映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「クロコダイル・ティアーズ」雫井脩介

2024年09月09日 | 本(ミステリ)

嫁はとんでもない悪女なのか?

 

 

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ベストセラー作家、雫井脩介による「究極のサスペンス」

この美しき妻は、夫の殺害を企んだのか。

息子を殺害した犯人は、嫁である想代子のかつての恋人。
被告となった男は、裁判で「想代子から『夫殺し』を依頼された」と主張する。
犯人の一言で、残された家族の間に、疑念が広がってしまう。

未亡人となった想代子を疑う母親と、信じたい父親。
家族にまつわる「疑心暗鬼の闇」を描く、静謐で濃密なサスペンスが誕生!

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とある家族の疑心暗鬼の物語

鎌倉近くの陶磁器店「土岐屋吉平」を経営する久野貞彦。
今は妻と2人暮らし。
ひとり息子・康平は結婚し、妻・想代子(そよこ)とまだ幼い息子が1人。
近所で暮らしていて、店の後を継ぐべく、𠮷平の経営を手伝っています。

そんなある日、康平が殺害されてしまいます。
犯人はすぐ捕まりましたが、その男は
以前康平の妻・想代子につきまとっていたストーカーだった・・・。

 

想代子にとっては全く迷惑な話。
しかし本作、主に父・貞彦とその妻・暁美の視点から描かれているのです。

暁美は思う。
息子の死に際して嫁はどうも本当に悲しんでいるように見えない。
わざとらしく目にハンカチを当てているけれど、まるで嘘泣きのようだ・・・。
と、本作の題名「クロコダイル・ティアーズ」が「嘘泣き」の意味であることが提示されます。
嫁と姑の関係であることから、元々あまりしっくりいった感じがしていなかった暁美。
そして息子がときおり想代子に暴力を振るっていたことを薄々感じてもいたのです。
そしてまた孫は引っ込み思案で大人しく、活発だった息子に似ていない・・・。

極めつきは、裁判の時に、被告となった男が
「想代子から『夫殺し』を依頼された」と主張。
なんの証拠があるわけでもないのに、それを聞いて暁美の疑惑はどんどん深まっていきます。
あげくには、孫は康平の子供ではないのではないか?とまで思う。

果たして想代子は、とんでもない悪女なのか。
それとも・・・。

 

ついつい引き込まれてしまいますね。
一方的な思い込みは慎まなければ・・・。
個人的には、DV夫がさっさと死んでくれて良かった・・・などと思ったりします。

 

<図書館蔵書にて>

「クロコダイル・ティアーズ」雫井脩介 文藝春秋

満足度★★★★☆


スラムドッグス

2024年09月07日 | 映画(さ行)

犬を捨てたヤツに復讐せよ

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犬のレジーは、飼い主のダグに家から遠い場所に捨てられてしまいます。

実は、レジーはダグから数々の虐待に近い扱いを受けていたのですが、
それを遊びかゲームと思い込んでいました。
それでこのたびのことも、ゲームの一つと思い、
とまどいつつも、家を目指してさまよい始めます。

そんな時に、ノラ犬のバグと出会い、
ダグの扱いは虐待で、これはゲームではなく捨てられたのだと指摘します。
飼い主ダグが最低なヤツだとようやく認識したレジーは、復讐を決意。
賛同するバグと、新たに知り合ったマギー、ハンターとともに、レジーの家を目指すことに。

さてさて、ごく気楽に見られるものが見たいと思い見始めましたが、
あまりにも下ネタ満載、下品な言葉のオンパレードに
ちょっとげんなりさせられました・・・。
イヌのことだからいい?? 
イヤイヤイヤ、本作、子供には見せられませんよ。
(実際、PG12だった!!)

それでも、犬たちは十分可愛くユーモラス。
これはすべて実写ではなくて、CGも入ってる感じですね。
犬が話している口元とかを見ると・・・。

ちなみに、彼らはみな違う犬種で、

レジー:ボーダーテリア

バグ:ボストンテリア(野良犬生活を謳歌中)

マギー:オーストラリアンシェパード(飼い主は子犬に夢中で、マギーに興味を失っている)

ハンター:グレートデン(体格はいいが、警察犬になり損ねた臆病犬)

まあ、犬同志の友情は美しかった・・・。

<Amazon prime videoにて>

「スラムドッグス」

2023年/アメリカ/94分

監督:ジョシュ・グリーンバウム

脚本:ダン・ペロー

出演(声):ウィル・フェレル、ジェイミー・フォックス、アイラ・フィッシャー、ランドール・パーク

下品度★★★★★

満足度★★☆☆☆


奈落のマイホーム

2024年09月06日 | 映画(な行)

マンションごと、深い穴の中に・・・

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たまには韓国作品も見ましょうか、ということで。

 

