
原題:『恋人たちは濡れた』
監督:神代辰巳
脚本:神代辰巳/鴨田好史
撮影:姫田真佐久
出演:中川梨絵/絵沢萠子/薊千露/大江徹/堀弘一/清水国雄/高橋明
1973年/日本
「こんにちは」と「さようなら」の間を生きる意味について
主人公の中川克は久しぶりに故郷の千葉県船橋市に戻って地元の映画館のフィルム運びをしている。何故か自身の素性を隠したままで、旧友たちが声をかけても知らんぷりをしている。
本作には三波春夫の「世界の国からこんにちは」(1967年)と都はるみの「好きになった人」(1968年)が交互に流れ、必然的に克は「こんにちは」と「さようなら」の間をたゆたうことになるのであるが、それに伴い克の人間関係は歪んでしまっているように見える。自分の母親を目の前にしても何の感動も得られないのであるが、夫を持つ映画館主のよしえと不倫の関係を持ち、夫がその事実を知っていることを知ると克はよしえに興味を失い、よしえは首つり自殺を試みるが失敗する。克は草原で安藤洋子とボーイフレンドの光夫がセックスしているところを何のためらいもなく覗き見している。
女性に不自由しているのかと勘違いした光夫は幸子という女性を克に紹介するが、「禁忌」を犯すことでしか他人と交われない克は幸子の機嫌を意図的に損ねて強姦してしまうのである。克と光夫と洋子は奇妙な三角関係を築くことになり、砂漠で馬跳びなどをして戯れるのであるが、克が洋子に自分は雇われて人を殺したと本音を明かした瞬間、突然現われた男に刺され、克は一緒に自転車に乗っていた洋子と共に海中に消えてしまう。克に安定した生活は許されなかったのである。
克が働いていた映画館では『淫獣』や『濡れた唇』などがかかっておりポルノ映画専門館のように見えたが、「小人200円、中学生250円」と窓口に書かれていたのはギャグだったのだろうか。