別れから出会いまで
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怪我でダンサーの道を諦めた照生(池松壮亮)。
タクシードライバーの葉(伊藤沙莉)。
この二人の出会いと別れを描きます。
ただし、順序が逆なのです。
照生の誕生日、7月26日。
毎年のこの日を遡りながら、描いていくストーリー。
すなわち、別れがあって、絶頂の幸福なときがあって、出会いがある。
映画の最初のシーンは、葉がふと立ち寄った劇場。
もう公演は終了して、後片付けも済んだようでほとんど人もいない。
照明も落とした薄暗いステージで、音楽もなくダンスをしている青年を見かけるのです。
それは、かつて彼女が愛して別れた恋人、照生でした。
実は、照生はもうダンサーは諦めて、舞台照明の仕事を始めたところなのでした。
まだ見習い中ですが。
こうしてみると照明というのも、そのタイミングとか合わせ方とか、大変そうですよね。
どんなステキな音楽も芝居も、これで台無しになることもありそう・・・。
まあ、そんなことでそれなりにやりがいも見出してはいるけれど、
でもやはりダンスのことは忘れられず、
人知れず、痛みのあるところがありつつも踊っている。
そんなシーンです。
さて、そういう所から時間を巻き戻していくわけです。
このとき2021年。
皆マスクをつけています。
そこから6年前まで、話は続きます。
気持ちが行き違うつらい別れのシーンがあって、そして不意に二人の絶頂の時が来ます。
互いを認め合い、求め合い、プロポーズも目前の二人。
無邪気に笑う2人の姿に、思わず泣きたくなってしまいます。
それは、その後に来る別れを私たちは知っているから。
順当な時に従う物語なら、こういうシーンで泣いたりはしませんよね。
この幸せなひとときがどんなに貴重なものなのか。
それを強調しています。
そしてまた、2人の出会いのシーンもなんとも初々しくてステキです。
そこはユーモラスでもありまして、いいなあ・・・と思える。
伊藤沙莉さんがなんといってもいいです。
ここは、美人女優とかアイドル女優ではダメなのです。
(あ、不美人と言っているみたい、スミマセン)
肩肘張らずしっかり自分で生きてる、ユーモアあふれて男に媚びない。
女から見てもこの人いいなあ・・・と思える存在。
彼女が登場すると、いかにも作り事のドラマが、
すっと現実味を帯びて身近なものになるような気がします。
だから、今は引っ張りだこなんですね。
さて、こうして出会いのシーンまで遡った後に、
きっと“今”の冒頭シーンに戻ってくるのだろう、という予想はその通りでした。
が、しかし・・・。
期待した終わり方にはなりませんでした・・・。
そこで本作の題名に改めて気づくわけなのです。
「ちょっと思い出しただけ」
くそ~、そういうことか。
でも、だからこそか、ずっと印象に残りそうな感じです。
毎年この日、公園で妻を待ち続ける男(永瀬正敏)も、
物語の良いアクセントになっていました。
<Amazon prime videoにて>
「ちょっと思い出しただけ」
2022年/日本/115分
監督・脚本:松井大悟
出演:池松壮亮、伊藤沙莉、河合優実、大関れいか、永瀬正敏、成田凌
出会いと別れ度★★★★★
満足度★★★★★
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