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「妻が椎茸だったころ」中島京子

2017年09月10日 | 本(その他)
私が栗だったころ

妻が椎茸だったころ (講談社文庫)
中島 京子
講談社


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亡き妻のレシピ帖に「私は椎茸だった」という
謎のメモを見つけた泰平は、料理教室へ。
不在という存在をユーモラスに綴る表題作のほか、
叔母の家に突如あらわれ、家族のように振る舞う男が語る
「ハクビシンを飼う」など。
日常の片隅に起こる「ちょっと怖くて愛おしい」五つの「偏愛」短編集。
泉鏡花賞受賞作。


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「妻が椎茸だったころ」、
この不可思議な題名に惹かれて手に取ってみました。
中島京子さんの短編集で、表題作。
泰平の定年直後、妻が急逝してしまいます。
呆然とする彼は、これまで台所に立ったこともない。
ふと見つけた妻のレシピ帳に
「もし、私が過去にタイムスリップして、どこかの時代にいけるなら、
私は私が椎茸だったころに戻りたいと思う」
という一文を見つけます。
妻は椎茸だった・・・? 
困惑する泰平。


さらに、妻が予約してあったからということで、
いやいや行った料理教室の先生にそのことを言うと
「人はだれでもそうです。料理とはそういうものです。」
と笑う。


別に不条理小説ではないのですけれど、
日々、色々な食材にふれ料理をするうちに、
いつしか芽生える素材への愛。
命をつなぐものへのリスペクト・・・。
そしてまたこれまで妻が何を考えていたのか
考えたこともなかったことに思い至り
今更に、妻のナゾに思いを馳せる・・・。


泰平は、次第に料理を家でもするようになって、
「自分が椎茸だったころのことを思い出すことができる」
ようになるのです。


キノコ愛ではヒトに負けない私も、
椎茸は特に美しいと思う。
丸っこくて可愛くて、
しかもキノコって一つよりもいくつか寄り添っているところがまた
一段と心惹かれます。
私も、もしタイムスリップできるなら椎茸だったころに行くことにしようかしらん。
でも私、実は「栗」だったことがあるような気がしてなりません・・・。


冒頭に幼児に野菜の名前を教えていると思しきシーンがあります。
たまごを「たがも」。
しいたけを「しいたこ」。
可愛らしいなあ・・・。
うちの娘が幼い頃、たまねぎを「たまげに」と言っていたのを思い出しました。



その他、食虫植物を愛好するちょっと怖い話「ラフレシアナ」、
亡くなった叔母が住んでいた古い家を訪れたときの不思議な話「ハクビシンを飼う」など、
どれも心惹かれる作品です。

「妻が椎茸だったころ」中島京子 講談社文庫
満足度★★★★☆



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