加賀市の育鵬社中学校歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書の再採択に抗議する
加賀市教育委員会教育長 山田利明殿
いしかわ教育総合研究所は2015年以来加賀市に対し、育鵬社の中学校歴史・公民教科書、日本教科書株式会社の中学校道徳教科書の劣悪性を指摘し、3教科書の再採択見送りを要望してきた。本2020年度の2021~2024年使用中学校教科書の採択において加賀市は、これら問題3教科書すべての再採択を決定した。
育鵬社歴史教科書の劣悪性は、ネルーや孫文が日露戦争における日本の勝利に喜んだが、その後の日本に失望したと他社教科書が記述しているのに育鵬社教科書だけは触れないといった、植民地支配や侵略戦争を美化する近現代史部分に顕著である。のみならず、広隆寺弥勒菩薩像の紹介で、他社教科書が特筆する韓国国宝83号との酷似に触れないといった、独善的日本讃美に充ちた古代中近世史部分にまで及んでいる。さらに育鵬社教科書の「目玉」神話部分にさえ、(神話と歴史と混同する愚かさとは別に)神武天皇を天孫ニニギの3代目(実は4代目で戦前なら不敬罪もの)とする無教養な間違いが見られる。
育鵬社公民教科書の劣悪性は、冒頭の「地球市民など幻想で国際人になる前に日本人であれ」という曽野綾子氏のエッセイに象徴されている。大坂なおみさんの「私は日本人であると同時に黒人女性」、レディーガガさんの「私はアメリカ人であると同時に世界市民」といった発言が世界的な共感を呼んでいる現代において、「日本人であると同時に地球市民である」ことを許さない公民教科書を与えられた加賀市の子どもたちの不幸に心が痛む。また直近の9月7日、育鵬社公民教科書が滋賀県守山市の無料学習塾について当該団体に無断で掲載し、その記事も誤謬だらけなこと(「愛知県守山市」という間違いさえあった)を当該団体から抗議されたことが全国ニュースとなった。育鵬社教科書の劣悪性は今や日本の常識になりつつある。
日本教科書道徳教科書の劣悪性は、初の黒人メジャーリーガーが球団オーナーから人種差別のヤジに「やり返さない勇気」を求められ、それに従ったことが美談として取り上げられた中1の「永久欠番42」などに現れている。「♯Me Too」運動や「Black Lives Matter」運動が世界的な共感を呼んでいる現代において、このような道徳教科書を与えられた加賀市の子どもたちの不幸に嘆かざるをえない。
すでに全国ニュースになっていることだが、神奈川県の横浜市と藤沢市、大阪市初め大阪府下の諸都市、愛媛県松山市、広島県呉市など、前回育鵬社教科書大手採択区のほとんどが再採択を見送り、育鵬社教科書の部数が10分の1ほどに激減する育鵬社採択の雪崩現象が今年度起こっている。これは育鵬社教科書の劣悪性が全国的に知られた結果である。また日本教科書の道徳教科書も、先述した差別への屈服の奨励や、刑事訴追や社会的制裁などの脅迫に終始するいじめ防止など、あまりのひどさに全国で採択区が栃木県大田原市、石川県の小松市と加賀市の3つだけだったことが話題になった。今年度の採択においても大田原市と加賀市が再採択した以外に、千葉県の一部を除き新規採択区があったことをきかない。
そのように貧しい知性が生んだ国家主義教科書が全国的に退潮する中で、小松市と金沢市が育鵬社歴史教科書を、加賀市が育鵬社歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書を再採択したことは異様であり、全国から石川県3市の見識に対し奇異の眼差しが向けられている。特に加賀市は、栃木県大田原市とともに、最悪の国家主義3教科書を採択した日本ただ2つの市として(千葉県一部の歴史・公民教科書は未発表)全国に知られることになった。日本指折りの温泉地を多数抱え、国際的に恥ずかしくない人権感覚と歴史認識を持っていなければならないはずの加賀市が、陰湿な裏工作でしか採択を実現できず、内容も国際人権基準からはずれ学問的批判に堪えない教科書を採択し続けていることに、観光都市としての実害が生じることを危惧せざるをえない。
育鵬社が安倍前首相の肝いりで造られたことは周知のことだし、日本教科書も安倍前首相が推奨する「新しい教科書をつくる会」の流れで生まれた会社である。その安倍政権は先日、モリカケサクラカワイといった深刻なモラルハザードと、人口当たり新型コロナ死者数東アジアワースト上位、人口当たりPCR検査数世界159位、IT競争力世界23位(30年前1位)という「かつての先進国」状況を日本に残して終わった。このような日本の劣化は、ここ20数年にわたり(「新しい教科書をつくる会」発足は1997年)日本では、時代錯誤の国家主義教科書を採択させることに、多大なエネルギーが費やされてきたことと無関係ではないであろう。
国が劣化するときそれを是正するのは地域の義務であり、現実に全国多数の教育委員会は育鵬社教科書の再採択を見送ることでその存在意義を示した。石川県の3市は残念ながら時代錯誤の勢力に忖度し、人類の多難な未来を担う子どもたちへの神聖な義務を果たすことができなかった。そして金沢市が育鵬社歴史教科書の再採択だけに終わり、小松市が育鵬社公民教科書と日本教科書道徳教科書の再採択を見送ったことに比べれば、最悪3教科書を再採択した加賀市教育委員会の責任は、3市の中で格段に重いと云わざるをえない。
いしかわ教育総合研究所は以上の観点にもとづき、育鵬社歴史・公民教科書と日本教科書道徳教科書を再採択した加賀市に抗議し、その見直しと採択のやり直しを強く求める。
