再配分して行くことが望ましい。「道路特定財源」の弊害の一つは、努力をしなくても毎年5兆円以上の財源が入り、単年度で使い切らないと剰余は国庫に返納しなくてはならなくなるので、どうしても浪費傾向となる。
 他方、現実問題として地方を含め、財源を確保して行かなくてはならないが、「一般財源化」となるとその根拠法(「道路整備費の財源等の特例に関する法律」など)を改廃しなくてはならない。「道路特定財源」の「一般財源化」するということは、国交省など道路財源を抱えている省庁の財源が減少し、一般財源として財務省の所管財源に移されることを意味するので、法令を盾に行政側の抵抗もより強くなると予想される。この面での議論は十分尽くされなくてはならないが、3月末までという時間的制約を考慮すると、抜本的改編は衆議院解散、総選挙後の検討に委ね、当面の措置として次の諸点を踏まえ対応することを提案したい。
(1)十分議論を尽くした上、「道路整備費の財源等の特例に関する法律」など道路特定財源は当面維持することとするが、対象となるガソリン税などの「暫定税率」については、石油・物価高対策の一環として、上乗せ分の2分の1を減額(減税)する。減税効果は地方のユーザーにも及ぶ。
残る半分を同法の趣旨を弾力的に解釈し、「交通の安全の確保とその円滑化を図るとともに、生活環境の改善に資するため」、地方道路を含め、既存道路の渋滞や開かずの踏み切りの解消、商店街を含む生活道路の改善、駐車場や荷降ろしエリアの改善など、経済的・社会的コストの軽減、生活環境の改善等により優先度を置いて配分する。本税部分についても同様の配慮を行う。なお、道路整備予算に関しては、農道、林道など、すべての道路を含めたものとする。
一部に、日本の石油価格は高くないとの意見もある。しかし、米国の例では、1ガロン(約3.78リッター)が3ドル強であり、リッターでは90-100円内外である。日本の石油価格は暫定税率分プラスアルファーが高いことになる。英国でも1ガロン4.9 ドル程度であり、リッター140円内外となり、日本のほうが10円内外高い。使途についても、米国でも高速道路のほか、列車等の大量輸送手段や一般財源など、広く使用されている。最大の相違は、米国などにおいては、多くの場合、高速道路は一般道路として無料であるのに反し、日本の場合、燃料に高い暫定税率を支払った上、その財源で建設された高速道路に各国に比較して高い料金を支払い、いわば2重に負担する制度となっていることだ。無論、欧米にも有料区間はあるが、郡ごとの維持費徴収のための料金やニューヨーク市などに出入りする場合の架橋等の通行費などがあるが、いずれも相対的に低額である。
 (2)日本の「総道路投資額」(国、地方を含む)の8兆円強の内、「一般財源」が約22%(約1.8兆円)充当されているが、この部分は本来の「一般財源」に戻し、道路以外で優先度の高い施策に充当する。
その他、財投・料金収入等が約15%(1.2兆円)充当されているが、上記(1)の趣旨に沿って配分することとし、特に交通事故死被害者家族の救済(子弟への無償奨学金など)の他、「生活環境の改善等」に重点を置いて配分する。財投で有料高速道路に充当する部分については、今後極力民営化された道路会社による投融資に切り替えて行くものとする。
ガソリン税の暫定税率については、石油・物価高の中で継続して追加的な負担を国民に強いるか、軽減するかの選択になる。また、道路特定財源については、これまで通りのスピードで有料高速道路や新規道路を建設するか、新たな社会的ニーズに優先度を置いて再配分するかの選択になる。年間8兆円強もの財源を当てて道路を造り続け、歳出の簡素化、再配分を行わないことになると、年金等で財源が不足することを前提として「消費税」等の国民負担を引き上げが加速することにもなりそうだ。
