映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「きのうの神さま」 西川美和

2009年10月12日 | 本(その他)
きのうの神さま
西川 美和
ポプラ社

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第141回直木賞ノミネート作品にして、
西川監督のヒット作「ディア・ドクター」の原案となった作品集です。
この中には5つの短篇が収められています。
それぞれバラバラのストーリーで、
映画の「ディア・ドクター」のように一つの話しになっているわけではありません。
ただ、お医者さんが登場する作品が多く、
また、僻地医療に関わるものもあって、
なるほど、これらが収束して「ディア・ドクター」になるのだなあ・・・と、
納得させられます。

実際に、「ディア・ドクター」という題名のストーリーもあるのですが、
映画とは別物です。

でも、考えてみると、この本の中にニセ医者は登場しません。
これら短篇のモチーフをつなぎ合わせる時に、
ニセ医者の登場が必要となったのかもしれません。



私が一番気に入ったのは、やはりこの「ディア・ドクター」なのですが
少しご紹介しましょう。

語り手の「僕」は理工系の技術者。
お父さんがお医者さんです。
お父さんは出世やお金儲けよりも地道な医療という主義で、
僕から見ても医師として、とても尊敬できる存在。
でも、本当は僕以上にお父さんに憧れ心酔していたのは、お兄さんだったのです。

ところが、どうしてかこの父と兄は昔からそりが合わない。
医者を目指していたお兄さんは、
挫折し、家を飛び出したきりほとんど戻らない。
さて、ある日そのお父さんが病で倒れ、
「僕」は何年もあっていなかったお兄さんと対面することになる。
このお兄さんとお父さんのエピソードが、
かなりリアリティを持って迫ってきます。
お兄さんがあまりにも熱い思いを寄せるので、
お父さんはかえって疎ましくなってしまう。
それでまた、お兄さんとしてはお父さんに近寄りがたくなってしまう・・・。
家族の中でも、こんな複雑な感情が交錯して、
ギクシャクしてしまうというのは、ありがちなのではないでしょうか。
この「僕」の、さっぱりして人懐こい感じも結構よくて、
お気に入りの作品となりました。
でも、想像を膨らませると、この「兄」こそが僻地のニセ医者なのかも・・・。


著者は、僻地医療を題材にした映画をつくりたいという思いが先にあって、
まず取材をしたそうなのです。
それはもちろん映画の中にも生かされていますが、
そこで描ききれなかった分が、この本の中にちりばめられています。
僻地の医師も大変だけれども、
患者の方もともすると我がままになりがち。
最新の医療として、点滴や薬を控えようとしても、
患者の方が納得しない、というような問題点を挙げてみたり・・・。
映画を見た方はぜひこの本も読んでみるといいと思います。
双方で、より現在の僻地医療の有様が見えてきます。
また、この本がいいのは、
そのように問題点をえぐるだけではなくて、
結局は人のために尽くしたい、
そういう医療の原点に返っていくところなんですね。
個人的には、この本が直木賞でもよかったのに・・・と思います。


ところで、この本の題名「きのうの神さま」ですが、あれ?
そういう題名の短篇はないんです。
・・・とすれば何を指しているのか。
うーん、どこかの文中にあった言葉でしょうか。
・・・見落としたみたいです。
どなたか、わかりましたら教えてください・・・。

満足度★★★★★

カサブランカ

2009年10月11日 | 映画(か行)
カサブランカ [Blu-ray]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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君の瞳に乾杯

            * * * * * * * *

すごく有名な往年の名作ですが、観たことがない。
実はそういう作品はたくさんあります。
遅ればせながら、少しずつそういうものも観てみましょう、ということで。
モノクロ作品をブルーレイで観るというのも、おつな物です・・・。


カザブランカといえば、沢田研二のあの曲。
「カサブランカ・ダンディ」。
そのなかで、
「ボギー、ボギー、あんたの時代はよかった。男がピカピカのキザでいられた」
という歌詞があって、そこに興味があったんです。
ピカピカのキザって、どんなものか。
ぜひ拝見しましょう・・・。