2020年9月24日 いしかわ教育総合研究所共同代表 半沢英一
加賀市教育委員会教育長 山田利明殿
いしかわ教育総合研究所は2015年以来加賀市に対し、育鵬社の中学校歴史・公民教科書、日本教科書株式会社の中学校道徳教科書の劣悪性を指摘し、3教科書の再採択見送りを要望してきた。本2020年度の2021~2024年使用中学校教科書の採択において加賀市は、これら問題3教科書すべての再採択を決定した。
育鵬社歴史教科書の劣悪性は、ネルーや孫文が日露戦争における日本の勝利に喜んだが、その後の日本に失望したと他社教科書が記述しているのに育鵬社教科書だけは触れないといった、植民地支配や侵略戦争を美化する近現代史部分に顕著である。のみならず、広隆寺弥勒菩薩像の紹介で、他社教科書が特筆する韓国国宝83号との酷似に触れないといった、独善的日本讃美に充ちた古代中近世史部分にまで及んでいる。さらに育鵬社教科書の「目玉」神話部分にさえ、(神話と歴史と混同する愚かさとは別に)神武天皇を天孫ニニギの3代目(実は4代目で戦前なら不敬罪もの)とする無教養な間違いが見られる。
育鵬社公民教科書の劣悪性は、冒頭の「地球市民など幻想で国際人になる前に日本人であれ」という曽野綾子氏のエッセイに象徴されている。大坂なおみさんの「私は日本人であると同時に黒人女性」、レディーガガさんの「私はアメリカ人であると同時に世界市民」といった発言が世界的な共感を呼んでいる現代において、「日本人であると同時に地球市民である」ことを許さない公民教科書を与えられた加賀市の子どもたちの不幸に心が痛む。また直近の9月7日、育鵬社公民教科書が滋賀県守山市の無料学習塾について当該団体に無断で掲載し、その記事も誤謬だらけなこと(「愛知県守山市」という間違いさえあった)を当該団体から抗議されたことが全国ニュースとなった。育鵬社教科書の劣悪性は今や日本の常識になりつつある。
日本教科書道徳教科書の劣悪性は、初の黒人メジャーリーガーが球団オーナーから人種差別のヤジに「やり返さない勇気」を求められ、それに従ったことが美談として取り上げられた中1の「永久欠番42」などに現れている。「♯Me Too」運動や「Black Lives Matter」運動が世界的な共感を呼んでいる現代において、このような道徳教科書を与えられた加賀市の子どもたちの不幸に嘆かざるをえない。
すでに全国ニュースになっていることだが、神奈川県の横浜市と藤沢市、大阪市初め大阪府下の諸都市、愛媛県松山市、広島県呉市など、前回育鵬社教科書大手採択区のほとんどが再採択を見送り、育鵬社教科書の部数が10分の1ほどに激減する育鵬社採択の雪崩現象が今年度起こっている。これは育鵬社教科書の劣悪性が全国的に知られた結果である。また日本教科書の道徳教科書も、先述した差別への屈服の奨励や、刑事訴追や社会的制裁などの脅迫に終始するいじめ防止など、あまりのひどさに全国で採択区が栃木県大田原市、石川県の小松市と加賀市の3つだけだったことが話題になった。今年度の採択においても大田原市と加賀市が再採択した以外に、千葉県の一部を除き新規採択区があったことをきかない。
そのように貧しい知性が生んだ国家主義教科書が全国的に退潮する中で、小松市と金沢市が育鵬社歴史教科書を、加賀市が育鵬社歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書を再採択したことは異様であり、全国から石川県3市の見識に対し奇異の眼差しが向けられている。特に加賀市は、栃木県大田原市とともに、最悪の国家主義3教科書を採択した日本ただ2つの市として(千葉県一部の歴史・公民教科書は未発表)全国に知られることになった。日本指折りの温泉地を多数抱え、国際的に恥ずかしくない人権感覚と歴史認識を持っていなければならないはずの加賀市が、陰湿な裏工作でしか採択を実現できず、内容も国際人権基準からはずれ学問的批判に堪えない教科書を採択し続けていることに、観光都市としての実害が生じることを危惧せざるをえない。
育鵬社が安倍前首相の肝いりで造られたことは周知のことだし、日本教科書も安倍前首相が推奨する「新しい教科書をつくる会」の流れで生まれた会社である。その安倍政権は先日、モリカケサクラカワイといった深刻なモラルハザードと、人口当たり新型コロナ死者数東アジアワースト上位、人口当たりPCR検査数世界159位、IT競争力世界23位(30年前1位)という「かつての先進国」状況を日本に残して終わった。このような日本の劣化は、ここ20数年にわたり(「新しい教科書をつくる会」発足は1997年)日本では、時代錯誤の国家主義教科書を採択させることに、多大なエネルギーが費やされてきたことと無関係ではないであろう。
国が劣化するときそれを是正するのは地域の義務であり、現実に全国多数の教育委員会は育鵬社教科書の再採択を見送ることでその存在意義を示した。石川県の3市は残念ながら時代錯誤の勢力に忖度し、人類の多難な未来を担う子どもたちへの神聖な義務を果たすことができなかった。そして金沢市が育鵬社歴史教科書の再採択だけに終わり、小松市が育鵬社公民教科書と日本教科書道徳教科書の再採択を見送ったことに比べれば、最悪3教科書を再採択した加賀市教育委員会の責任は、3市の中で格段に重いと云わざるをえない。
いしかわ教育総合研究所は以上の観点にもとづき、育鵬社歴史・公民教科書と日本教科書道徳教科書を再採択した加賀市に抗議し、その見直しと採択のやり直しを強く求める。
2020年9月24日 いしかわ教育総合研究所共同代表 半沢英一