映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ワイルドライフ

2020年08月13日 | 映画(わ行)

ダメダメな親を見つめる少年

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1960年代、モンタナ州の田舎町。
14歳の少年ジョー(エド・オクセンボールド)は
仲の良い両親ジェリー(ジェイク・ギレンホール)とジャネット(キャリー・マリガン)のもと、
慎ましくも幸せに生活していました。

ところがある日、ジェリーがゴルフ場の仕事をクビになり、両親の様相が変わってきます。
父ジェリーはなかなか新しい仕事が見つからず、山火事をくい止める危険な仕事、
ただしほとんどボランティアのため、家を出て行ってしまいます。
生活のため、母も仕事を始め、ジョーも写真屋でバイトをはじめます。
ところが母は、次第に変わっていく・・・。

ジョーという多感な少年の目が、静かに父と母を見つめます。

仕事をなくし、見栄で簡単な仕事には就こうとしない父。
そんなことから逃げるように、妻も息子もほっぽり出して「ヒーロー的な」仕事に出かけてしまった父。

全く頼りにならずダメな夫に絶望し、
妻・母としての立場をあっさり脱ぎ捨てて、「女」になってしまった母。

ジョーはダメな父と母に対して非難めいた言葉は発しません。
自分とは違い、「大人」だと思っていた両親が、全くそうではないということを、
ただ物静かに見つめて、悲しく理解していくのです。
その間、彼は自分でバイトを探し、写真の仕事の腕を上げていく。
本作で一番大人なのは彼なのかもしれません。
というか、ダメな両親のおかげで彼は成長した。

ジョーが両親に対してたった一言非難めいたことを言ったとすれば
「これからうちはどうなるの?」という終盤のシーン。

本作、夫婦のゴタゴタを描くだけなら何と言うことのない作品と思うのですが、
あくまでも少年の心に寄り添って描かれたところが素晴らしいのです。

ダメダメな親2人、キャリー・マリガンとジェイク・ギレンホールも良かった。

 

「ワイルドライフ」

2018年/アメリカ/105分

監督:ポール・ダノ

原作:リチャード・フォード

出演:キャリー・マリガン、ジェイク・ギレンホール、エド・オクセンボールド、ビル・キャンプ

ダメ親度★★★★☆

多感な少年度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

2019年09月05日 | 映画(わ行)

シャロン・テートについての予習を怠るべからず!

* * * * * * * * * *

私はたいてい映画を見る前には、その映画の内容について、
簡単なあらすじ程度しか確認しません。
でも本作については、もう少し予習をすべきだったと深く思います。

というのも本作、1969年に起こったある事件が下敷きとなっているのです。
当時の時代の寵児ロマン・ポランスキー監督の妻であり新進女優であった
シャロン・テートがカルト集団により惨殺されたという事件。
しかも当時妊娠中でした・・・。
それはしっかり私も生きていた時代でしたが、
まだ映画ファンになるような年齢でもなく、その事件のことは知りませんでした。
けれど、これからこの作品を見る方は、ぜひこのことを心に留めて見ていただきたい。
そうすると、本作の満足度がアップすること間違いありません。

さて本作のストーリーといえば、
主人公は、テレビ俳優としての人気のピークを過ぎて、やや落ち目・・・、
今度は映画スターへ転身を目指しているリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、
その専属スタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)、二人のコンビです。

リックは自信を失っていて、将来への不安を拭い去る事ができません。
一方、リックの仕事がうまく行かなければ当然自分の暮らしも成り立たなくなるはずのクリフは、
そんなことに頓着せず、常に自分らしく楽天的。
リックはプール付きの豪邸に住んでいます。
リックの送り迎えの運転もするクリフは、トレーラーハウス住まい。
そんな二人だけれど、妙にウマが合うのです。
60年代のハリウッド事情、風俗、流行の曲や、車、もちろんファッション、
全てが再現されていて素晴らしい! 
車のことなどよくわからない私ではありますが、
道路を走る車が、主人公の乗っている車はもちろんのこと、
多く行き交う車も全て当時のモデル、というのがなんともすごい・・・
と、感動してしまいました。



リックは結局、イタリアのマカロニウエスタン作品に出演することになるのです。
そんなこんなで、二人の日々が綴られるのと交互に、
リックの隣人、ポランスキー夫妻のエピソードがまじります。



シャロン・テート(マーゴット・ロビー)が自らヒロインとして出演した映画を、
劇場で実に楽しそうに見るシーンがすごく可愛らしい♡ 
しかしそもそもシャロン・テートをよく知らない私は、このシーンがなんのためにあるのか、
特にリックとクリフとも関連がなさそうなこの隣人たちのエピソードが
何を意味するのか?・・・と訝ってしまったのです。
シャロン・テートのことを知っていれば、とても興味深いシーンの数々だったはずなのですが。



結局本作は、タランティーノ監督の60年代への懐古と、
そして監督のある願いとか、祈りとか、夢、そういうものなのではないかと思う次第。



実のところ私、映画を見た直後は、
面白くなくはないけどなんだか腑に落ちない感じでいっぱいだったのですが、
後にシャロン・テートの事件のことを知って、すごく納得してしまいました。
2大俳優の起用も納得。
素敵な作品なのでした!・・・と、噛みしめるように思う。

 

<シネマフロンティアにて>
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」
2019年/アメリカ/161分
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、ダコタ・ファニング、アル・パチーノ
時代再現度★★★★★
満足度★★★★.5


ワンダー 君は太陽

2018年06月29日 | 映画(わ行)

