東京バンドワゴン (集英社文庫)小路 幸也集英社このアイテムの詳細を見る |
この本はまさに、ホームドラマですね。
舞台は東京下町の古本屋「東京バンドワゴン」。
この家はなんと8人の大家族。
泣いたり笑ったり、にぎやかにいろいろなドラマが展開しますよ。
特異なのはこのドラマの語り手が、今は亡きこの家のおかみさん。
明治から続くこの店の三代目店主、勘一の奥様のサチさんです。
残念ながら2年前に亡くなっているのですが、
なぜかこの家に残ったまま、皆を見守っている。
つまり、幽霊なんですが、全然怖くありません。
家族の中にはサチの気配を感じるものもいるのですが、
むしろうれしく思っているみたいですね。
そのサチさんの語りは、穏やかでやさしく、
またそれがこの本のいい味を深めているわけです。
さて、この二人の1人息子が伝説のロッカー我南人(がなと)。
60歳の今もやはりロック魂は健在で、
「LOVEだねえ・・・」が口癖。
この風来坊の父親の下に娘、息子、孫などがいまして、総勢8名。
しかし、それにとどまらず、
ご近所の人や書店のおなじみさん、
いろいろな人が出入りして、まことに賑やかなのですが、
皆さん個性豊かで、
誰が誰やらわからなくなったりもせず、とても楽しく読めてしまいます。
そして、これがまた、単に人情話というだけでなく、
日常の謎、ミステリ要素もたっぷり。
例えば、一話目、「春/百科事典はなぜ消える」。
朝、店になぜか見たことのない百科事典が置かれていて、
夕方にはまたなくなってしまう。
そんなことが、毎日起こります。
一体誰が、何のために???
この「犯人」は、ある女の子だったのですが、
その理由を聞くと、やや事件のにおいが・・・。
しかしまた、更に話が進み、意外な展開を見せます。
謎が謎を呼ぶ、この展開も魅力的。
一冊でいろいろな要素の楽しみ方ができてしまいまして、お得な一冊です。
さて、なんだか大家族がうらやましくなってしまいます。
この家族の食事のシーンが本当に賑やかで楽しいんですよ。
核家族化の著しい昨今、こういう家はめずらしいですしね。
特に食事は皆でわいわいいいながら楽しく食べるのがいい。
この本は続編もあるので、すぐに読みたいと思います!
満足度★★★★★