この「カサブランカ」は、なんと1942年作品。
舞台が1940年、フランス領のモロッコ、カサブランカ。
第二次大戦中、まだドイツが勢力を広げているさなかに
こういう作品を作ったというのはちょっと驚きです。
つまり当時のまさに「現代」作だったんですね。
この頃、カサブランカはヨーロッパからナチス侵略を逃れ
アメリカへ渡る人の中継地だったんです。
ところがなかなか旅券申請の許可が下りないので、
そこでいつまでも足止めを食う各国の人が大勢留まっていた。
と、そんな背景があります。

アメリカ人リックは、バーのオーナー。
ある日そこへやってきたのは
反ナチス活動のリーダー的存在ラズロとその妻イルザ。
思いがけない出会いにハッとするリックとイルザ。
実はこの二人はかつて、パリで愛し合い、共にアメリカへ渡る約束をした仲。
しかし、その約束に、とうとうイルザは現れず、それっきりになっていました。
二人はかつての熱い思いをよみがえらせるけれども、
しかし、リックはかつての彼女の裏切りを許せない。
そしてまた目の前に男性連れで現れるとは・・・。
けれど、それにはやはりわけがあって・・・。
そんなことをするうちに、ラズロとイルザはドイツ兵に目をつけられ、
危険が迫る。

実はリックは無記名の旅券を2通持っており、
さて、では一体誰がこの二枚の旅券を使うのか。
そこが問題なわけです。
ラズロとイルザか。
リックとイルザか。
・・・そこがピカピカのキザな決断なんですね。
男はやせ我慢しても、かっこよく決める。
なるほど~~~。納得してしまいました。
この時代背景と切っても切れないストーリー。
しかし男のロマンは、時代を超えて健在。
「時の過ぎ行くままに」のメロディもいいし、
イングリッド・バーグマンの美しさときたら・・・。
(ハンフリー・ボガードはさほどハンサムとは思えないのですが)
こちらの美しさは時代を超えたホンモノですね。
女ながらうっとり。

いいものはやっぱりいいものなんですね。

1942年/アメリカ/103分
監督:マイケル・カーティス
出演:ハンブリー・ボガード、イングリッド・バーグマン、ポール・ヘンリード、クロード・レインズ

「グラーグ57 上・下」 トム・ロブ・スミス 

2009年10月10日 | 本(その他)
グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)
トム・ロブ スミス
新潮社

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グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)
トム・ロブ スミス
新潮社

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これは、このミステリがすごい!2009年版 海外編第一位となった
あの「チャイルド44」の続編です。
これは私もかなり楽しみまして、続編とくれば、すぐに飛びつきました。
あの過酷な運命を乗り越えたレオ・デミトフに、
また更なる試練が待っていようとは・・・。
作者もかなり意地悪ですねえ・・・。

この作品を読もうとする方は、
やはり先に、「チャイルド44」を読むことをオススメします。
主人公レオと妻のライーサの関係を、まずしっかり把握した方が楽しめます。
そして、養女ゾーイのことも。


このストーリーは旧ソビエトが舞台。
徹底した共産主義下では密告が横行。
何の罪もない人が反逆者として捕らえられ、拷問に掛けられて、
根も葉もないことを「告白」させられたあげく、
投獄されたり処刑されたり。
レオはもと秘密工作員で、体制に加担する側だったのですが、
前作中で次第にこの国家体制に疑問を抱くようになり、
ついには自ら反逆の行動をとるようになる。
・・・このようにいうと、ちょっと難しそうなのですが、
何のことはない、
徹底したアクションストーリーで、
手に汗を握るスリルたっぷりの苦難をレオとその妻が必死で乗り越えていく
という、多分に映画に向きそうなストーリーなのです。


さて、今作では、なんと、
レオが凍て付くシベリアへ向かうことになります。
シベリアといえばいわずと知れた政治犯などの流刑の地。
そこの第57強制労働収容所が即ち「グラーグ57」であります。
レオは罪人ではないのですが、
ある人物を救い出すため、あえて囚人に成り代わってシベリアへ潜入します。
しかし、そこには以前レオに捉えられて
シベリア流しとなってしまった人々も多くいます。
レオの正体はたちまちのうちにばれて、
怖ろしいリンチ・拷問をうけることに・・・。
相変わらず派手な脱出劇へ、息もつかない速さで突き進んでいきます。


しかし、その奮闘もまた次にはむなしい結果につながってゆくなど、
全く退屈することのないストーリー展開。
下巻では今度はハンガリー、ブダペストに舞台が移っていきます。
レオに安息の日々は帰ってくるのか・・・。