「正しいことと優しいことの間で迷ったら優しさを選べ」

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10歳の少年オギー(ジェイコブ・トレンブレイ)生まれつきの障害により、
人とは違う顔をしています。
幼い頃からずっと母イザベルと自宅学習をしてきたのですが、
小学5年になって、初めて学校へ通うことにしたのです。
はじめての学校で、オギーは人からジロジロ見られたり、避けられたり、
話しかけられることもなく、あからさまにイジメをするものもいます。

それでもある日、オギーは自分の機転のきいた行動から友人ができます。
そして次第に周囲の人々が変化してゆく・・・。

初めの方で、初めてオギーを学校に送り出す両親の、
いかにも心配でたまらない様子が描かれていますが、
全く、見ている私まで心配で居ても立ってもいられない気にさせられました。
それでも、一生彼を家の中のぬくぬくした環境に閉じ込めておく訳にはいかない。
どこかで勇気を持って外に一歩踏み出さなくては。
そしてそれは本人が自分でやり遂げなくてはならないこと・・・。
親というのは辛いですね。
見守ることしかできない・・・。



オギーは人から顔を見られるのが嫌で、ヘルメットを外して歩く事がなかなかできません。
そんな彼が、幾度も傷つき、孤独に絶えながらも次第に自分の世界を広げ、
彼のことを理解してくれる友人もできてゆく。
彼のことを大切に思い支える人がいるから、強くなれる。
なんとも胸が熱くなります。

しかしこれは、そういうオギーの成長を描くだけの物語ではないのです。
ときには彼の周りの人々、姉のヴィアや友人ジャックの視点からも描かれていて、
そして彼らがオギーと接することによってまた成長していくさまが描かれているのです。



姉のヴィアは、弟オギーが大好きだし、大事に思っています。
けれど、父母が常にオギーのことを最優先し、
ヴィアのことは二の次にしてしまうことを寂しくも思っている。
その本心は決して口に出したことはなかったけれど。
結果、「手のかからない子」で引っ込み思案なヴィア。
この物語はこうした視点でも描かれているところが秀逸ですね。
彼女はまた彼女の力で成長の手がかりを掴んでいきます。


「正しいことと優しいことの間で迷ったら優しさを選べ」という言葉が作中に出てくるのですが、
まさしくそのとおり。
誰もが人に優しければ、世の中はもっと住みやすくなりそうですね・・・。
つい、涙・涙・・・の作品でした。

オギー役のジェイコブ・トレンブレイくんは、あの「ルーム」の少年でしたか。
この次はしっかり素顔で拝見したいです。


<シネマフロンティアにて>
「ワンダー 君は太陽」
2017年/アメリカ/113分
監督:スティーブン・チョボウスキー
出演:ジュリア・ロバーツ、ジェイコブ・トレンブレイ、オーウェン・ウィルソン、マンディ・パティンキン、ノア・ジュプ、イザベラ・ビドビッチ
親の愛度★★★★★
試練度★★★★☆
満足度★★★★★


ワンダーストラック

2018年04月25日 | 映画(わ行)

シンクロする二人の冒険

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2つの時代の少年少女の話が、同時進行していく物語です。
まずは1977年。ミネソタ。
母を事故で亡くした少年ベン(オークス・フェグリー)は、
母の遺品の中から会ったことのない父に関する手がかりを見つけます。
そしてそこから50年前、1927年のニュージャージー。
聴覚障害のある少女ローズ(ミリセント・シモンズ)は厳格な父親に馴染めず、
女優リリアン・メイヒューの記事を集めてスクラップするのを楽しみにしています。
孤独な2人はそれぞれニューヨークを目指して家出を決行。
2人の目指すものは見つかるのでしょうか?

1927年のローズのパーツはモノクロのサイレント。
実はローズが好きなリリアン・メイヒューの映画もサイレント映画なのです。
セリフは字幕が入る。
ニューヨークにたどり着いたローズは近々「トーキー」という、声の入った映画ができる
というポスターを見て、ちょっとがっかりした顔をします。
耳の不自由な彼女にとっては、トーキーよりもサイレント映画のほうが良かった・・・。
そんなちょっとしたシーンにも心憎いばかりの演出がなかなかです。



ニューヨークを訪れた二人の行く先は自然史博物館。
50年の時を隔てながら、シンクロするかのように、
それぞれ心細さとワクワク感、双方をいだきながらニューヨークの雑踏の中を歩いていく。

しかもどちらも聴覚障害ということで、まさしく見ているこちらまで、ドキドキさせられます。
そしてこの2人は必ずどこかでめぐりあうはずとは思いながらも、
50年のときは乗り越え難く、全く先が読めません。
一気にタイムワープしてしまうようなファンタジーではなかったんですね! 
でもそこがまたいいのですよ・・・。
そんな方法ではなく、もっと納得の行く驚きの結末に、歓びがこみ上げます。



この博物館は「ナイトミュージアム」の映画でもおなじみですが、
「時」の流れを感じるのに、最高の舞台でもあるわけですね。
全く別々の少年少女の物語が、やがて家族の物語として集結してゆく。
なんてステキな物語なのでしょう!! 
オススメです。



<シアターキノにて>
「ワンダーストラック」
2017年/アメリカ/117分
監督:ドット・ヘインズ
出演:オークス・フェグリ―、ミリセント・シモンズ、ジュリアン・ムーア、ジェイデン・マイケル、コリー・マイケル・スミス、ミシェル・ウィリアムズ
冒険度★★★★☆
物語の収束度★★★★★
満足度★★★★★