この問題は、上乗せされた暫定税率部分の2兆6千万円の取り扱い以上に、制度設計の問題であり、国民生活にとっても、日本の未来予想図にとっても重要な意味合いを含んでいる。上記の提案は、時間的制約の中での現実的な選択肢の一つである。今後の日本の制度設計をどうするかとの観点から、与野党間で国民が納得する接点を模索して欲しいものだ。接点が得られない場合には、この問題や年金記録漏れ問題を含む年金制度のあり方、予算・行政のあり方などにつき、民意を問う必要も出てこよう。必要があれば、その間補正予算を組めばよい。民意を問うことは、政治の空白などではなく、民主主義の基礎であり、民意に沿わない政治、行政こそが民意の空白を生むことになる。 (Copy Right Reserved)
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3、道路特定財源と「暫定」税率の取り扱い
暫定税率の下での「道路特定財源」は、約5.4兆円であるが、日本の「総道路投資額」(国、地方を含む)は、8兆円強となっている(道路特定財源はその60%強、07年度道路関係予算、国交省資料)。道路特定財源以外にも、一般道路などに「一般財源」が約1.8兆円(約22%)相当、また、財投・料金収入等が約1.2兆円(約15%)相当が使用されている。
 民主党は、新たな社会的ニーズに対応するため、「暫定税率」の廃止と「道路特定財源」の一般財源化を主張しているが、数字上は、総道路投資額の内、約3兆円は道路には特定されていない「一般財源」他であるので、道路建設は「道路特定財源」に限定すれば、約3兆円が道路以外の一般財源として使用出来る。社会的ニーズの変化を勘案すると、本来であれば、ガソリン税など、道路特定財源も一般財源化が望ましい。有料高速道路に何時までも優先度を与える必要はなく、新たな国民的なニーズと国民の負担能力を勘案し、優先度の高い施策に財源を再配分して行くことが望ましい。「道路特定財源」の弊害の一つは、努力をしなくても毎年5兆円以上の財源が入り、単年度で使い切らないと剰余は国庫に返納しなくてはならなくなるので、どうしても浪費傾向となる。
 他方、現実問題として地方を含め、財源を確保して行かなくてはならないが、「一般財源化」となるとその根拠法(「道路整備費の財源等の特例に関する法律」など)を改廃しなくてはならない。「道路特定財源」の「一般財源化」するということは、国交省など道路財源を抱えている省庁の財源が減少し、一般財源として財務省の所管財源に移されることを意味するので、法令を盾に行政側の抵抗もより強くなると予想される。この面での議論は十分尽くされなくてはならないが、3月末までという時間的制約を考慮すると、抜本的改編は衆議院解散、総選挙後の検討に委ね、当面の措置として次の諸点を踏まえ対応することを提案したい。
(1)十分議論を尽くした上、「道路整備費の財源等の特例に関する法律」など道路特定財源は当面維持することとするが、対象となるガソリン税などの「暫定税率」については、石油・物価高対策の一環として、上乗せ分の2分の1を減額(減税)する。減税効果は地方のユーザーにも及ぶ。
残る半分を同法の趣旨を弾力的に解釈し、「交通の安全の確保とその円滑化を図るとともに、生活環境の改善に資するため」、地方道路を含め、既存道路の渋滞や開かずの踏み切りの解消、商店街を含む生活道路の改善、駐車場や荷降ろしエリアの改善など、経済的・社会的コストの軽減、生活環境の改善等により優先度を置いて配分する。本税部分についても同様の配慮を行う。なお、道路整備予算に関しては、農道、林道など、すべての道路を含めたものとする。
一部に、日本の石油価格は高くないとの意見もある。しかし、米国の例では、1ガロン(約3.78リッター)が3ドル強であり、リッターでは90-100円内外である。日本の石油価格は暫定税率分プラスアルファーが高いことになる。英国でも1ガロン4.9 ドル程度であり、リッター140円内外となり、日本のほうが10円内外高い。使途についても、米国でも高速道路のほか、列車等の大量輸送手段や一般財源など、広く使用されている。最大の相違は、米国などにおいては、多くの場合、高速道路は一般道路として無料であるのに反し、日本の場合、燃料に高い暫定税率を支払った上、その財源で建設された高速道路に各国に比較して高い料金を支払い、いわば2重に負担する制度となっていることだ。無論、欧米にも有料区間はあるが、郡ごとの維持費徴収のための料金やニューヨーク市などに出入りする場合の架橋等の通行費などがあるが、いずれも相対的に低額である。