平凡な会社員ドンウォン。
長い節約生活の末、ソウルの一等地にマンションを購入します。
念願のマイホームに、妻と息子とともに引っ越し、
同僚を招いて新築祝いのパーティーを行います。

ところがそんな時に、大雨でシンクホールが発生し、
あっという間にマンション全体が飲み込まれてしまいます。

ソリの合わない隣人マンスや会社の部下たちとともに地下500メートルまで落下した彼ら。
脱出するべく手を尽くしますが、さらなる雨で穴は水で満たされていきます・・・。

コメディタッチで、そんなバカなという事故。
でも結構迫力があって、意外と引き込まれてしまいました。

始め、全くソリが合わなかったドンウォンと隣人マンス。
けれど、こんな困難の渦中にあって次第に息が合って来ます。
普通に互いの生活、命を大事に思う気持ちをちゃんと持っている。
2人ともブルース・ウィリス並みの活躍をしますよ!

こう言う隣人愛、家族愛がしっかりしているところが、
なんだか見ていて心地よかったです。

ドンウォンの奥さんはちょうどその時買い物に出ていて無事。
しかし実は妻と一緒にいたはずの息子がマンションに戻ってきていて・・・。
息子は妻と一緒にいるはずと思い込んでいたドンウォンが、
そうではなかったことを知って愕然とし、
必死で探し出そうとするという展開が見事でした。

展開は若干無理矢理の所もありながら、ま、いいかと思える作品。

<Amazon prime videoにて>

「奈落のマイホーム」

2021年/韓国/114分

監督:キム・ジフン

出演:チャ・スンウォン、キム・ソンギュン、イ・グァンス、キム・ヘジュン

 

家族愛・隣人愛度★★★★★

危機一髪度★★★★☆

満足度★★★★☆


キセキの葉書

2024年09月04日 | 映画(か行)

毎日綴り続けた家族の葉書

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兵庫県西宮のマンモス団地。
夫と小学生の息子・勇希、5歳の娘・望美と暮らす38歳原田美幸(鈴木紗理奈。)
その望美は脳性マヒで寝たきり、話すこともできません。
美幸は夜もろくに寝ることができない娘の介護で、心のバランスが崩れかけています。

でもある時、自分が娘の病気のせいで不幸になったと思い込んでいたことに気づきます。
そんなことに囚われてはいけない・・・と思う美幸。
そこで、昔からの夢だった児童文学作家への道に進もうと決意。
美幸は少しずつ物語を書き始めます。

しかしまたそんな時に、故郷大分で暮らす65歳の母・喜子が、
認知症とうつ病を同時に発症したことが判明。
困り果てた父が美幸に助けを求めますが、
美幸は美幸で逆に助けがほしいという状況。

やむなく、ほんの少しでも母の気持ちが和むようにと、
母に向けて毎日1枚、自分の日常の面白い出来事に少しの絵を加えて
葉書を出し続けることにしたのです。

・・・と、これが実話をもとにしているというのにビックリ。
絵葉書は通算5000通にも及んだそうです・・・。

 

娘の脳性マヒのこと、母親の認知症とうつ病のこと。
それは変わらないのですが、美幸さんの心の持ち方だけで、
不幸のどん底という状況が変わってくるのですね。
しかも、まさか!母親の症状が・・・。
やはり笑いは心身の健康に効果がありそうです。

娘は生きているだけでキセキ。

望美がいなければ私たちは知らないことばかり。

望美は私たちの先生。

 

こうした気づきが、日々の生活に勇気を与えます。
そして、娘のことばかりに囚われずに、自分のやりたいことにもチャレンジ。
気持ちが負のドツボにはまらないことも大切。

ところで、ここの夫さんも育児には協力的なのですが、
なんと海外赴任が決まってしまい、家の状況からあきらめようとしたのですが、
美幸さんが夫の仕事のやりがいの為にあえて、行くようにと促したのです。

そしてまた、息子、勇希くんも、母が妹にばかり注目していることにいじけたりもせず、
実にしっかりと母を支えている。
これは間違いなく親の育て方が良かったんですよね・・・。
スバラシイ。

そして、勇希くんや美幸さんの思考がポジティブなのは、
関西人の力かも知れない、なんて思ったりして。

ユーモアにあふれた絵はがきは、
やはり関西の方ならではという気がします。

ステキです。

<Amazon prime videoにて>

「キセキの葉書」

2017年/日本/90分

監督:ジャッキー・ウー

原作:脇谷みどり

脚本:仁瀬由深

出演:鈴木紗理奈、八日市屋天満、福富慶士郎、申芳夫、赤座美代子

家族愛度★★★★☆

ポジティブ度★★★★★

満足度★★★★☆


「歌わないキビタキ 山庭の自然史」梨木香歩

2024年09月03日 | 本(エッセイ)

自然の営みと人のこと

 

 

