原題:『Bel Canto』
監督:ポール・ワイツ
脚本:ポール・ワイツ/アンソニー・ワイントラーブ
撮影:トバイアス・デイタム
出演:ジュリアン・ムーア/渡辺謙/加瀬亮/セバスチャン・コッホ/エルザ・ジルベルスタイン
2018年/アメリカ
占拠事件の緊張感の無い演出について
1996年に実際に起こった在ペルー日本大使公邸占拠事件にインスパイアされたアン・パチェットの小説『ベル・カント』を原作とした作品なのだが、パーティーが開かれていた副大統領邸がテロリストに占拠された深刻な事件の割には邸内の緊張感は薄く、見張りの目をかいくぐって主人公で日本人実業家のホソカワと有名なソプラノ歌手のロクサーヌ・コスがベッドインできたり、ホソカワの通訳を務めているゲンと女性のテロリストが恋愛関係に陥り、愛し合ったりしているのである。そもそもその通訳の名前が「ワタナベ・ゲン」で余りにも安易すぎる。
しかし本作の最大の問題は時間経過が全く分からないことである。テロリストの首謀者が最初の一週間は壁に目印を付けていたので分かったが、その後、どれくらいの時間をかけて人質が救出されたのか(実際の事件は約四か月)全くもって分からないために、緊迫感が無くなったと思う。歌の吹き替え時のジュリアン・ムーアの、ルネ・フレミングの声の口パクも口が上手く合っておらず、もはや演出そのものに緊張感が感じられないのである。