いやはや、まったく、レオの奮闘には頭がさがります。
家族への愛が芽生えたレオは、やはり無敵ですね!
これはやはり、映画でぜひ観てみたいです。
リドリー・スコット監督のもと、クランクインも間もないとのこと。
(「チャイルド44」の方ですが。)

満足度★★★★★

いま、会いにゆきます

2009年10月09日 | 映画(あ行)
いま、会いにゆきます スタンダード・エディション [DVD]

東宝

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何度出会っても、恋せずにいられない

          * * * * * * * *

あまりにも、泣きそうな感じだったので観ないでいたこの作品。
とうとう観てしまいました。

雨の季節に戻ってくると、自作の絵本に書き残して逝ってしまった、澪(みお)。
その言葉の通り、きっと戻ってくると
夫巧(たくみ)、6歳の息子佑司は信じていました。
澪が亡くなって一年経ったある雨の日、
二人は森で濡れそぼっている澪を見つけます。
ところが彼女は記憶を失っていて、
自分が誰かも、結婚していたことも覚えていません。
澪は初めてのまっさらな気持ちで巧と佑司に向き合い、
改めて家族の絆を結んでいきます。


まだ柔らかな瑞々しい緑と、静かな雨。
しっとりした背景が美しい。
死んだ人が戻ってきた。
・・・でも、これは全く幽霊譚ではありません。
怖さは全くない。
どういうことかというと・・・、
最後の方でやっとわかるのですが、
これはオカルトではなくて、
むしろSFだったんですね。
そしてファンタジーです。

たった6週間ばかり、戻ってきて何になるのか。
次の別れでまた悲しい思いをしなければならないというのに。
・・・そんな気がしていたのですが、
この6週間というのは巧と佑司のためにあったのではなくて、
むしろ澪自身のためにあったのだとわかります。
ラストに語られる澪からの視点の物語が、
意外性があって、しかも温かで、
う~ん、参ってしまいました。

ヒントは彼女の服装にありましたね。
切なくて、甘くて、温かで、上質の物語です。


同じ人物と、初恋のような瑞々しい気持ちを
二度もてるというのはいいですよね。
何度合っても、恋せずにいられない、運命の出会い・・・か。
いい年をしたおばさんも、
時にはセンチメンタルに、こういう世界に浸るのです。
素敵です。

しかし、彼らの周囲にはいい人ばかりですよね。
巧のお医者さん。
巧の同僚(ヒマそうな職場だったなあ・・・)。
佑司の学校の先生。
佑司のお友達の女の子。
こんな世界はあり得ない
・・・だからこそ、
これは大事に胸にしまっておきたいファンタジーなんだろうなあ。

こんな役柄を演じた男女なら、気持ちが接近しないはずはありませんよね・・・。
なるほど~~~。

2004年/日本/118分

監督:土井裕泰
原作:市川拓司
出演:竹内結子、中村獅童、武井証



いま、会いにゆきます



「プリズン・トリック」 遠藤武文

2009年10月07日 | 本(ミステリ)
プリズン・トリック
遠藤 武文
講談社

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本年度江戸川乱歩賞受賞作品。
本の帯に「乱歩賞史上最高のトリックだ。」とあるのにつられて、
購入したのですが・・・。
正直言ってこれは、わざわざ本にすべきものではないように思えてしまいました。


刑務所内での密室殺人。
始めは素晴らしくいいのです。
交通刑務所の日課を淡々と綴る。
このスケジュールがトリックに絡んでくるのだろうと予想される。
ちょっとした緊張感があります。
そして事件発生。
密室。
そして不可解な入れ替わり。
うん、十分に興味をそそります。
ここまではいい。


しか~し、謎を提示するだけなら誰でもできますよね。
それをいかに最後までひっぱって、
驚きかつ納得できる結末に導くのが腕のみせどころ。
ところが、このストーリーはその先があまりにもお粗末。
次から次へと視点となる人物が入れかわり、誰が誰やらわかりづらい。
しかも人物に魅力がなくて、感情移入すべきところがない。
それでもとにかく謎解きまでこぎつけなければ
・・・という一心で耐えて読みつづける。
なるほど、確かに解答はありましたが、なんだか感動がない。
読んでるうちに、どうでも良くなってきてしまっていました。
中盤以降は、いかにも締め切りに間に合わないので
適当に仕上げてしまったという感じ。


