子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

大阪で教科書問題にとり組む市民運動の交流ブログ

加賀市の育鵬社中学校歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書の再採択に抗議する

2020-09-25 20:54:19 | 2020年中学校教科書採択(全国)
 加賀市の育鵬社中学校歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書の再採択に抗議する

 加賀市教育委員会教育長 山田利明殿

 いしかわ教育総合研究所は2015年以来加賀市に対し、育鵬社の中学校歴史・公民教科書、日本教科書株式会社の中学校道徳教科書の劣悪性を指摘し、3教科書の再採択見送りを要望してきた。本2020年度の2021~2024年使用中学校教科書の採択において加賀市は、これら問題3教科書すべての再採択を決定した。

育鵬社歴史教科書の劣悪性は、ネルーや孫文が日露戦争における日本の勝利に喜んだが、その後の日本に失望したと他社教科書が記述しているのに育鵬社教科書だけは触れないといった、植民地支配や侵略戦争を美化する近現代史部分に顕著である。のみならず、広隆寺弥勒菩薩像の紹介で、他社教科書が特筆する韓国国宝83号との酷似に触れないといった、独善的日本讃美に充ちた古代中近世史部分にまで及んでいる。さらに育鵬社教科書の「目玉」神話部分にさえ、(神話と歴史と混同する愚かさとは別に)神武天皇を天孫ニニギの3代目(実は4代目で戦前なら不敬罪もの)とする無教養な間違いが見られる。

 育鵬社公民教科書の劣悪性は、冒頭の「地球市民など幻想で国際人になる前に日本人であれ」という曽野綾子氏のエッセイに象徴されている。大坂なおみさんの「私は日本人であると同時に黒人女性」、レディーガガさんの「私はアメリカ人であると同時に世界市民」といった発言が世界的な共感を呼んでいる現代において、「日本人であると同時に地球市民である」ことを許さない公民教科書を与えられた加賀市の子どもたちの不幸に心が痛む。また直近の9月7日、育鵬社公民教科書が滋賀県守山市の無料学習塾について当該団体に無断で掲載し、その記事も誤謬だらけなこと(「愛知県守山市」という間違いさえあった)を当該団体から抗議されたことが全国ニュースとなった。育鵬社教科書の劣悪性は今や日本の常識になりつつある。

 日本教科書道徳教科書の劣悪性は、初の黒人メジャーリーガーが球団オーナーから人種差別のヤジに「やり返さない勇気」を求められ、それに従ったことが美談として取り上げられた中1の「永久欠番42」などに現れている。「♯Me Too」運動や「Black Lives Matter」運動が世界的な共感を呼んでいる現代において、このような道徳教科書を与えられた加賀市の子どもたちの不幸に嘆かざるをえない。

 すでに全国ニュースになっていることだが、神奈川県の横浜市と藤沢市、大阪市初め大阪府下の諸都市、愛媛県松山市、広島県呉市など、前回育鵬社教科書大手採択区のほとんどが再採択を見送り、育鵬社教科書の部数が10分の1ほどに激減する育鵬社採択の雪崩現象が今年度起こっている。これは育鵬社教科書の劣悪性が全国的に知られた結果である。また日本教科書の道徳教科書も、先述した差別への屈服の奨励や、刑事訴追や社会的制裁などの脅迫に終始するいじめ防止など、あまりのひどさに全国で採択区が栃木県大田原市、石川県の小松市と加賀市の3つだけだったことが話題になった。今年度の採択においても大田原市と加賀市が再採択した以外に、千葉県の一部を除き新規採択区があったことをきかない。

 そのように貧しい知性が生んだ国家主義教科書が全国的に退潮する中で、小松市と金沢市が育鵬社歴史教科書を、加賀市が育鵬社歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書を再採択したことは異様であり、全国から石川県3市の見識に対し奇異の眼差しが向けられている。特に加賀市は、栃木県大田原市とともに、最悪の国家主義3教科書を採択した日本ただ2つの市として(千葉県一部の歴史・公民教科書は未発表)全国に知られることになった。日本指折りの温泉地を多数抱え、国際的に恥ずかしくない人権感覚と歴史認識を持っていなければならないはずの加賀市が、陰湿な裏工作でしか採択を実現できず、内容も国際人権基準からはずれ学問的批判に堪えない教科書を採択し続けていることに、観光都市としての実害が生じることを危惧せざるをえない。

