
経営者がお金の落とし穴にはまらないようにするために
知っておくべきなのは、
▼サンク・コスト(Sunk Cost=埋没費用)

これは、すでにコストを費やしてしまったが、回収が不可能に
なった資金のことをいう。
つまり、投資に失敗して取り返せないお金である。
有名なのは、超音速旅客機コンコルドの開発事例。
コンコルドとは鳥のくちばしのような尖端を持つ旅客機で、
英仏で共同開発され、最高速度マッハ2.0、パリとニュー
ヨーク間がわずか3時間45分のふれこみであった。
しかし、開発途中で不都合なことが判明。

航空ビジネスが旅客の大量輸送へとシフトしつつある外部環境
の中で、販売見込みに疑問が呈されただけでなく、開発費用が
当初見込みを大幅に超過する見通しが明らかに。
そして、今すぐ開発を中止して違約金を支払う方が続行した場合
よりも損失額がずっと軽微で済むという結論になった。
しかし…
こうした否定的な結論を「否定」し、計画は続行。
その後莫大な資金が投入され、1969年に機体完成。
最終的に当初の5倍にも開発費用が膨れ上がり、計画を中止
しなかったがゆえに巨額の赤字を生み出した。

これはあくまで一例だが、現代においても日常茶飯事にある
ことだ。
ギャンブルで負けを取り返そうとして一か八かの賭けに出る…
また、投資家が損をリカバリーしようと、また新たな株を買い
続ける…
すでに使ってしまったお金を正当化しようとして、
さらにお金をつぎ込むわけだ。

ビジネスをしていくうえで怖いのは、
▼追加投資すれば、その資金は必ず回収できると錯覚すること
これを【サンクコストの錯覚】という。

理屈では「生きガネと死にガネを見極め、このような錯覚に
陥らないようにすべし」といくらでも言える。
しかし、これも「言うは易し、行うは難し」。
つき込んだお金が百発百中生きガネにできれば、誰も苦労しない。
もし回収不能になったら、マインド的には、
「良い授業料になった。
これは失敗ではない。学びだ!」
とプラス思考に捉えればよいだろう。

しかし、経営者は単なる気休めの精神論ではなく、何事も
合理的に判断すべきだ。
経営者としてキャッシュを投入する際に留意すべきなのは、
▼使ったお金が経費で落ちる(損金計上できる)かどうか
というモノサシである。
キャッシュアウトしているにもかかわらず、経理処理上、
損金計上をすぐできるとは限らない。
例えば、
▼銀行借入の元本返済
▼新事務所移転時の保証金
▼30万円以上の設備投資
といったものはそもそも損金計上できなかったり、できたとしても、
減価償却という形で経費計上が長期にわたるので、注意が必要だ。
裏を返せば、損金計上できる支出であれば、リカバリーは
可能である。

何故なら、
▼会社の赤字は9期繰越OK
であるからだ。
例えば、今期投入した資金が回収不能になり、1000万円の
赤字に陥り、翌期に500万円の黒字に立て直すことができ
たとしても、法人税や事業税は翌期もゼロでOK。
何故なら、今期の赤字1000万円は翌期以降9年繰り越せる
からだ。
通常黒字決算であれば、利益の約38%の法人税や事業税の
キャッシュアウトがあるが、過去の赤字があれば、その税負担
は防げる。
私は財務戦略上、過去の赤字は会社の“強み”と考えている。

「広告宣伝費」なら通常損金計上できるため、
仮説と検証を繰り返す中で、社内にマーケティングノウハウの
蓄積につなげることはいくらでも可能である。
ビジネスのいろんな場面で、
「TRY AGAIN」
をする際の判断基準に【損金計上できるか否か】を置くべし。

キャッシュアウトしているにもかかわらず、経費にならないと
社長の頭を混乱させる元凶になりやすい。
今日も社長業を楽しみましょう。