 (2)日本の「総道路投資額」(国、地方を含む)の8兆円強の内、「一般財源」が約22%(約1.8兆円)充当されているが、この部分は本来の「一般財源」に戻し、道路以外で優先度の高い施策に充当する。
その他、財投・料金収入等が約15%(1.2兆円)充当されているが、上記(1)の趣旨に沿って配分することとし、特に交通事故死被害者家族の救済(子弟への無償奨学金など)の他、「生活環境の改善等」に重点を置いて配分する。財投で有料高速道路に充当する部分については、今後極力民営化された道路会社による投融資に切り替えて行くものとする。
ガソリン税の暫定税率については、石油・物価高の中で継続して追加的な負担を国民に強いるか、軽減するかの選択になる。また、道路特定財源については、これまで通りのスピードで有料高速道路や新規道路を建設するか、新たな社会的ニーズに優先度を置いて再配分するかの選択になる。年間8兆円強もの財源を当てて道路を造り続け、歳出の簡素化、再配分を行わないことになると、年金等で財源が不足することを前提として「消費税」等の国民負担を引き上げが加速することにもなりそうだ。
この問題は、上乗せされた暫定税率部分の2兆6千万円の取り扱い以上に、制度設計の問題であり、国民生活にとっても、日本の未来予想図にとっても重要な意味合いを含んでいる。上記の提案は、時間的制約の中での現実的な選択肢の一つである。今後の日本の制度設計をどうするかとの観点から、与野党間で国民が納得する接点を模索して欲しいものだ。接点が得られない場合には、この問題や年金記録漏れ問題を含む年金制度のあり方、予算・行政のあり方などにつき、民意を問う必要も出てこよう。必要があれば、その間補正予算を組めばよい。民意を問うことは、政治の空白などではなく、民主主義の基礎であり、民意に沿わない政治、行政こそが民意の空白を生むことになる。 (Copy Right Reserved)
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3、道路特定財源と「暫定」税率の取り扱い
暫定税率の下での「道路特定財源」は、約5.4兆円であるが、日本の「総道路投資額」(国、地方を含む)は、8兆円強となっている(道路特定財源はその60%強、07年度道路関係予算、国交省資料)。道路特定財源以外にも、一般道路などに「一般財源」が約1.8兆円(約22%)相当、また、財投・料金収入等が約1.2兆円(約15%)相当が使用されている。
 民主党は、新たな社会的ニーズに対応するため、「暫定税率」の廃止と「道路特定財源」の一般財源化を主張しているが、数字上は、総道路投資額の内、約3兆円は道路には特定されていない「一般財源」他であるので、道路建設は「道路特定財源」に限定すれば、約3兆円が道路以外の一般財源として使用出来る。社会的ニーズの変化を勘案すると、本来であれば、ガソリン税など、道路特定財源も一般財源化が望ましい。有料高速道路に何時までも優先度を与える必要はなく、新たな国民的なニーズと国民の負担能力を勘案し、優先度の高い施策に財源を再配分して行くことが望ましい。「道路特定財源」の弊害の一つは、努力をしなくても毎年5兆円以上の財源が入り、単年度で使い切らないと剰余は国庫に返納しなくてはならなくなるので、どうしても浪費傾向となる。
 他方、現実問題として地方を含め、財源を確保して行かなくてはならないが、「一般財源化」となるとその根拠法(「道路整備費の財源等の特例に関する法律」など)を改廃しなくてはならない。「道路特定財源」の「一般財源化」するということは、国交省など道路財源を抱えている省庁の財源が減少し、一般財源として財務省の所管財源に移されることを意味するので、法令を盾に行政側の抵抗もより強くなると予想される。この面での議論は十分尽くされなくてはならないが、3月末までという時間的制約を考慮すると、抜本的改編は衆議院解散、総選挙後の検討に委ね、当面の措置として次の諸点を踏まえ対応することを提案したい。