われらが背きし者

2017年07月06日 | 映画(わ行)
飛んで火に入る夏の虫・・・



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英国人、大学教授のペリー(ユアン・マクレガー)と妻ゲイル(ナオミ・ハリス)は、
モロッコでの休暇中、
ロシアン・マフィアのディマ(ステラン・スカルスガルド)と知り合います。
ディマは国際的なマネーロンダリングに関係し、
彼のみならず家族の危機にさらされています。
そこで彼は、重要な情報の入ったUSBメモリをペリーに託し
MI6に渡すよう依頼しようと思い、ペリーに近づいたのです。
交換条件として、ディマと家族の安全を保証することとして・・・。
そんなことに巻き込まれるのはゴメンだとペリーは思うのですが、
彼の家族、妻や子どもたちの命がかかっていると言われると、
断ることができません。
ペリーを引き止めていた妻も、ついに同意してしまいます。
MI6のヘクター(ダミアン・ルイス)は、この取引に乗り気で、
ロシアン・マフィアと英国政治家との癒着をなんとか暴こうとするのですが、
上司の許可が降りず、独断でことを進めようとしますが・・・。



まず冒頭、モスクワで、ある一家が全員惨殺されてしまうシーンから始まります。
そしてモロッコ。
一体どういう話しなのかとドギマギしてしまうのですが、
冒頭で殺されたのはディマの知人一家。
それで、ディマは次は自分の番だと悟るのです。
私たちもディマの動きには本当に家族の命がかかっているのだと、
恐れおののき納得させられます。
そのためには必要不可欠なインパクトのあるオープニングというわけでした。



レストランでいきなり親しげに話しかけてくるディマはいかにも怪しげで、
ペリーもかかわらないほうがいいのに・・・と、見ている私たちは思うのですが、
飛んで火に入る夏の虫とでもいいましょうか、
あえて危ない方へ行ってしまうということもときにはあるものですね。



さて本作の題名「背きしもの」は、
つまり組織に背き、情報を売り渡そうとするディマのことと思われますが、
でも、登場人物それぞれのことでもあるようなのです。



ペリーはこの時妻とうまく行かなくなっていたのですが、
どうも彼の浮気がもとであるらしい。
つまり、妻に背いたわけです。

そして、MI6のヘクターもまた、
上司、つまりは組織に背いてことを進めようとしている。



そんな彼らをつなぎとめるものは「信義」です。
正しいと思うことを貫くためには
多少の危険にも躊躇なく足を踏み入れる。
そしてそれができるのは互いを信じるからこそ。
ディマは確かに悪事に手を染めていた人物ではありますが、
彼が家族を思う心はホンモノだろうと、ペリーは信じたのですね。
プロではない一般人のペリーを主役としたことで、
感情移入しやすく、とても面白く拝見しました。



われらが背きし者 [DVD]
ユアン・マクレガー,ステラン・スカルスガルド,ダミアン・ルイス,ナオミ・ハリス
Happinet


「われらが背きし者」
2016年/イギリス/109分
監督:スザンナ・ホワイト
原作:ジョン・ル・カレ
出演:ユアン・マクレガー、ステラン・スカルスガルド、ダミアン・ルイス、ナオミ・ハリス、ジェレミー・ノーサム

サスペンス度★★★★☆
信義度★★★★☆
満足度★★★★☆

わたしは、ダニエル・ブレイク

2017年03月27日 | 映画(わ行)
心が失われた制度



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イギリス北東部、ニューカッスル。
ダニエル・ブレイクは大工ですが、心臓病を患い、
医者から仕事を止められています。
そのため、国から給付を受けようとするのですが、
理不尽で複雑な制度でうまく手続きが取れず、窮地に立たされます。

そんなときに彼はシングルマザーのケイティと知り合います。
彼女もまた孤立無援で二人の子どもを育て、生活するのに大変な思いをしているのです。
ダニエルは何かと彼女を気遣い援助するようになりますが・・・。



お役所仕事のあまりにも紋切り型で血の通わない対応に、
見ていても腹が立って仕方がありませんでした。
パソコンの扱い方もわからないダニエルに、
申請はネットからでなければダメなどという。
病気のための給付が受けられないのなら
(そもそも医者から仕事を止められているというのに)、
求職活動をすれば失業給付が受けられるという。
つまり職を探しているというポーズだけでいいのですが、
正直なダニエルは本気で職を探し、
採用したいと言われて断らなければならなくなったりもする・・・。



イギリスだから、というわけではないですよね。
おそらく日本も制度は同じようなもの・・・。
これまで実直に仕事をし、税金を納めてきたのに、この仕打ちは何だ!!
けれどもダニエルにできる精一杯の抵抗は、
人を殴ったりすることではなくて
役所の壁にペンキで大きく抗議文を書くことだけ。
それも、夜中にこっそりではありませんよ。
白昼堂々、衆目の面前で、しっかりと自分の名前を記します。
「わたしは、ダニエル・ブレイク・・・!」



自分は一人の人間だ。
しっかり敬意を払って対応せよ!

ということなんですね。
それを見ていた街の人達が拍手喝采。
ほんの少し溜飲が下がります。


それでもお役所はやはりお役所なので、
彼の主張が通るわけではありません。
収入が途絶え、いよいよ行き詰まってしまう彼ですが・・・。
そんなところへ、ケイティの娘である少女が訪ねてきます。

「あの時、私たちを助けてくれたでしょ。
どうか今度は、私たちに助けさせて・・・」



公平なはずの制度なのですが、
制度としての本来の「心」が失われている。
まずはそういうところがダメなのですが、
でも、人と人がしっかり向き合って心を通わせれば、
実はできることはたくさんあるということでもあります。


それにしても本作のラストがまたショッキングで、
涙がこぼれて仕方ありませんでした。


本作は、先に引退表明をしたケン・ローチ監督が
どうしても伝えたい事があるとして引退を撤回して取り組んだ作品とのこと。
私はこの10年くらいのケン・ローチ作品はほとんど見ていると思うのですが、
本作が一番好きかもしれません。

「わたしは、ダニエル・ブレイク」
2016年/イギリス・フランス・ベルギー/100分
監督:ケン・ローチ
出演:デイブ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケイト・ラッター