 育鵬社が安倍前首相の肝いりで造られたことは周知のことだし、日本教科書も安倍前首相が推奨する「新しい教科書をつくる会」の流れで生まれた会社である。その安倍政権は先日、モリカケサクラカワイといった深刻なモラルハザードと、人口当たり新型コロナ死者数東アジアワースト上位、人口当たりPCR検査数世界159位、IT競争力世界23位(30年前1位)という「かつての先進国」状況を日本に残して終わった。このような日本の劣化は、ここ20数年にわたり(「新しい教科書をつくる会」発足は1997年)日本では、時代錯誤の国家主義教科書を採択させることに、多大なエネルギーが費やされてきたことと無関係ではないであろう。

 国が劣化するときそれを是正するのは地域の義務であり、現実に全国多数の教育委員会は育鵬社教科書の再採択を見送ることでその存在意義を示した。石川県の3市は残念ながら時代錯誤の勢力に忖度し、人類の多難な未来を担う子どもたちへの神聖な義務を果たすことができなかった。そして金沢市が育鵬社歴史教科書の再採択だけに終わり、小松市が育鵬社公民教科書と日本教科書道徳教科書の再採択を見送ったことに比べれば、最悪3教科書を再採択した加賀市教育委員会の責任は、3市の中で格段に重いと云わざるをえない。

 いしかわ教育総合研究所は以上の観点にもとづき、育鵬社歴史・公民教科書と日本教科書道徳教科書を再採択した加賀市に抗議し、その見直しと採択のやり直しを強く求める。

2020年9月24日 いしかわ教育総合研究所共同代表 半沢英一

小松市の育鵬社中学校歴史教科書再採択に抗議する

2020-09-25 20:53:52 | 2020年中学校教科書採択(全国)
小松市の育鵬社中学校歴史教科書再採択に抗議する

 小松市教育委員会教育長 石黒和彦殿

 いしかわ教育総合研究所は2015年以来小松市に対し、育鵬社の中学校歴史・公民教科書、日本教科書株式会社の中学校道徳教科書の劣悪性を指摘し、3教科書の再採択見送りを要望してきた。本2020年度の2021~2024年使用中学校教科書の採択において小松市は、公民において帝国書院、道徳において日本文教出版の教科書を採択し、問題2教科書の再採択を見送ったが、歴史においては育鵬社教科書を再採択した。

 すでに全国ニュースになっているが、神奈川県の横浜市と藤沢市、大阪市初め大阪府下の諸都市、愛媛県松山市、広島県呉市など、前回育鵬社教科書大手採択区のほとんどが再採択を見送り、育鵬社教科書の部数が10分の1ほどに激減する育鵬社採択の雪崩現象が今年度起こっている。これは育鵬社教科書の劣悪性が全国的に知られた結果と思われる。育鵬社の劣悪性は、直近の9月7日、同社公民教科書が滋賀県守山市の無料学習塾について当該団体に無断で掲載し、その記事も誤謬だらけなこと(「愛知県守山市」という間違いさえあった)を当該団体から抗議されたニュースなどによって、いまや日本の常識となりつつある。

 また日本教科書の道徳教科書も、差別に屈服することの奨励や、刑事訴追や社会的制裁などの脅迫に終始したいじめ防止の項など、あまりのひどさゆえであろうが、全国で採択区が栃木県大田原市、石川県の小松市と加賀市の3つだけだったことが話題になった。今年度においても大田原市と加賀市が再採択した他、千葉県の一部を除き新規採択区があったことをきかない。

 そのように貧しい知性が生んだ国家主義教科書が全国的に退潮する中で、小松市と金沢市が育鵬社歴史教科書を、加賀市が育鵬社歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書を再採したことは異様であり、全国から石川県3市の見識に対し奇異の眼差しが向けられている。当該教育委員会の見識と勇気の欠如を見越した、時代錯誤の国家主義教科書を採択させようとする勢力からの、懸命の働きかけが背後にあったことが推測できる。

 育鵬社が安倍前首相の肝いりで造られたことは周知のことだし、日本教科書も安倍前首相が推奨する「新しい教科書をつくる会」の流れで生まれた会社である。その安倍政権は先日、モリカケサクラカワイといった深刻なモラルハザードと、人口当たり新型コロナ死者数東アジアワースト上位、人口当たりPCR検査数世界159位、IT競争力世界23位(30年前1位)という「かつての先進国」状況を日本に残して終わった。このような日本の劣化は、ここ20数年にわたり(「新しい教科書をつくる会」発足は1997年)日本で時代錯誤の国家主義教科書を採択させることに、多大なエネルギーが費やされてきたことと無関係ではないであろう。

