夫婦の形はいろいろ
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ときは文政、ところは江戸。
武家の娘・志乃は、歌舞伎を知らないままに役者のもとへ嫁ぐ。
夫となった喜多村燕弥は、江戸三座のひとつ、森田座で評判の女形。
家でも女としてふるまう、女よりも美しい燕弥を前に、
志乃は尻を落ち着ける場所がわからない。
私はなぜこの人に求められたのか――。
芝居にすべてを注ぐ燕弥の隣で、志乃はわが身の、そして燕弥との生き方に思いをめぐらす。
女房とは、女とは、己とはいったい何なのか。
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本作の題名、「おんなの女房」は、ちょっとどういうこと?と思ってしまいました。
これはつまり、歌舞伎の女形の女房、と言う意味なのでした。
武家の娘である志乃は、父親に命ぜられるがままに、
歌舞伎の女形、燕弥のもとに嫁ぎます。
志乃は、武家の女の作法をびっしりと仕込まれており、
父親の命に従うのは当然と思い、何の疑問も持たずに嫁に来ます。
歌舞伎のことはもちろん、庶民の暮らし向きのことも何も知りません。
夫の仕事の場に顔を出したりするのは、はしたないと思っているので、
夫の出ている舞台を見に行こうともしない。
役になりきるために、普段からも女の姿でいる夫。
だからなのか、妻である自分の体を求めることもない。
自分よりも美しく女らしい夫はなぜ自分と結婚したのか。
自分は何のためにここにいるのか・・・。
序盤で、燕弥がなぜ志乃を嫁にとったのかと言う直接的な理由は明らかにされます。
通常は、それは屈辱的で、失望を呼ぶことだと思うのですが、
しかし志乃は逆にここでは安堵。
ともかく自分の存在意義が確かめられたのならそれでいい。
自分はその役に徹しようと、そう思うのです。
なかなか通常の夫婦としては考えられない関係になっていきます。
しかし、そんな中でも互いの気持ちは通じ合い絆が生まれていく過程が、
丁寧に描かれています。
そしてその結末もなんとも意外なものでした。
読み応えアリ、です。
<図書館蔵書にて>
「おんなの女房」蝉谷めぐ実 角川書店
満足度★★★.5
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