社会問題度★★★★☆
満足度★★★★★

わたしはマララ

2016年01月01日 | 映画(わ行)
命をかけても言わねばならないこと



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新年のトップは、この真っ直ぐ前を向いて力強く歩もうとする
一人の少女の物語がふさわしいと思いました。
2014年、ノーベル平和賞を史上最年少で受賞した17歳の少女、
マララ・ユスフザイのドキュメンタリーです。



パキスタンで、学校を経営する父と、文字の読めない母のもとに
長女として生まれたマララ。
パキスタンはタリバンが支配するようになり、
女性の教育を禁止するなどという暴挙に出るようになります。
そんな時、彼女はタリバン支配下の教育事情や暮らしのことを
ブログに綴り始めるのです。
そして、そのことをイギリスのテレビ番組がドキュメンタリーとして放送。
身元が知れてしまった彼女は、タリバンに命を狙われることになってしまうのです。
彼女がまだ15歳のその日、スクールバスで下校途中、
友人の少女たちをも巻き添えにし、マララはタリバンの銃撃を受け、
頭に大怪我を負ってしまうのです。
それでも、無事一命を取り留めた彼女は、再びの攻撃を避け、
現在は父母と二人の弟と共に、ロンドンに暮らしています。



そもそも女性が教育を受けないことは殆どあたり前という土地で、
彼女がこのような成長を遂げたことは、
ただただ、父親であるジアウディン・ユスフザイ氏のおかげなのです。
彼が学校を経営しているので、マララは小さな時からそこに自由に出入りし、
授業や、生徒たちのディスカッションを見聞きしていたといいます。
だからこそ、自分で考え自分の意見をはっきりと主張する、そんな風に成長しました。
そしてそんな彼女を父親も誇りに思っている。


マララの名の由来にも驚かされます。
それはある伝説で、
戦争の時に「勇気を持って敵に立ち向かえ」と皆を率いた少女の名前。
けれど彼女は、その時銃弾に撃たれて亡くなってしまうのです。
その伝説の少女とマララの運命が重なってしまうところがまた凄いのですが、
始めからその名を我が子に与え、
決して女だからと差別せずに教育したというそのリベラルな精神性に感嘆せずにいられません。



この伝説のシーンやマララの小さいころ、ジアウディン氏の昔のことなどは
アニメによって表されているのですが、これがまたいい効果をあげています。
別人を本人に仕立てた再現ドラマ風でないのがいい。
時には状況を単純化したアニメのほうが、
より私たちの感情を揺さぶります。


そんな彼女ですが、私生活は意外と普通の少女です。
ブラピが好きで、宿題に追われ、物理がちょっぴり苦手。
けれどボーイフレンドの話に明け暮れる級友たちとは、やっぱりちょっと距離がある感じ。
生まれ育ったふるさとの家に帰りたいけれども、今は無理。
そんな切なさを決して自分からは、ひけらかさない。


彼女のことを売名行為だとか、演説の原稿は父親が書いているのだろう・・・
などという人のことも本作では触れていました。
でも、彼女はまさに命をかけてこれを言っているのです。

「一人の子ども、一人の教師、一冊の本、一本のペンが世界を変えるのです。」

同じことが私たちにできるでしょうか? 
例えば級友がいじめにあっていても、我が身可愛さに見て見ぬふりをしていないでしょうか。
立派に教育を受けているはずの私たちがそれをできのは、恥ずかしい限り。

日本にいると、実感が無いのですが
「教育」は本当に必要だと思います。
未だに多くの地域で子供たちがさらわれ兵士に仕立てられていたりする現実を考えると・・・。
世界平和の鍵は「教育」にあります。
そしてこの彼女こそが「教育」の賜物、現の証拠。
まだ10代の彼女が、この先どんな人生を送るのか・・・。
この先も応援していこうと思います。

「わたしはマララ」
2015年/アメリカ/88分
監督:デイビス・グッケンハイム
出演:マララ・ユスフザイ、ジアウディン・ユスフザイ、トール・ペカイ・ユズフザイ

わたしに会うまでの1600キロ

2015年09月03日 | 映画(わ行)
自分と向き合う3カ月



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さて、オーストラリアを行く「奇跡の2000マイル」に続いて
今度はアメリカ「わたしに会うまでの1600キロ」。
アメリカ西海岸を南北に縦断する「パシフィック・クレスト・トレイル」という遊歩道を
一人の女性、シェリル・ストレイドが踏破した実話の映画化です。
遊歩道なんていうとなんだか生ぬるく聞こえてしまいますが・・・
男性でも音を上げる険しい山道、酷暑の砂漠などもある
メキシコ国境付近からカナダ国境付近まで続く大変な道のりです。
本作のオフィシャルサイトに、その地図が
日本列島の大きさと比較できるように乗っていますので、ぜひご覧あれ。
日本縦断より長いです。



そもそも、彼女がこの旅を思い立ったのは
母親(ローラ・ダーン)が亡くなり、その虚しさから逃れるために
麻薬とセックスに溺れ、夫と離婚することになってしまった。
そんなどん底の自分から立ち直ろうと思ったのがきっかけです。
映画は、長く険しい道のりを描写する傍ら、
シェリルの脳裏をよぎる過去のフラッシュバックを描写することにより、
彼女がこのような旅に出るまでの出来事をたどることができるようになっています。
シェリルにとって母親は道標であり希望の光だったのでしょう。
暴力をふるう夫と別れシングルマザーとして2人の子どもを育てながら、
いつも明るく前向きだった母。
その母の望む姿こそが自分のあるべき姿だと思っていたシェリルにとって、
母の死は自分の生きる方向を見失うことでもあったのです。