(1)十分議論を尽くした上、「道路整備費の財源等の特例に関する法律」など道路特定財源は当面維持することとするが、対象となるガソリン税などの「暫定税率」については、石油・物価高対策の一環として、上乗せ分の2分の1を減額(減税)する。減税効果は地方のユーザーにも及ぶ。
残る半分を同法の趣旨を弾力的に解釈し、「交通の安全の確保とその円滑化を図るとともに、生活環境の改善に資するため」、地方道路を含め、既存道路の渋滞や開かずの踏み切りの解消、商店街を含む生活道路の改善、駐車場や荷降ろしエリアの改善など、経済的・社会的コストの軽減、生活環境の改善等により優先度を置いて配分する。本税部分についても同様の配慮を行う。なお、道路整備予算に関しては、農道、林道など、すべての道路を含めたものとする。
一部に、日本の石油価格は高くないとの意見もある。しかし、米国の例では、1ガロン(約3.78リッター)が3ドル強であり、リッターでは90-100円内外である。日本の石油価格は暫定税率分プラスアルファーが高いことになる。英国でも1ガロン4.9 ドル程度であり、リッター140円内外となり、日本のほうが10円内外高い。使途についても、米国でも高速道路のほか、列車等の大量輸送手段や一般財源など、広く使用されている。最大の相違は、米国などにおいては、多くの場合、高速道路は一般道路として無料であるのに反し、日本の場合、燃料に高い暫定税率を支払った上、その財源で建設された高速道路に各国に比較して高い料金を支払い、いわば2重に負担する制度となっていることだ。無論、欧米にも有料区間はあるが、郡ごとの維持費徴収のための料金やニューヨーク市などに出入りする場合の架橋等の通行費などがあるが、いずれも相対的に低額である。
 (2)日本の「総道路投資額」(国、地方を含む)の8兆円強の内、「一般財源」が約22%(約1.8兆円)充当されているが、この部分は本来の「一般財源」に戻し、道路以外で優先度の高い施策に充当する。
その他、財投・料金収入等が約15%(1.2兆円)充当されているが、上記(1)の趣旨に沿って配分することとし、特に交通事故死被害者家族の救済(子弟への無償奨学金など)の他、「生活環境の改善等」に重点を置いて配分する。財投で有料高速道路に充当する部分については、今後極力民営化された道路会社による投融資に切り替えて行くものとする。
ガソリン税の暫定税率については、石油・物価高の中で継続して追加的な負担を国民に強いるか、軽減するかの選択になる。また、道路特定財源については、これまで通りのスピードで有料高速道路や新規道路を建設するか、新たな社会的ニーズに優先度を置いて再配分するかの選択になる。年間8兆円強もの財源を当てて道路を造り続け、歳出の簡素化、再配分を行わないことになると、年金等で財源が不足することを前提として「消費税」等の国民負担を引き上げが加速することにもなりそうだ。
この問題は、上乗せされた暫定税率部分の2兆6千万円の取り扱い以上に、制度設計の問題であり、国民生活にとっても、日本の未来予想図にとっても重要な意味合いを含んでいる。上記の提案は、時間的制約の中での現実的な選択肢の一つである。今後の日本の制度設計をどうするかとの観点から、与野党間で国民が納得する接点を模索して欲しいものだ。接点が得られない場合には、この問題や年金記録漏れ問題を含む年金制度のあり方、予算・行政のあり方などにつき、民意を問う必要も出てこよう。必要があれば、その間補正予算を組めばよい。民意を問うことは、政治の空白などではなく、民主主義の基礎であり、民意に沿わない政治、行政こそが民意の空白を生むことになる。 (Copy Right Reserved)
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