MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『アクト・オブ・キリング』

2014-10-27 00:14:34 | goo映画レビュー

原題:『The Act of Killing』
監督:ジョシュア・オッペンハイマー/クリスティーヌ・シン/匿名者
撮影:カルロス・アロンゴ=デ・モンティス/ラース・スクリー
出演:アンワル・コンゴ/ヘルマン・コト/アディ・ズルカドリ/イブラヒム・シニク
2012年/イギリス・デンマーク・ノルウェー

 「ハリウッド映画」を超えた結果について

 1965年インドネシアで起こった「9月30日事件」の加害者たちに当時の様子を再現してもらったという本作の主人公となったアンワル・コンゴは自分でも1000人は殺していると豪語している。もちろん本人は正義のために共産主義者たちを殺したことを誇りに思っているのである。
 試行錯誤の末に針金を首に巻いて殺すことが一番殺しやすいことが分かり、実際にやって見せたりするのであるが、映画撮影の初日あたりに政府の要人が激励に訪れた際に、彼らの尋常ではないシュプレヒコールを聞いて恐怖を感じ、「正しく」叫ぶように注意を促す。次に小さな村に住む女性や子供たちを虐殺するシーンを撮るのであるが、撮影が終わってもなかなか泣き止まない子供たちや失神してしまった女性を見たあたりからアンワルは自分の行動に疑問を抱くようになる。どのような経緯があったのか分からないが、アンワルが取り調べられる共産主義者の役を演じて、同志のヘルマン・コトがアンワルの首に針金を巻いて殺そうとするシーンが撮られると、アンワルは気分が悪くなって止めてしまう。そして後にそのシーンを2人の孫と一緒にテレビで見ようとするのであるが、自分の悲惨な姿を見たアンワルはようやく殺された側の人間の気持ちが理解できるようになった。ラストにおいて再び針金を首に巻いて人を殺した現場を訪れたアンワルは何度もえずく。年老いて急にそれまで持っていた価値観が完全に崩壊する人の姿を私たちは目撃することになる。
 しかし疑問が湧かないことはない。例えば、アンワルは子供の頃から今まで喧嘩などで一度も負けたことがないのだろうか? 普通は誰もが百戦錬磨の中でも形勢が不利な経験もしており、負けた人間の気持ちも分かるからアンワルの仲間たちは精神科を受診していたりするのである。何よりも価値観がひっくり返ってしまったアンワルがその後どうなったのか知りたいのであるが、おそらく続編の『The Look of Silence』(2014年)で描かれているのであろう。
 戦闘中はアンワルたちはハリウッド俳優を気取って人を殺していたようであるが、名前を挙げられたジョン・ウェインやマーロン・ブランドは既に亡くなっているから仕方がないが、アル・パチーノには本作の感想を訊いてみたいものである。
 もしも本当にこのドキュメンタリーで描かれている「本作」が完成するならば、アレハンドロ・ホドロフスキーばりの奇抜で斬新な作品になるように思うのだが、いつか観られるのだろうか?


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