 国が劣化するときそれを是正するのは地域の義務であり、現実に全国多数の教育委員会は育鵬社教科書の再採択を見送ることで、その存在意義を示した。石川県の金沢、小松、加賀の3市は残念ながら時代錯誤の勢力に忖度し、人類の多難な未来を担う子どもたちへの神聖な義務を果たすことをしなかった。

 小松市が再採択した育鵬社歴史教科書の内容は、小松市が今回再採択を見送った育鵬社公民教科書や日本教科書道徳教科書と同様に劣悪なものである。

その劣悪性は、ネルーや孫文が日露戦争における日本の勝利に喜んだが、その後の日本に失望したと他社教科書が記述しているのに育鵬社教科書だけは触れないといった、植民地支配や侵略戦争を美化する近現代史部分に顕著である。のみならず、広隆寺弥勒菩薩像の紹介で、他社教科書が特筆する韓国国宝83号との酷似に触れないといったように、独善的日本讃美に充ちた古代中近世史部分にまで及んでいる。さらに育鵬社教科書の「目玉」神話部分にさえ、(神話と歴史と混同する愚かさとは別に)神武天皇を天孫ニニギの3代目(実は4代目、戦前なら不敬罪もの)とする無教養な間違いが見られる。

 小松市は育鵬社歴史教科書の採択理由に「我が国の歴史や伝統文化の特色について学ぶことができる」としているが、「我が国の歴史や伝統文化の特色について誤解することができる」の間違いではないかと反問せざるをえない。

 もちろん小松市教育委員会が育鵬社公民教科書と日本教科書道徳教科書の再採択を見送ったのは真っ当な判断であり、上に忖度するだけで何もできなかった金沢市や加賀市の教育委員会に比べればましだったことを認めるのにやぶさかではない。しかし、現にこれからの4年間この教科書を使わされる子どもたちのことを想うとき、残念ながら小松市の姿勢を評価することはできない。むしろ金沢市や加賀市の教育委員会に比べ多少の判断力を持つことが示せたわけだから、それを徹底する勇気を欠いたことが責められるべきであろう。

 いしかわ教育総合研究所は以上の観点にもとづき、育鵬社公民教科書と日本教科書道徳教科書の再採択を見送りながら、育鵬社歴史教科書の再採択見送りに踏み切れなかった小松市に抗議し、その見直しと採択のやり直しを強く求める。

2020年9月24日 いしかわ教育総合研究所共同代表 半沢英一


楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作に反対する要望書

2020-09-25 20:43:11 | 大阪での教育破壊
大阪北摂地域からの新しい動きです。

河内長野市が中心となって「楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマを誘致する運動」がおこなわれています。このほど北摂で市民団体を立ち上げ、島本町をはじめとする大阪府で反対する声をあげることに踏み出しました。添付の「要望書」と資料はすでにNHK大阪放送局に届けました。大阪放送局から東京の制作局に伝えてもらい、文書での回答をもらえるように要望しています。

北摂での市民団体は基本的にはこれまで教科書運動をやってきた人たちが中心ですが、これまで島本町で「楠正成の顕彰」に疑問を持って調査活動をしてこられた市民も参加していただいての出発です。

大阪府で35自治体が参加し、維新の吉村知事と松井大阪市長が顧問です。全国では61自治体が参加しています。誘致協議会は幅広く作られており、観光とからんだ町おこしの起爆剤のように考えている自治体も多く、「楠正成親子」の史実と戦前の『修身』での利用のされ方はほぼ検証されていません。私たちの活動はそれに一石を投じるものです。

この問題は教科書問題と深くかかわっており、日本会議ら右派の皇国史観の流布を止めることは、非常に重要な意味を持っています。育鵬社歴史教科書ではすでに楠正成は天皇の「忠臣」とはっきり書かれています。その他の教科書ではそこまでではなく、「悪党勢力」とはっきり書いている教科書もありますが、神話の「神武天皇」が教科書改訂のたびに教科書で大きく扱われるようになっていったのと同様に、楠正成も状況次第では今後大きくなっていくかもしれません。教科書運動もそうですが、怪しい動きが見つかったら、すぐに芽を摘むことが重要だと考えます。