だがしかし、これまで彼女は山歩きの経験も何もなかったのですね。
バックパックに荷物を詰め込みすぎて立ち上がるのもやっと・・・、
歩き始めた直後にすでに後悔。
おまけに靴のサイズが合わずに大変なことに・・・。
テントを張るのも四苦八苦。
うーん、せめてベテランに少しはノウハウを学ぶべきでしたね・・・。
まあ、途中できちんとアドバイスしてくれる方もいて、良かったですが。
でも、いかにもそういう勢いだけで、というところが女性らしいし、
その後呆れるほどの困難に遭いながらも諦めなかったというのが、
やはり女性ならではという気がします。
でも女性の一人旅。
ガラガラヘビよりもむしろ“男”が怖いこともあるのが、辛い。



よろよろといかにも心もとなげな彼女の歩みが、
次第にしっかりしたものに変わっていきます。
大自然の中を一人歩む時、
母と過ごした幸せな時間、そして母の死と、その後の自分の惨めな姿
・・・いろいろなことが頭に浮かんできます。
良いことも悪いことも、全て太陽の光にさらされて、昇華していくような・・・。
そしてまっさらな自分に戻れそうな、そんな気がしてきます。



でも、本作の邦題は、いかにも「自分探し」の旅を強調しすぎていて、
あまり好きではありません。
原題は“WILD”といたってシンプルです。



作中「コンドルは飛んで行く」の曲がずっと見え隠れしていますが、
ラストでやっと実のサイモンとガーファンクルによる曲がかかります。
そういう演出もステキでした!!



そしてまた、エンドロールで実のシェリル・ストレイドさんの写真が紹介されるのですが、
これがまた、目に力のある美しい方。
ロビン・デビッドソンさんと共通の雰囲気が感じられました。


「わたしに会うまでの1600キロ」
2014年/アメリカ/116分
監督:ジャン=マルク・バレ
出演:リース・ウェザースプーン、ローラ・ダーン、トーマス・サドスキー、ミキール・ハースマン、ギャビー・ホフマン

旅の過酷度★★★★☆
達成感★★★★★


ワン チャンス

2015年01月01日 | 映画(わ行)
諦めない「力」は、周りの人々の支えがあるからこそ生まれる


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さて、せっかく元旦なので、今日は少し明るい作品をご紹介することにします。

2007年、イギリスの人気オーディション番組「ブリステンズ・ゴット・タレント」で優勝し、
一介の携帯ショップの店員が一躍世界的歌手になったという、
あのポール・ポッツの実話です。



オペラにはちょっと苦手感のある私ですらも知っている、ポール・ポッツ。
オーディション番組で一躍脚光を浴びたことも知っていましたが、
こうして映画作品としてみると、また一段と親しみを感じます。



イギリスの片田舎。
容姿も冴えず内気な性格で、いつも虐められていたポール・ポッツ。
彼は歌うことが大好きで、オペラ歌手になるという密かな夢を抱いています。
しかし家は豊かではなく、音楽留学なども考えられない。
通常そういうことを学ぶためには莫大なお金がかかります。
共産圏なら別かもしれませんが・・・。
しかし彼は、街の小さなイベントでしたが、
オペラを歌い賞金を獲得して、イタリアでオペラを学ぶ機会を得ます。
そこで彼は水を得た魚のように学び、いろいろなことを吸収しますが、
最大のチャンスの時に極度に緊張してしまったために失敗。
そして失意の帰国。





こんな風に何度も挫折を繰り返しながら、
彼は周りの人々に見守られ、励まされて
ついにあの番組に出場することになるわけです。
父母はもちろんですが、ケータイのメールから交際が始まった恋人や、
ケータイショップの店長も・・・。
もっとも、お父さんの心境はやや複雑のようでしたが。
決して諦めないことはもちろん必要ですが、
その力は一人で湧いてくるものではないのですね。
彼を認め、応援してくれる周囲の人々がいればこそ、
また立ち上がる力が湧いてくるのだと、本作は訴えています。



「誰も寝てはならぬ」は、 荒川静香さんのフィギュアスケートに使われた曲で
私達にも馴染みが深いですが、
ポール・ポッツ氏自身の大好きな持ち歌でもあります。
本作中でそのオペラシーンのストーリーが
チョッピリ説明されていたのも嬉しかった。


ポール・ポッツは、ジェームズ・コーデンが演じていますが、
歌はすべてポール・ポッツ本人が吹き替えています。
う~ん、あの伸びやかな美声をまた聞きたくなってしまいましたねえ・・・。

ワン チャンス [DVD]
ジェームズ・コーデン,アレクサンドラ・ローチ,ジュリー・ウォルターズ,コルム・ミーニイ,ジェミマ・ルーパー
ギャガ


「ワン チャンス」
2013年/イギリス/103分
監督:デビッド・フランケル
出演:ジェームズ・コーデン、アレクサンドラ・ローチ、ジュリー・ウォルターズ、コルム・ミーニー、ジェミマ・ルーパー
「夢を追う」度★★★★★
満足度★★★★☆

ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!

