例えば、冒頭で主人公のベイビーたちが襲撃する銀行の名前が「アトランタ第一銀行(The First Bank of Atlanta)」で次に襲撃した郵便局の名前が「合衆国郵便局(United States Post Office)」で、明らかに適当につけた名前からしてリアリティーを無視した本作は、観客もそれを踏まえた上で「ミュージカル」として観るべきで、車の扉を閉める音や鳴り響く銃声の「リズム」はそれほど耳を凝らさなくてもBGMとリンクしていることが分かるものだが、ベイビーが行き先々で採録した音でリミックスした曲のカセットテープが象徴しているように、本作の映像も細かいカットによる「ギャング映画」のリミックスなのである。 そして目まぐるしいリミックスに疲れ、警察に追い込まれて逮捕されるベイビーのシーンにかかっているBGMが、「MAMA」とラベリングされた、人の手が加えられていないベイビーの母親の「生」の歌声の「イージー(Easy)」である。ここではベイビーの母親を演じたスカイ・フェレイラ(Sky Ferreira)のヴァージョンをストーリーを勘案しながら和訳しておきたい。監督のセンスの素晴らしさが感じられる。