選考委員の評も巻末についていますが、
キズだらけ、穴だらけと、皆さん感じているようです。
にも関わらず受賞となったのは、著者の「志の高さ」だというのですが・・・。
少なくとも私はそのようには感じませんでした。
こんな本を出版するのは、
1600円も出してこの本を購入する者への裏切りではないでしょうか。

全く別の意味で、騙された・・・と感じてしまう作品でした。

満足度★☆☆☆☆

(本来ボツ特集モノですが・・・・・・。)

BALLAD ~名もなき恋のうた

2009年10月06日 | 映画(は行)
戦国お助け人

           * * * * * * * *

興味はあったのですが、まあ、後でDVDでもいいや・・・と思っていた作品。
でも、この日、スケジュール的に一番都合がよかったのでやっぱり観てしまったのです。
何しろこの作品のモトは、2002年公開の映画「クレヨンしんちゃん/嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」。
これを原案として作られた作品ですよね。
・・・そのように聞くと引いてしまう方は多いのかな・・・?
私はカムイ外伝も見ちゃうくらいなので気にはなりませんが・・・、
というか、この場合、そういう先入観で切り捨ててしまうのはちょっともったいない、という感じの感動作だったな。
そう、エンタテイメント性たっぷり、時代劇でなく、SFでなく・・・、むしろファンタジーでしょうかね。
感動にもいろいろありますが。
どれだけお金をかけたかとか、どれだけたっぷりCGをつかったか、
どんなに芸術性が高いか、どんなに泣けるか・・・。
まあ、観点はいろいろです。
でも私は何のために映画を見るのかといえば、やはり感動を得るためなんだな。
それは多少チープであっても、どーんと心のど真ん中に響くこともあって。
この作品はまさにそんな感じ。
あ、失礼、それほどチープというわけではありませんが。


さて、真一少年はある日、天正時代にタイムスリップしてしまうのです。
戦国時代。
そこは春日という小国。
そこのお姫様、廉姫や、この国一の武将又兵衛と出会います。
この二人は幼馴染で、実はひそかに思いを寄せているのだけれど、身分の差があって、言い出すことができない。
そんなときに、隣国の大名高虎が廉姫に横恋慕。
力に任せて、廉姫を嫁によこせと迫る。
それを拒んだ春日は、窮地に立たされるのですが・・・。
真一は現代の父母に向けて手紙を書きます。
それを届ける手段というのが、なるほど・・・と思いますね。
それで、なぜか両親も車ごとこの時代までタイムスリップしてしまう。
まあ、安直というなかれ。
だからこそ、話は面白くなるんで。


思い出すのは、「戦国自衛隊」。
でも、これは名もなき小国。武力も持たない、一市民。
まあ、行ってみれば戦国お助け人、くらいのところですね。
しかし、この時代背景にあって、自転車や自動車が走り回るミスマッチ、すごく楽しい。
携帯電話はさすがに電話としては使えないのですが、カメラとして活躍していました。
お父さん、お母さんが持ち込んだカレーに缶ビール。
いやはや、実際にこんなことがあったらなんて楽しいでしょう。
こういうのはアニメより実写の方がより面白みがあります。
春日の人々は実に素直に、真一たちの言うことを信じ、受け入れていました。
あの、お殿様がまたよくてね。
変に偉ぶらない、自由な心のお方・・・。
だからこそ、ああいうお姫様が育ったわけだ・・・。
まあ、いっそこれくらいの時代の人のほうが、
全く想像を超える「未来」を受け入れられるのかもしれないなあ・・・などと思います。
神さまや妖怪・・・今以上に、不思議なことが身の回りにみちていたのかもしれない。

さて、この映画の草なぎ君がまたいいですよね~。
腕は立つ。リーダー性もあり。
しかし、女に弱い!
・・・というかシャイなのだわ。こういうのは好きだなー。
そうそう、気に入ったのはね、
廉姫が野武士に襲われたところに駆けつけた又兵衛は、むちゃくちゃ強くて、
簡単に彼らを殺せたのにそれをしない。
それどころか、お金をあたえて、「これでやり直して、どこかに仕官しろ・・・」と。
ひゃー、なんて男気のある・・・。
かっこいいです。
それから、真一くんのお父さんが、筒井道隆でね。
これもいいんだなあ。この、ちょっとボーっとした感じ。
作品中、真一君がいみじくも言ってましたよ。
今も昔も、女の人のほうが強いんだね・・・って。
草なぎ君も筒井君も、そういう雰囲気だもんね。
でも、実はやるときはやる!
うん。そこがいい。