2014年11月23日 | 映画(わ行)
遊び心たっぷり



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一晩で12軒のパブをめぐる「ゴールデン・マイル」に失敗したことが忘れられないゲイリー。
再挑戦するために当時の仲間4名を集め、故郷ニュートンヘイブンへ向かいます。
そんなことが嬉しいのは、高校生のまま大人になったようなゲイリーだけで、
あとの4人はむ昔のよしみで付き合っただけ・・・。
最初の2・3軒はどうにも意気が上がりません。
一人なんか禁酒をしたと言って水を飲んでる・・・。
イギリスの田舎町のパブ・・・そのちょっぴり鄙びた佇まいがいいですよねー。
そんなところで飲むビール。
確かに美味しそう・・・。
もっとも、本作、店の中はみな現代風に改装されて
どの店もみな同じスターバックス風、
・・・なんて皮肉を効かせていましたが。



さて、始めの内こんなふうで、これは酔っぱらいが仕出かすお馬鹿な騒ぎの物語・・・?
と思い始めた頃に事件が起こります。
なんだか町の人々の様子がおかしい・・・。
見た目は普通の人間なのですが、実は機械じかけの“ブランク”で、
いつの間にか町の人々の大部分が入れ替わっているらしい・・・。
そして自分たちも身の危険を感じ始めます。
はじめの目的通りパブ巡りをしたほうが怪しまれないのではないか・・・
ということで、5人はパブ巡りを続けるのですが・・・・。



いつの間にか宇宙の侵略者と戦う物語になってました。
そんな中でもゲイリーはパブ巡りを諦めない。
いくつになっても、子供みたいに馬鹿なことを馬鹿と知りつつやってしまう。
そこが人間の愚かさでもあり、また愛しい部分でもあるわけですね。
ま、いいんじゃないでしょうか・・・。



ワールズ・エンド/酔っぱらいが世界を救う! [DVD]
サイモン・ペッグ,ニック・フロスト,パディ・コンシダイン,マーティン・フリーマン,エディ・マーサン
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン


「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」
2013年/イギリス/108分
監督:エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、パディ・コンシダイン、マーティン・フリーマン、エディ・マーサン、ロザムンド・パイク

酔っ払い度★★★★☆
満足度★★★☆☆

嗤う分身

2014年11月12日 | 映画(わ行)
しびれるほどにユニーク!!



* * * * * * * * * *

ドストエフスキー原作の不条理スリラー
・・・という触れ込みに惹かれまして、拝見。


気が小さくて人付き合いも不器用、
目立たない男サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ)。
向かいのアパートに住む同僚のハナ(ミア・ワシコウスカ)を
密かに望遠鏡で覗き見るのが唯一の楽しみという全くサエない男。

しかしある日、サイモンの職場に彼と瓜二つの男、ジェームズが入社してきます。
彼は明るく、人との会話も流暢で、女あしらいも上手い。
そしていつしか、ジェームズがサイモンの位置に入れ替わって行く・・・。



本作の場の設定がなんとも独特です。
時代も場所も不明。
サイモンの会社は情報処理の会社らしいのですが、
とにかくレトロです。
コンピューターはある。
けれど二時代前くらいの感じ。
オフィスの雰囲気もこれはもう二時代どころではなく100年前くらいの感じ。
デジタルのはずなのですが、
完璧にアナログの雰囲気。
そして、本作すべてが夜なんですね。
日が差し込んでくるシーンがひとつもない。
そう言えば冒頭の電車の中のシーン、
あれは出勤時のことでしたが、地下鉄だったんですね!! 
陰影に隈取られた映像は、カラーではあるものの、ほとんどモノクロに近い。
というところがまたレトロな雰囲気を醸し出しているわけです。
そして、登場人物たちがとにかく無表情。
特にサイモンは・・・。
そんな中で、ただ一人、日向に咲く花のように生きた存在感を見せるのが、
ハナなのであります。
そりゃ憧れるのも無理はない。



さてしかし、突然現れたジェームズとは何者なのか?
おそらくは、普段サイモンが「こうありたい」と願っている自分なのでしょう。
しかし、ここまで瓜二つで、
どうしようもないくらいにダサいスーツまで同じなのに、
そのことを誰もふしぎに思わない。

そして何故か彼らには、この2人の区別がちゃんと付くようなのです!! 
それはもう、片や有能男のオーラを放っており、
片や存在感ゼロの透明人間みたいな男、
ということなのでしょう。
サイモンは入社7年になるというのに、
彼のことをきちんと認識できている人がほとんどいない。
ついには会社のデータから彼のIDが消えてしまえば、
もう誰も彼のことをこの会社の人間だと認めてくれない。
ここのくだりは、個人を人間としてでなくIDで管理してしまう
昨今の風潮への痛切な皮肉にもなっているわけです。


「こうありたい」と願っていたはずの自分に、
「ホンモノ」の自分が抹消されていく・・・。
これはつまり、逆に言うと、
自分は自分のままでいいのだ・・・ということでしょうか。
それとも、自分の中に、別の自分が潜んでいることへの警鐘・・・?
実は誰も他人のことなどちゃんとわかってはいないということ?
まあ、そういう答えは、見た人それぞれの中にある。
そういう作品なのでしょう。
いろいろな思いが巡って・・・だから面白い。
でも、ハナが初めて本当のサイモンの「心」を知るシーンが、
やはりジーンと来ます。



望遠鏡で覗いていた相手が自分に向かて「バイバイ」と手を振り、
その直後飛び降り自殺をする、
ということの繰り返しも効果的でした。


さてそれからまた本作で驚いたのが、突如流れる日本の昭和歌謡。
“SUKIYAKI”つまり、坂本九の「上を向いて歩こう」には
ほとんど泣きそうになりました。
しかし、それだけではなく、
なんとジャッキー吉川とブルーコメッツ「草原の輝き」、「ブルーシャトー」!!
なんと懐かしい!!
しびれるくらいに、ユニークな作品でした!!



