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アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場

2017年01月22日 | 映画(あ行)
一人の少女か、80人の一般人か



* * * * * * * * * *

戦地から遠く離れた会議室で、
ドローン映像により繰り広げられる「戦争」を描きます。
以前「ドローン・オブ・ウォー」という作品で、
少し前ならSFとしか思えないドローンによる空爆のストーリーを見ました。
自分は安全な場所にいて、相手を攻撃すること。
そうしたことによる操縦士のPTSDがテーマでした。



さて、本作は・・・
大規模な自爆テロ計画を、今、正に実行しようとしている集団がナイロビにいる。
パウエル大佐(ヘレン・ミレン)はこれまでの長く地道な活動により、
そのことを突き止めたのでした。
そこで彼らの動向をドローンで監視しつつ、英米合同軍事作戦が始められます。
この、ロンドンの司令部、
米ネバダ州の空軍基地(ドローンの操作室)、
そしてナイロビの現地工作員、
それぞれの場で同じ画像を確認しながら、作戦を進めるのです。



ある家で、自爆テロの準備が行われているのを映像により確認。
先日見た「ある戦争」では、敵を視認しないままに攻撃したことが後に問題とされたのですが、
ここでは、抜かりなくキッチリと人物確認していました。
「おそらく・・・だろう」、ということではダメなのです。
むしろそこが一番肝心な処。
こういうところを見ると、やはり「ある戦争」の判断は甘すぎたのだ、
と言わざるをえないのかもしれません。


さて、犯人の確認もついて、いよいよその家の空爆を行おうとした寸前、
その家のすぐ裏手に一人の少女がやってきてパンを売り始めます。

空爆を実行すれば、少女は間違いなく命を落とすか重症を負うだろう・・・。
そうしたことのパーセンテージを計算する手段さえ彼らは持っている、
というのもすごいですね。
さて、だからといって、このまま空爆を中止し、自爆テロが実行されてしまえば、
おそらく80人あまりの死傷者が出ることは確実。
少女一人のために、80人を犠牲にするのか・・・?
司令室はジレンマに陥ってしまいます。
概ね軍人は実行を、政治家は中止を
のぞんでいるように思えましたが、
みな判断を別の人に任せようとするばかりで
最後の決断を下そうとしない。
無邪気にパンを売る少女と、焦りまくる英米のお偉方の対比。
・・・滑稽といえば滑稽ですが、
本当に、正解はどこにもありそうにない・・・。



本作は、観客に少女への思い入れを作るために、
当初からこの少女の生活を少し描き出しているのです。
自転車屋さんを営んでいるお父さんが、彼女にフラフープを作ってあげて、
無邪気にフープであそんでいる少女。
それをたまたま、ドローンの操縦士がズームして目にしていて、
しばしその光景に和んだりしているわけです。
これはもう、空爆なんかできないですよね・・・。
でも、話はそう甘くはない・・・。



本作ではドローンのみならず、鳥や虫に偽装したカメラも登場して、
驚かされます。
ドローンでは覗くことができない、室内までもを盗撮する事ができるのです。
ただし、操縦はスマホで至近距離でなくてはできないので、
現地工作員が近くから操縦します。
そのあたりは兵が偵察をしていて、
うかつにウロウロしていればすぐに怪しまれて捕まってしまう。
そこで彼はポリバケツ売りのフリをするわけですが・・・。
それこそ会議室にいる人たちの勝手な要望に振り回される彼が、
ちょっと気の毒なようにも思えてきます。
スマホに夢中な彼に、近所の少年が、「ゲームしてるの?、僕にもやらせて」
なんて言ってくるところがまた。
下っ端の四苦八苦がちょっぴりユーモラスでもあるところ。



最後に、ある女性が
「自分は安全なところにいて、こんなこと(空爆)をするなんて・・・」
と、軍のやり方を非難します。
中将であるアラン・リックマンはいう。
「自分は自爆テロの現場処理をいくつもしてその様子を知っている。
安全なところにいる、なんて言わせない。」
まあ、これも一つの答えではありましょう。
でも、正解ではない。


本作、2016年1月に他界したアラン・リックマン追悼の意味も含んでいるようです。
彼の低く響く声が好きでした・・・・。

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」
2015年/イギリス/102分
監督:ギャビン・フッド
出演:ヘレン・ミレン、アラン・リックマン、アーロン・ポール、バーカッド・アブディ、ジェレミー・ノーサン

科学技術度★★★★☆
安全な戦場度★★★★★
満足度★★★★★



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