小さな木の芽が大木に育つまで・・・
そんなときの流れを一瞬に行き来できてしまう。やっぱり夢ですね。
何しろ、タイムスリップ話は大好きだし、
じれったい純情な男女の恋、少年の成長、家族の絆
・・・どれもツボにハマります。
・・・まあ、そんなわけで、結構楽しめてしまったのです。
今度はアニメのほうもぜひ見てみよう。
しかしいま、予約が殺到しているみたいで、なかなか順番が回ってこなさそうです・・・。


2009年/日本/132分
監督・脚本:山崎貴
出演:草なぎ剛、武井証、新垣結衣、夏川結衣、筒井道隆、大沢たかお、中村敦夫



[Trailer/予告] BALLAD ~名もなき恋のうた~ (9月5日公開)



日々の考え

2009年10月05日 | 本(エッセイ)
日々の考え (幻冬舎文庫)
よしもと ばなな
幻冬舎

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よしもとばななさんのエッセイです。
日常を飾りない言葉で描く本音と本気のエッセイ・・・。
飾りない? 
あ、表現がつつましすぎでした。
これでいいんですか?といいたくなるような、シモネタも入っちゃっています。
実にきどらないエッセイです。
特に彼女のお姉様のエピソードは壮絶。


この本が出たのが2003年。
「リトルモア」という冊子に連載されていた
それまでのエッセイをまとめたものなので、
一番初めの文章はそれからさらに前のものですね。
微妙にその頃の世間を感じる部分があって、面白い。


彼女は時に、妙な気配を感じることがあるようなのです。
例えば、ある空き地の横を通ると、妙に沈んだ気持ちになってしまう。
その後、その場所が殺人現場となった・・・。

友人と時折通じるテレパシーのようなもの・・・。

しかし彼女は、声高にスピリチュアルを解く人を、
胡散臭く危険と感じてもいるのです。
この辺の境界は何処?・・・と思いながら、
でも、私自身も、似たような判断基準を持って暮らしていることに気づきます。
身の回りのちょっとした、不思議なこと。
霊的なこと。
うん、そういうことってあると思う。
あるかも・・・。
だけど、それをウリにして、
テレビに出たり商売にしている人を私は信じられないんですよね。
こういう感覚は大事なんじゃないかと思います。


彼女の飼っていたカメさんのエピソードも楽しいし、
ボーイフレンドがいつの間にか旦那さんになっていて
(これ、別人だそうです!)、
妊娠までするという変遷も楽しい。

時には、こういう気の張らない本もいいですね。

満足度★★★☆☆

アウトロー

2009年10月04日 | クリント・イーストウッド
アウトロー 特別版 [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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家族を守る強い父親像

           * * * * * * * *

この作品は、危うく見逃すところだったんですが、イヤー、見てよかった。
監督クリント・イーストウッドを語る上では見逃してはならない作品でしたね。

西部劇なんですね。この時期の彼には久し振りの。
はい。アメリカ合衆国建国200周年記念映画として作られた作品だそうで・・・。
へえー。だってね、作品中、南軍の投降兵が
不承不承「合衆国に忠誠を誓う」と片手を上げたところに
北軍兵が銃を撃ち込んで皆殺し・・・なんていうシーンがありましたよねえ。
そんなシーンを入れちゃうっていうのがすごい。
部分的に観ればそういうところもあるんだけれど、
アメリカの歴史という大きな視点では納得できるというところなんですよ・・・。
痛ましい戦争もあったけれど、友愛もあって、この国はここまで来た・・・というような、ね。