「嗤う分身」
2013年/イギリス/93分
監督:リチャード・アイオアデイ
原作:フョードル・ドストエフスキー
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ、ウォーレス・ショーン、ノア・テイラー、ヤスミン・ペイジ

レトロ度★★★★☆
不条理度★★★★★
満足度★★★★☆

わたしは生きていける

2014年09月30日 | 映画(わ行)
自立して“生きていける”



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出生時に母親を亡くしたアメリカの少女デイジー(シアーシャ・ローナン)。
イギリスの叔母やいとこ達と一夏を過ごすために、単身イギリスへやってきます。
仕事に忙しい父親には愛されていないと感じており、
いつもヘッドホンで音楽を聞き、
けばい化粧で精一杯虚勢を張り、
人を受け入れようとしない・・・。


この冒頭、なんだか「思い出のマーニー」を思い出してしまいました。
このトゲトゲしいデイジーを変えていくのは、マーニーならぬ3人のいとこ達。
特に長兄のエディー(ジョージ・マッケイ)には、
出会ってまもなく恋心が芽生えます。



イギリスの美しい田園風景。
そして、あんなにおもいっきり嫌味でいけ好かない態度のデイジーを嫌いもせず、
遊びの誘いをするこの兄弟たちの純朴さ。
そういうものが彼女の凍りついた心を少しずつ溶かしていきます。



さて、ここまではどこにでもありそうなストーリー。
しかし、なんと突如ロンドンでの核爆発テロをきっかけに、
第3次世界大戦が勃発。
デイジーたちは軍に拘束され、離れ離れとなってしまいます。
「何があっても、きっとここに戻ってくるんだ。」
別れ際のエディーの言葉を胸に、
デイジーは軍の施設を脱出し、危険に満ちたサバイバルの旅に出る・・・。



いったい何がどうなって、どことどこが戦争になったのか。
そういうことは一切語られません。
つまり、政治や国際情勢などにはほとんど関心がない子どもたちにとっては、
戦争はそういうものなのかもしれません。
ある日突然やってくる地震や津波と同じようなもの・・・。
叔母は戦争が始まる前に出張で家を出ており、
この困難に子どもたちだけで立ち向かわなければならなかったのです。
というか、仕事に忙しい叔母は家事も何もかも、
子どもたちの世話もほったらかしで、
初めからいないのも同然でした。
にも関わらず、しっかりいい子たちに育ちましたよねえ・・・。
いや、そもそもこんなに多忙なこの人が、
なぜこんなど田舎に住んでいたのかが最大の謎・・・。
まあ、ネットで情報さえ入れば仕事には十分だった、ということか・・・。



もしかしたら本作は、
現在、オトナなどは少しも頼りにならないのだ。
だから自分で生きていかなければならないのだ
・・・という、少年少女に向けた密かなメッセージなのかも・・・。



それにしても、人ときちんと向きあおうともしなかったデイジーが、
まだ幼い従姉妹をかばいながら、生き抜くための旅をする
・・・この目覚ましい成長ぶりが胸を打ちます。
人を生かすのは愛と希望なのだなあ・・・。
ラストが甘くなり過ぎないところも、気に入っています。
無事エディと再開し、
今度はエディに頼りっきりの生活になる・・・
という流れを避けたかったのかもしれません。
デイジーはもはや誰の助けも必要とせずに、“生きていける”のでした。


エディー役のジョージ・マッケイは、
つい最近「サンシャイン 歌声がひびく街」にも出ていました。
一見してハッとするほどのハンサムではないけれど、なんかいいですよね。
こういう感じ、結構好きなのです。
また、別の作品でもぜひお会いしたい!!


「わたしは生きていける」
2013年/イギリス/101分
監督:ケビン・マクドナルド
原作:メグ・ローゾフ
出演:シアーシャ・ローナン、ジョージ・マッケイ、トム・ホランド、ハーリー・バード、ダニー・マケボイ

私の男

2014年07月19日 | 映画(わ行)
氷に閉ざされた地で



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禁断の衝撃作・・・ともいうべき作品です。


「地獄でなぜ悪い」と「ヒミズ」で
二階堂ふみさんには衝撃を受けていたので、
本作もきっとやってくれるに違いないとほぼ確信を持っていました。



北海道出身の熊切和嘉監督らしい前半部分の舞台。
奥尻島の災害で10歳にして孤児となった少女・花が、
遠縁の男・淳吾(浅野忠信)に引き取られます。
この子供時代の花は山田望叶さんが演じているのですが、
イメージとして確かに二階堂ふみさんの子供時代っぽいばかりでなく、
魂が抜けたように表情がないのがスゴイと思いました。
特に、淳吾のあるセリフに反応した時の目が、忘れられないのですが、
あとから思えばなるほど、
少女はその時にすべてを見抜いていたということになるのです・・・。
う~ん、これだからぼんやり見ていられない。



二人は北海道紋別の田舎町で暮らします。
冬には流氷が訪れ、流氷がこすれあってギシギシ音を立てている。
・・・というか流氷は見に行ったことはありますが、
こんなに間近で見たことはないので、こんな音は初めて聴きました。
この臨場感はスゴイ。
成長した花に、二階堂ふみさん、バトンタッチ。
この町で、孤独な二人が、互いの心の隙間を埋めるように
心ばかりか体をも寄せあっていく。
男が幼女を引き取り成長すると男女の関係になっていく
・・・というのはそれだけでも隠微なのですが、
実はそれ以上のインモラルが潜んでいます。
血の雨が滴るシーンは、やはり衝撃的でした。





やがて町の世話役的老人が流氷の上で死体で発見され、
その後この二人は東京に出ます。
しかし、生活は荒び、家の中はほとんどゴミ屋敷。
花は服装だけは身ぎれいにし、普通にOLとして仕事に出ていますが・・・。


「私の男」という題名でもわかる通り、
本作、実は二人の関係を支配しているのは女のほうなのです。
いみじくも幼い花に向かって淳吾はこういっていた。
「今日から俺はおまえのものだ。」
決して「おまえは俺のものだ」ではなく。



