映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ちょっと思い出しただけ

2022年06月30日 | 映画(た行)

別れから出会いまで

* * * * * * * * * * * *

怪我でダンサーの道を諦めた照生(池松壮亮)。
タクシードライバーの葉(伊藤沙莉)。
この二人の出会いと別れを描きます。
ただし、順序が逆なのです。
照生の誕生日、7月26日。
毎年のこの日を遡りながら、描いていくストーリー。
すなわち、別れがあって、絶頂の幸福なときがあって、出会いがある。

 

映画の最初のシーンは、葉がふと立ち寄った劇場。
もう公演は終了して、後片付けも済んだようでほとんど人もいない。
照明も落とした薄暗いステージで、音楽もなくダンスをしている青年を見かけるのです。
それは、かつて彼女が愛して別れた恋人、照生でした。

実は、照生はもうダンサーは諦めて、舞台照明の仕事を始めたところなのでした。
まだ見習い中ですが。
こうしてみると照明というのも、そのタイミングとか合わせ方とか、大変そうですよね。
どんなステキな音楽も芝居も、これで台無しになることもありそう・・・。
まあ、そんなことでそれなりにやりがいも見出してはいるけれど、
でもやはりダンスのことは忘れられず、
人知れず、痛みのあるところがありつつも踊っている。
そんなシーンです。

さて、そういう所から時間を巻き戻していくわけです。
このとき2021年。
皆マスクをつけています。
そこから6年前まで、話は続きます。

気持ちが行き違うつらい別れのシーンがあって、そして不意に二人の絶頂の時が来ます。
互いを認め合い、求め合い、プロポーズも目前の二人。
無邪気に笑う2人の姿に、思わず泣きたくなってしまいます。
それは、その後に来る別れを私たちは知っているから。

順当な時に従う物語なら、こういうシーンで泣いたりはしませんよね。
この幸せなひとときがどんなに貴重なものなのか。
それを強調しています。

そしてまた、2人の出会いのシーンもなんとも初々しくてステキです。
そこはユーモラスでもありまして、いいなあ・・・と思える。

 

伊藤沙莉さんがなんといってもいいです。
ここは、美人女優とかアイドル女優ではダメなのです。
(あ、不美人と言っているみたい、スミマセン)
肩肘張らずしっかり自分で生きてる、ユーモアあふれて男に媚びない。
女から見てもこの人いいなあ・・・と思える存在。
彼女が登場すると、いかにも作り事のドラマが、
すっと現実味を帯びて身近なものになるような気がします。
だから、今は引っ張りだこなんですね。

さて、こうして出会いのシーンまで遡った後に、
きっと“今”の冒頭シーンに戻ってくるのだろう、という予想はその通りでした。

が、しかし・・・。
期待した終わり方にはなりませんでした・・・。
そこで本作の題名に改めて気づくわけなのです。
「ちょっと思い出しただけ」
くそ~、そういうことか。

 

でも、だからこそか、ずっと印象に残りそうな感じです。

毎年この日、公園で妻を待ち続ける男(永瀬正敏)も、
物語の良いアクセントになっていました。

 

<Amazon prime videoにて>

「ちょっと思い出しただけ」

2022年/日本/115分

監督・脚本:松井大悟

出演:池松壮亮、伊藤沙莉、河合優実、大関れいか、永瀬正敏、成田凌

 

出会いと別れ度★★★★★

満足度★★★★★

 



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