まず、始めのところからショッキングですよね。
舞台は南北戦争末期。
ジョージー・ウェールズ(クリント・イーストウッド)は
開拓地の農民なんだけれども、
そこへ、北軍のゲリラ兵とでもいうのか、
ならず者みたいな奴らが乗り込んできて、彼の妻、息子が殺されてしまう。
復讐を誓うジョージーは南軍に加わり、腕を磨いてゆくけれども、
戦争は南軍の敗北。
彼が加わっていた部隊は、北軍への投降を決意するけれども、
ジョージーは当初の信念により、1人残るんですね。
彼はただ1人、お尋ね者として追われる身になってしまう。
そこから、孤独な彼の戦いが始まるのかと思いきや、
彼の道行きに、少しずつ道連れができていくんですね。
老インディアン、虐待されていたインディアンの娘、
開拓民のおばあさんとその孫娘、なぜか犬まで。
どんどん大所帯になっていく。
でもちっとも心強い仲間じゃありません。
むしろ足手まといというべきか。
けれど、ジョージーは一度失った家族を取り戻していくのですよ。


戦争は全てを打ち砕くけれども、
私たちは愛と信頼と勇気があればまた立ち上がることができる
・・・というようなメッセージ性がしっかりあって、
それまでの単なるヒーロー物語の西部劇とは一線を画しているんですね。
家族を守る強い父、というアメリカの理想とする父親像がありましたね。
かっこよくて、強くてやさしい・・・。
それも一見無関心を装うところがまた、なんとも言えないかっこよさでね。
そこが、イーストウッドの魅力なんですよ。
この新しい「家族」に安住する方法もあるのだけれど・・・、
でも、一度誓った復讐をやはりやめることはできない。
そういう孤独な決断のシーンも素敵でした。
でもこのあたりは、まだまだ、拳銃とイーストウッドは切っても切りはなせないですね。
そう、このジョージーはいつでも何丁も拳銃を身につけているよ。
それは過去のトラウマがあるからだね。
目の前で家族を殺されてしまったけれどなすすべがなかったという・・・。
また、大柄のイーストウッドには拳銃がすごく似合ってしまうというか、なじんじゃうんだよねえ。
「グラン・トリノ」の非武装までの道のりは遠いなあ・・・。


女優ソンドラ・ロックとの初共演作なんじゃないかな?
そう、ここでは変に弱弱しくもなく、かといって男勝りでもない。
ちょっと風変わりな雰囲気の女性を演じていますね。
興味を引きます。
そのせいかこの後、結構共演が続きますよね。
はい、その話はまた今度にしましょう。

1976年/アメリカ/137分
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ソンドラ・ロック、チーフ・ダン・ジョージ、
ビル・マッキニー、ジョン・バーノン

ココ・アヴァン・シャネル

2009年10月02日 | 映画(か行)
結婚しない人生から作り上げたもの

         * * * * * * * *

今度のシャネルは、オドレイ・トトゥ。
お国もとのフランス作品で、
衣装にはシャネルの協力ありということで、
一見こちらの方が華やかな印象はあります。

ドラマとしては、どうでしょう・・・。
う~ん、そう変らない気がしました。
エドモンド・シャルル・ルーという方の原作をもとにしていますね。
シャーリー・マクレーン版も、多分に参考にしているのではないかと思います。
そもそも、1人の人生、大きく違っていたら問題ですけれど。
シャーリー・マクレーン版のほうが、
老いたシャネル、失敗を乗り越えるシャネル、ということで、
「波乱万丈の人生を女1人で生き抜いた」感はあります。

・・・正直に白状すると、私はどっちもあまりのめりこめませんでした・・・。
別に、わざわざ劇場でなくても良かったなあ、なんて。
出来が悪いというのではなくて、
単にあまり私の興味が乗らなかった、ということだと思いますので、
お気になさらずに・・・。

まあでも、いろいろ思うところはありました。
20世紀初頭。
まだ女性が働いて自立するという概念が無いのですね。
女性の人生というのは、誰かと結婚する以外ほとんど選択の余地が無い。
それもできるだけお金持ちと結婚できればラッキー。
シャネルは、そういう生き方に逆らったというよりは、
乗り損ねたのかもしれません。
それで、仕事にのめりこむことになるのですが、
仕事に向く、着やすく動きやすい服を自ら作り出してゆく。
そういう服を着ることによって、
女性の意識がまた開放されていく。