女は自分のために流氷の海に飛び込むこともいとわない。
そうした“生きる”ことに貪欲な彼女の怪しい魔力に、
男はなすすべなく絡め取られ魂を抜かれていくしかない・・・。
氷に閉ざされた地で起こる隠微で悲惨な出来事。
インパクト大。
そして怖いですね・・・。


「私の男」
2013年/日本/129分
監督:熊切和嘉
原作:桜庭一樹
出演:浅野忠信、二階堂ふみ、高良健吾、藤竜也、モロ師岡

インパクト★★★★★
満足度★★★☆☆
(作品のデキと好みは別ということで、ご勘弁を・・・)

笑の大学

2014年06月11日 | 映画(わ行)
チャーチルの握った鮨なんか食えるか

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三谷幸喜作舞台脚本を自身で脚色、映画作品としたものですが、
監督は務めていません。


舞台は昭和15年。
世情不安定、今しも日米開戦の幕が開けようとする寸前。
警視庁保安課検閲係向坂(役所広司)と
検閲を受ける脚本家たちの面談室が主な舞台。
ある日、劇団“笑の大学”の座付作家・椿(稲垣吾郎)が
次回上演予定の自らの脚本を持ってやってきます。
向坂は“笑い”を一切解さない男で、
椿の台本をビシビシ叩いていきます。
台本がここの検閲を通らないと、上演することができないのです。
しかし椿は向坂の無理難題を引き受け、翌日には直した原稿を持ってくる。
そんなことが1日、2日、3日・・・と続いていくのですが、
通い詰めるうちに不思議な連帯感を抱いていく二人。
お笑いには一切興味がなかった向坂が、密かに椿の劇場に足を運んだりもするのです。


「思想統制」という重い時代を描きつつ、
人情とお笑いでホロリとさせるシャレた一作。
役所広司さんの笑いながら怒るという演技が見もの。
そして稲垣吾郎さんの一途で生真面目な好青年ぶりがなかなかいいんだなあ。
彼の“闘い”ぶりをご覧あれ。


劇中劇といいますか、椿の書いている台本が面白そうなんですよ。
始めはなんと「ジュリオとロミエット」。
そう、「ロミオとジュリエット」のパロディなんですね。
ところが向坂が、「敵国毛唐が主役の劇などまかりならん」というものだから、
金色夜叉の「貫一とお宮」に置き換えることになってしまいます。
この劇も是非通しで見てみたかったですね・・・!

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三谷幸喜,三谷幸喜
東宝


「笑の大学」
2004年/日本/121分
監督:星護
原作・脚本:三谷幸喜
出演:役所広司、稲垣吾郎、高橋昌也、小松政夫

反骨度★★★★☆
ユーモア度★★★★☆
満足度★★★☆☆

180°SOUTH

2013年09月06日 | 映画(わ行)
きわめてメッセージ性の高いドキュメンタリー



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まず登場するのは、有名なアウトドアブランド
「パタゴニア」、「ザ・ノース・フェイス」の創業者である
イボン・シュイナードとダグ・トンプキンス。
この二人は60年代の終わりに一緒に南米パタゴニアの旅をしています。
ほとんど人跡未踏のその地を、様々な困難に見まわれながら、
彼ら自身の冒険心と体力に任せて旅をした。
この旅こそ、彼らがアウトドアブランドを立ち上げたきっかけとなったわけです。


さて、現代のアメリカ青年ジェフ・ジョンソンが、
この二人の旅の記録を見て、
同じパタゴニアの旅の追体験をしようと思い立ちます。
ジェフはこの壮大な自然の旅で何を思うのか・・・、
すばらしいドキュメンタリー作品です。


ジェフは船でパタゴニアに向かう途中、
アクシデントで一旦イースター島に上陸します。
そこで、ひとつの文明が環境を破壊したために、
文明も滅びなければならなかったという島の歴史を知ります。
このことが本作では非常に重要なメッセージとなっているのでした。


たどりついたパタゴニアは、実際ほとんど手つかずで、
昔イボンとダグが旅したその時のままのように思えます。
けれどもその近辺では
工場の排水が海を汚し、川にはダムが作られようとしている。
自分達の便利さと引き換えに環境を破壊し尽くした結果どうなるのか・・・、
ジェフはイースター島の歴史とひき比べずにはいられません。
ところどころアニメも挟んで、
非常にメッセージ性の高い作品になっていると思います。
そのために、雄大なパタゴニアの風景もたっぷり入っています。


そしてまた、イボン・シュイナードは
この自然を守るため、パタゴニアの土地を買い集めているということを初めて知りました。
アメリカ人が土地を買いあさっているということで、
地元では非難の声もあるのだとか。
確かに、自然を守るというのは都会人の身勝手なのかもしれません。
本当は地元の人々は開発を望んでいるのかも。
でも地元でも開発を苦々しく思う人がいることも確かです。
もしかしたら、このパタゴニアが、
地球上で最後に残された自然の聖域となってしまうかもしれません。
そうならないことを祈りつつ・・・。


本当の「旅」とはこういうことなんだなあと痛感。
でも、ほとんど体力勝負。
ある程度の資金とあり余る時間が必要だ・・・。
う~む、まねできない・・・。
やはり私にできるのは「観光」止まり(T_T)
そして、本作はぜひ劇場の大画面で見るべきでした! 
失敗!!

ワンエイティ・サウス 180°SOUTH [DVD]
イヴォン・シュイナード,ダグ・トンプキンス,ジェフ・ジョンソン,マコヘ,ティミー・オニール
キングレコード


「180°SOUTH」
2009年/アメリカ/87分
監督・脚本・編集:クリス・マロイ
出演:イボン・シュイナード、ダグ・トンプキンス、ジェフ・ジョンソン、
キース・マロイ、ティミー・オニール

大自然度★★★★★
メッセージ性★★★★★
満足度★★★★★