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2020年9月22日
日本放送協会
NHK大阪放送局 広報部 担当者 様
NHK東京放送局 大河ドラマ制作担当者 様 
                
楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作を考える会
                                   

楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作に反対する要望書

私たちは日本国憲法にもとづく人権・平和・共生の理念を大切にした教科書を子どもたちに渡したい、と活動している大阪府内自治体の市民です。
 
2018年4月、楠木正成・正行にゆかりのある地の自治体が連携し、NHK大河ドラマ誘致に向け「楠公さん」大河ドラマ誘致協議会(大阪府河内長野市事務局)が発足しました。河内長野市長が会長、副会長には富田林市、四條畷市、千早赤阪村、高石市、島本町の首長が就任しています。2020年7月現在では大阪府内の35自治体を含み全国で61自治体が協議会に加盟して、NHK大河ドラマ誘致活動を行っています。(資料1参照) 
 
楠木正成については鎌倉末期から南北朝時代に後醍醐天皇に尽くした武士として軍記物語『太平記』に記されています。近世には尊王思想が隆盛する中で楠木正成を顕彰する「楠公祭」なども行われ始めました。近代は国体論と結びつき楠木正成は国民的英雄とされ、楠公祭は全国各地に広がり、日中戦争前後には盛大に催されています。
後醍醐天皇の建武の新政(1333年)に反旗を翻した足利尊氏との合戦に湊川に向かう前、楠木正成は最後の合戦と覚悟し、途中の「桜井の宿(しゅく)」で息子の正行に「忠義を貫け」と遺訓を与えたという「桜井の別れ」が有名です。その舞台とされた「桜井駅」(大阪府島本町)は歴史的に確定されていないにもかかわらず、1921年に国の史跡に指定されました。史実より「忠孝」「忠臣」という国民道徳を優先し、史跡桜井駅跡一帯は戦争中、戦意高揚のために「楠公精神」の教育の場となりました。史跡は拡大整備されて、巨大な乃木希典陸軍大将揮毫の「楠公父子決別之所」碑、東郷平八郎海軍大将揮毫の「明治天皇御製」碑も建てられました。整備には小学校・中学校・高等女学校の生徒が「勤労奉仕」も行い、戦争が激化するとともに大人のみならず、大阪や京都の子どもたちは学校から参拝に来ました。
楠木正成と正行親子は明治期からアジア・太平洋戦争の敗戦まで、天皇に忠義を尽くす「教育勅語」の教えを体現するシンボルとしてたたえられ、「忠臣」を育成するために『国史』『修身』で最も重要な教材でした。1941年から国民学校で使用された教科書『初等科国史』の最後は、靖国神社の絵とともに「正行のやうな、立派な臣民となり、天皇陛下の御ために、おつくし申しあげなければなりません。」で締めくくられ、正行は天皇に忠義を尽くす皇国臣民の鏡とされました。
子どもたちを戦争に導く楠公精神教育については、戦中の大阪府島本町の島本国民学校教育の歴史(資料2参照)が証明しています。

おりしも2021年度使用中学校教科書の採択対象となった育鵬社歴史教科書は、史実より神話を重視し、戦争を美化する教科書として特徴的です。楠木正成については、肖像画入りのコラムで「後醍醐天皇のために戦い続けたことから、のちに「忠臣」とたたえられた」との記述があり、他社の教科書記述(「悪党勢力」など)と比較しても特異です。

 先の大河ドラマ誘致協議会の加盟自治体は楠木正成・正行にゆかりがあるということで、「観光」や「活用」をうたい地域おこしに役立てようとしています。史実より物語を優先する誘致活動姿勢は学問や歴史、文化財が商品化され、戦後の歴史研究の到達点をないがしろにし、普遍性のない内向きのナショナリズムをもたらす危険性があります。憲法にもとづく自治体運営を行うべき自治体として、子どもたちを戦争に導く楠公精神を是とした戦前の教育を検証することなく、「楠公さん」大河ドラマ誘致を行う協議会に疑問をもちます。

よって、貴NHKにおかれましては、要望の内容を十分ご検討いただき、楠木正成を主人公とするNHK大河ドラマの制作を行わないよう、強く要望いたします。