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『西の魔女が死んだ』の著者による大好評の
サンデー毎日連載を中心に収録した書籍化第二弾。
山小屋暮らしや動植物との出会い、壮大な生命の連なりと営みに、
心ふるえるエッセイ集。

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梨木香歩さんのエッセイ集。


自然の営みに非常に関心の深い方なので、
本巻は著者の山小屋での生活などを絡めながら、自然の動植物のことにも触れています。

私も近所の山の公園を散歩して、ほとんど他の人は関心を示さないような
野草やキノコなどを観察するのが大好きなので、
梨木香歩さんの興味関心とは重なるところが多くて、
親しみの持てる内容となっています。

ご自身の病や、お母様の介護の話もあり、しかも調度コロナ禍の真っ最中の出来事。
ご本人にとってはなかなか大変な時期だったと思われますが、
そんな中で淡々と繰り返し流れ行く自然の営みが、
癒やしになっていたのではとご推察します。

 

中で、こんな話がありました。
著者はリスというのはすべてクルミをうまく真っ二つに割って食べると思っていたようなのですが、
そうではなくて、オニグルミのある地域のリスはそれができるけれども、
オニグルミがないところのリスはからを割ることができなくて、食べないというのです。

確かに、クルミがなければ割り方を学習することもなく、
結果、できないということになりますね。
でも、すべてのリスは本能的にそういうことができるはず、
と私も思い込んでいました。

ちなみにうちのご近所のエゾリスは立派にクルミを割って食べます。
かじっているのを見たことがありますし、
キレイに間二つに割れた殻が落ちているのを散見しますので・・・。
こうしたことも、リスにとっては「文化」なのかも知れません。

 

もう一つ。
著者が大阪行きの飛行機から見た地上にはっきりと「前方後円墳」が見えるのに、
感嘆してしまう、ということ。
でも、他の乗客は特別驚いているようではない。
確かに当たり前のことではあるけれど、
本当に地図と同じ形のものであることに感動し、嬉しくなってしまう・・・
という気持ち、私にも分ります。
実は私も、空の上からその前方後円墳を見たことがあって、
本当に地図と同じ形であることに驚き、
そしてこれを見たことがちょっと得をしたような気分になったことがあります・・・。
他の乗客の方々は、もう何度も見たことがあったのか
それとも、そもそも窓の外など見ていないのか、静かなものでしたが・・・。

 

同じく、著者が初めて北海道に来たときに、
函館上空から五稜郭がくっきりと地図と同じ形に見えて、感動したのだとか。
それが、河合隼雄さんと同行していた時、というのでピンと来たのですが、
それは多分、著者が「児童文学ファンタジー大賞」の授賞式出席のために
小樽に赴いたときのことではないでしょうか。
梨木香歩さんの「裏庭」が1995年第1回ファンタジー大賞を受賞しています。

なにかと、共通点の見えることが多くて、
勝手ながらご縁を感じてしまった次第。

<図書館蔵書にて>

「歌わないキビタキ 山庭の自然史」梨木香歩 毎日新聞出版

満足度★★★★☆


「ウェルカム・ホーム!」丸山正樹

2024年09月02日 | 本(その他)

特養老人ホームのあれこれ

 

 

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派遣切りに遭い、やむなく特養老人ホーム「まほろば園」で働く康介。
体に染みつく便臭にはまだ慣れない。
それに認知症の人や言葉が不明瞭な人相手の仕事は
毎日なぞなぞを出されているかのようだ。
けれど僅かなヒントからその謎が解けた時、康介は仕事が少し好きになり……。
介護する人される人、それぞれの声なき声を掬すくうあたたかな連作短編集。

 

 

丸山正樹さんの連作短編集。

特養老人ホーム「まほろば園」で働く介護士、康介のストーリーです。
2012年から2018年にかけて書かれたもの、ということで、
今私が知る著者の作品とは少しテイストが異なります。
ちょっぴりコメディタッチ。
でも、大切なことはしっかり描かれています。

 

きついばかりで給料はさして高くもなし。
せっかく得た仕事ではあるものの、
康介はきっとすぐにやめることになりそうだと自分でも感じていました。

ホームにいるのは、多くが認知症の老人で、
意思疎通もままならなくて、やりがいを感じられない・・・、
そう思っていたのです。

でも、仕事熱心な先輩に教えられることも多く、
そして次第にここの老人たちも、ただ何も分らないのではなくて、
感情があって、それぞれの事情を抱えながら、
ここのままならない状況に耐えているのだということが分ってきます。

 

このような施設の抱える問題点を挙げながら、
現場で働く人々の気持ち、またそこで暮らす老人たちの気持ち、
何もかもが切実に響いてきます。
私は元々お仕事小説が好きなのですが、本作はその中でもピカイチの一つだと思います。

「ウェルカム・ホーム!」丸山正樹 幻冬舎文庫

満足度★★★★☆