つまりは、シャネルが女性の社会進出の
原因の一端を担っていたといえるのかもしれません。
彼女が幸せな結婚をしていたら、それはもっと後のことだったのかも・・・。
女性が馬にまたがって乗っただけで非難されるなんて・・・、
今ではとても考えられませんよね。
あのコルセットで締め付けるドレスは絶対1人では着られません。
レディーファーストなどと聞こえはいいですが、
あれは単に男性社会をいろどるお飾りへの憐憫でしかない。
今となってはそれもセクハラ?
今は女が人類史上最も生きやすい時代なのかも。
・・・その選択の幅の広さゆえに、また悩んでしまうところもあるのですが。

2009年/フランス/110分
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:オドレイ・トトゥ、ブノワ・ポールブールド、エマニュエル・デュボス、マリー・ジラン


『ココ・アヴァン・シャネル』予告編 Coco Avant Chanel JTrailer



『しがみつかない生き方/「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール』 香山リカ 

2009年10月01日 | 本(解説)
しがみつかない生き方―「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール (幻冬舎新書)
香山 リカ
幻冬舎

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いまさら説明するまでもなく、香山リカさんは精神科医であり、著作も多数。
テレビなどでも時々お見かけします。
この方の感覚はとても好きです。
この本では、「ふつうの幸せ」を手に入れるための心がけを説いています。

診察室にいると、そのふつうの幸せを手に入れるのが
とても難しいと感じるそうなんですね。
そのわけというのが、1980年代後半から2002年頃までと、
それ以降とでは異なるといいます。

1990年代。
客観的には十分幸せと思える人が、
「本当ならもっと幸せであるはず・・・」と悩んでいた。
あくなき成功、成長願望に取り付かれていた。

ところが2000年代になって増えてきたのは、
ふつうの幸せはとりあえず手にしているのだけれど、
「いつまでこれが続くのか、これで満足してよいのか・・・」
と自問しているうちに、何が幸せかわからなくなってしまう。
そんなタイプ。

そしてまた更に最近では、
そのとりあえずの幸せ、ふつうに働いてふつうに生活することすら
手に入らなくなっている、といいます。
ホームレス、ネットカフェ難民・・・、
本当にその通りですね。

彼女も認めるように、
そもそもこんな世の中になってしまったのは、
小泉政権時の構造改革、新自由主義などによる過激な競争主義のため。
誰も信用できない。
いったんレールから外れたらもうお終い・・・。
これではふつうの幸せも遠ざかる一方。
・・・ということで、
今、ようやく人々は平凡で穏やかに暮らせる
「ふつうの幸せ」こそ最大の幸福だと気づいたわけです。
だからこその自民党の敗北、民主党の勝利。
やはり転換期なのでしょう。
まあ社会の仕組みの方は、そちらに期待することにして、
この本では、まず私たちの気持ちの有様を変えて見よう、
ということで10の提言がなされています。

恋愛にすべてを捧げない
自慢・自己PRをしない
すぐに白黒決着つけない
老・病・死で落ち込まない
すぐに水に流さない
仕事に夢をもとめない
子どもにしがみつかない
お金にしがみつかない
生まれた意味を問わない
<勝間和代>を目指さない

詳しくはぜひ本をお読みください!
最後の、勝間和代・・・って、私は知らなかったのですが、
『成功の秘訣』みたいな本をバンバン出して売れている方だそうで・・・。
どんなに頑張っても、成功するのはほんのわずかな人で、
大抵はそこまでたどり着かずに挫折するし、
その競争にさえ参加できない人もいます。
そういう人たちをまるでないものとしてしまうのはどうなのか
・・・と香山さんは言っています。


仕事に夢を求めない・・・って言うのは、
私は実感として、その通りと思えるんです。
正直、事務の仕事なんて「夢」とは程遠いです。
まあ、だから私などは、生活のためと割り切って働き続けているわけですが、
でも、そんな中でも、長く続けていれば身につくノウハウもあり、
人から頼りにされたりもする・・・。
ちょっぴりですが、満足感もついてくるものなのですよ。
それでいいじゃないですか。
仕事というのは夢を実現することではなくて、人とつながること。
そう考えたほうがいいんじゃないか
・・・というのが、まあ自分としての実感なのですけれど。


今の若い人を見ていると、
あまりにも頑張りすぎることに、危惧を覚えてしまうことがあるんですね。
もっとゆっくりのんびりやりましょうよ。
頂点なんか目指さなくてもいいんですよ。
・・・最近の私の思いに、とてもしっくり来る香山さんの提案でした。

満足度★★★★☆